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シリア:OPCWはシリア軍による化学兵器使用を再び断定、政府はこれを「虚偽報告」と非難し、全面否定

青山弘之東京外国語大学 教授
OPCW、2021年4月12日

OPCWが新たな報告書を発表

化学兵器禁止機関(OPCW)は4月12日、シリアでの化学兵器使用疑惑事件にかかる調査識別チーム(IIT)の第2回報告書(65ページ)を技術事務局の覚書(S/1943/2021)として公開した。

報告書は、OPCWの事実調査団(FFM)、複数の当事国などから入手した情報、事件現場にいたとされる人へのインタビュー、被害者や被害現場から採取されたとされるサンプルや残骸、衛星画像、専門家の意見をもとに、2020年4月から2021年3月にかけて実施された分析調査に基づくもの。

2018年2月4日にイドリブ県サラーキブ市で発生した化学兵器使用疑惑事件を中心に調査が行われ、「虎部隊」(スハイル・ハサン准将指揮下の部隊)に所属するシリア軍のヘリコプター1機から投下された少なくとも1本のシリンダーに装填されていた塩素ガスが飛散し、12人が被害を受けたと結論づける合理的な根拠があると結論づけた。

なお、第1回報告書は2020年4月8日に公開され、2017年3月24、25、30日にハマー県ラターミナ町で発生した事件について、シリア軍の関与を断定していた。

シリア政府は否定

これに対して、シリアの外務在外居住者省は声明を出し、IITの第2回報告書に関して、「米国とその西側同盟国が化学兵器禁止条約(CWC)の規定を改ざんして設置し、シリアおよび多くのCWC加盟国が違法で非公認だと主張するチーム」による「虚偽報告」と断じた。

声明はまた、報告書が、テロ組織「ホワイト・ヘルメット」、シリアに敵対する一部諸外国の諜報機関が提出した偽の証拠に基づいて、捏造された結論を導出し、シリア政府に有毒ガスを使用した嫌疑をかけるものだと批判した。さらに、調査チームは現地で実地調査を行わないまま、客観的な手順を踏まずに調査を行ったと非難した。

そのうえで、報告の内容をその詳細にいたるまで全面的に否定、シリア軍がサラーキブ市を含むいかなる場所においても化学兵器を使用したことはないと改めて主張した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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