金総書記がICBMの発射に妻子を立ち会わせた謎
今朝の北朝鮮の報道には驚かされた。なんと、18日の大陸間弾道ミサイル「火星17」の発射場に金正恩(キム・ジョンウン)総書記だけでなく、夫人と娘が立ち会っていたのだ。
一般的には危険な場には女性や子供は遠ざけるものだが、北朝鮮の場合、おかまいなしのようだ。
金総書記と李雪主(リ・ソルジュ)夫人の間に子供が何人いるのか、正確なことは何一つわかっていない。韓国の情報機関・国家情報院ですら把握できていない。
伝えられるところでは、どうやら3人いるようだ。2010年、2012年、そして2017年に生まれているが、「娘だけ3人」の説もあれば、「最初の子が男子」との説もあれば、「3人目が息子」との話もある。
プロバスケットボール(NBA)の元スター選手、デニス・ロッドマン氏が2013年9月に訪朝し、金総書記の別荘に招かれた際に次女の「金主愛(キム・ジュエ)」と言う名の女の子を紹介されている。
外見からすると、父親と一緒に同行した娘が12歳の長女なのか、それとも10歳の次女なのかは不明だ。
金総書記の軍事関連視察には金ファミリーでは実妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長が随行するケースが多いが、そもそも李夫人自身が同行すること自体が稀である。
金正恩政権になった2012年7月25日に行われた陵羅人民遊園地竣工式で「夫人である」と初めて紹介されて以来、李夫人は公式の場に姿を現すようになったが、軍関連の視察は2013年6月18日の空軍飛行訓練と2016年12月4日の空軍指揮官らの戦闘飛行術競技大会、それに今年10月にあった戦術核運用部隊による超大口径放射砲射撃訓練の3度しかない。
過去に1度だけ、国際社会が長距離弾道ミサイル「テポドン」とみなしている「人工衛星」発射成功祝賀宴に出席したことがあったが、2017年の「火星14」や「火星15」の発射も含めて長距離弾道ミサイルの発射に立ち会ったのは後にも先にも今回が初めてである。また、金総書記が公式活動に娘をお披露目させたのも今回が初めてである。
米国との軍事緊張が高まっている最中に夫人だけでなく、娘までミサイルの発射に立ち会わせるとは正直驚きである。ロイヤルファミリーは保安上、一般公開しないのが北朝鮮の言わば「鉄則」である。金総書記は大胆不敵にもそうした鉄則を破り、娘を公開したことになる。
さらに「火星17」が発射されたのは金曜の午前10時過ぎである。ということは、学校を休ませて連れてきたことになる。北朝鮮の人民が見れば、どう思うだろうか?
将来後継者にするため披露目したとはとても考えにくい。まだ子供なので自身の身の回りを世話させるために連れてきたわけでもなさそうだ。
あえて大胆な解釈をするならば、妻子を、特に子供をICBM発射場に連れてくることで米国や国際社会に北朝鮮が戦争よりも平和を希求していることのメッセージを発信することにその狙いがあるのかもしれない。
金総書記は米国に向けて「敵が核打撃手段を頻繁に引き込みながら引き続き威嚇を加えてくるならば我が党と共和国政府は断固と核には核で、正面対決には正面対決で応える」との警告を発していたが、その一方で「自分らの安保環境を改善するためには賢明な選択を再考しなければならない」と呼び掛けていた。米国が軍事演習を止めれば、北朝鮮も引く用意があることを仄めかしているようでもある。
金総書記は2018年6月にシンガポールでの首脳会談でトランプ前大統領に対して「私も子を持つ親である。核を持ったままの世の中を子供らに引き渡すわけには行かない」との趣旨の発言をして、非核化の意思を表したことがあった。
今回、米国を標的にした核搭載の大陸間弾道ミサイルの発射に子供を引っ張り出したのは北朝鮮が望んでいるのは米国との核戦争ではなく、子供らのための未来志向の関係を築くことにあることを訴えるためのパフォーマンスのような気がしてならない。そうでなければ、金総書記の単なる気まぐれに過ぎない。
なお、北朝鮮が娘を披露したことで皮肉なことに英国のメディアや韓国のメディアが騒いだ今年9月の建国イベントに登場した赤いスカーフの女児が別人であることが判明した。