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Withコロナを「手抜き食」で乗り切ろう

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
焼きそばに冷凍シーフードを炒めて乗せるだけで、味も栄養価もグンとアップする。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■主食・主菜・副菜をそろえるのが食事の基本

 食べやすく・おいしく・比較的価格も安上がり、ということで外食では「一皿物」が大人気である。一皿物というのは、筆者が近著で提唱したことば(概念)で、「主食と主菜と副菜が1つの器に盛られている料理」のこと。

 主食というのは、文字通り日本人の「食事の中心」となるご飯・パン・麺類のことで、主たる栄養素は糖質。主菜というのは「メインのおかず」で、食材としては肉類や魚類が中心。その主たる栄養素はタンパク質。副菜というのは「小さなおかず」のこと。食材としては野菜・芋・豆・海藻類などで、微量栄養素と呼ばれているビタミンやミネラルの供給源となる。

 30年ほど前、日本人の食事では、この主食・主菜・副菜が食卓に並ぶことが多く、結果的に栄養素バランスが整いやすかったと考えられている。いわゆる日本型食生活と呼ばれているパターンだ。勘違いがあるようなので、解説しておくと、健康にいいといわれているのはこの日本型食生活であって、いわゆる和食ではない。和食に、乳製品や果物や肉類などの洋風の食材が適量加わった日本型食生活こそが「栄養バランスがいい食事」である。

 多くの人がイメージしやすい日本型食生活のパターンとしては「食堂の定食物」がある。サバの味噌煮定食とかしょうが焼き定食などだ。最低でも器の数は4つくらいあろう。その定食物の対極にあるのが冒頭に書いた「一皿物」だ。すべてを1つの器(どんぶりであることが多い)に盛ってある。栄養バランスは整いにくいのだが、早い・安い・その割りにはおいしいなどの理由で人気がある。「お手軽」ゆえに、ビジネスパーソンはどうしても「一皿物」の頻度が高くなるので、栄養バランスには気をつけたい。

■新型コロナ下で家庭でも「一皿物」が増えてきた

 COVID-19(以下「新型コロナ」と略)の影響で、このところ、ビジネスパーソンだけではなく、家庭での食事でもこの「一皿物」が増えてきているようだ。ある調査では新型コロナ緊急事態宣言の前後で、炊き込みご飯・焼きそば・ピザ・チャーハン・お好み焼き/たこ焼きなどが、朝食・昼食・夕食ともに増加していることがわかった。

 (株)リンクアンドコミュニケーション所属の管理栄養士・佐々木由樹氏は、これらの料理に共通するのは「一度にたくさん作れて、取り分けて食べることができる」「子供の好物で、家族一緒に食べられる」「短時間で作ることができる」の3点だと指摘する。もちろん「経済的に安くできる」ことも重要な要素になる。その結果、必然的に、前項で書いた「一皿物」が家庭でも増えてくる。

 「主食・主菜・副菜の3つが揃っていればまだいいほうで、主食に少し何かを加えただけの食事--味つき主食とでも呼んだほうがいいような物が増えてしまいます。自宅で毎日三度三度の食事を準備するのはとても大変なことなので、事情はよく理解できるのですが、それではやはり栄養バランスが崩れてしまうでしょう」と佐々木氏は懸念する。

■せめて「ほんの一手間」加えよう

 「毎食毎食、栄養バランスが整っている必要はありません。新型コロナ下でそれを実現するのはほとんど不可能でしょう。でも、栄養の偏った食事が長期間続くと、健康に悪影響が出てきます。とりわけ、子供にとっては非常に好ましくありません」と佐々木氏。

 そこで、佐々木氏が提案する「ほんの一手間加える」栄養バランス調理法をご紹介する。

・炊き込みご飯:「炊き込みご飯のもと」だけを入れて炊くのではなく、冷凍のミックスベジタブルや鶏肉を加えて炊く。

・焼きそば:ざく切りキャベツや冷凍シーフードを炒めて、焼きそばに混ぜる。インスタント焼きそばなら、この具をインスタント麺の上に乗せる。

・ピザ:ピザはチーズが使ってあるので、プラスするのは野菜だけでOK。最も簡単なのは冷凍ピザにスライストマト。チョット贅沢して宅配ピザをとった場合でもスライストマトを乗せるとおいしさがグンとアップする。

・チャーハン:冷凍のミックスシーフードで驚くほどおいしくなる。

・お好み焼き/たこ焼き:この2つが増えているのはちょっと意外だが「いっしょに作ると子供が喜ぶ」という要素が大きいようだ(ちなみに、関西地区では1家に1台たこ焼き器があるという)。子供が大好きということではお好み焼きに冷凍コーンを入れるといい。

・麺類:そうめんやパスタやうどんは、ゆでるときに刻んだ野菜(キャベツなど)をいっしょにゆでる(麺のゆで時間と野菜のゆで時間が異なるので、時間差攻撃でゆでること)。野菜入り麺類を器に盛り、ツナ缶やサバ缶などを乗せると抜群においしくなる。

■冷凍食品と缶詰はいつでも「強~い味方」

 佐々木氏の提案には共通点があることにお気づきだろうか。基本的には「主食」である食材(ご飯・麺・パン)に、「主菜」となる食材(肉や魚)と「副菜」に使われる食材(野菜類)を加えて栄養バランスをとる工夫をしてあることだ。

 加える食材としては冷凍食品と缶詰が多い。この2つは、季節を選ばずに手に入れることができ、保存がきき、強い塩分や糖分で味付けをしてないものが多いので、ものすごく使いがってがよい。価格も安定しているので、必需品だ。

 素材で多いのがトマト。今ではほぼ1年を通して流通しているし、栄養成分も豊か。何より、野菜の中では特別といってもいいくらいに旨み成分(アミノ酸類)を豊富に含んでいる。欧米では、トマトは生鮮食品としての消費量よりも調味料(ケチャップ)等の加工用消費量のほうが多いことが、そのことを端的に示している。

 佐々木氏は「食べ物として重要なことは栄養成分だけではない」と考えている。管理栄養士として栄養バランスがとれていることはとても重要なことだが、それ以外にも、手軽に作れることや経済的であること、そして何よりも「おいしいこと」が大切だというのが、佐々木氏の信念でもある。トマトを使うことによって、「手抜き料理」がひと味もふた味もアップすると、強調する。

 つねに栄養バランスを考えて食べることは、健康的な生活の基本である。しかし、この新型コロナ下の生活が長く続くと、理想的なことばかりいってはいられない。かといって「まったくおろそかにしてしまう」と、いずれそのツケは「生活習慣病」となって本人に跳ね返ってくる。「手抜き」といわれてもかまわない! 私たちが直面する「初めての経験」を、知恵と工夫で乗り切ろうではないか。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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