「リアル北斗の拳」と呼ばれるソマリアの今-急拡大する電子マネー
インターネットスラングで「リアル北斗の拳」と呼ばれることもある、東アフリカの国ソマリア。
実は、数年前から電子マネーが広く利用され、キャッシュレス化が進んでいます。
モガディシュの電子マネー事情
首都モガディシュで最も広く普及している電子マネーは、ソマリア最大手の電気通信事業者・Hormuud社が2011年から導入している「EVC-plus」と呼ばれるシステム。日本で主流のSuicaやICOCAのような非接触型ICカードとは異なり、携帯電話の電波(データ通信ではなく3G回線)を利用したプリペイド方式です。
使い方は簡単。使用している携帯電話のSIMカードを「EVC-plus」のシステムに登録し、暗証番号を設定、あとは現金をチャージすれば、ものの5分で使えるようになります。
通話で使用するのと同じ電波を使うSMS(ショートメッセージサービス)でシステムとのやり取りは進むため、データ通信ができない古い型のガラケーでも大丈夫です。
SIMカードの登録と現金のチャージも、わざわざ電話会社や登録専用の店舗に出向く必要はありません。いつも利用している食料品店、行きつけのレストランやカフェ、お気に入りの衣料品店など、EVC-plusを扱っている店であればどこでも可能です。
ソマリアでキャッシュレス化が進んだ理由
我々のような外国人がソマリアを訪問した際に使用するのは基本的に米ドルですが、一応ソマリアにも、ソマリアシリング(SOS)という通貨が存在し、現在も市井の人たちは使用しています(※1)。
しかし流通している紙幣は、1991年に倒れた旧政権時代に発行されたもの。おまけに1996年には、6人の個人が、それぞれ個別に外国で刷った1000SOS紙幣(最高額紙幣)を、総額5950億SOS(当時のレートで約250億円)分持ち込んだりと、自由奔放な通貨なのです(※2)(※3)。
ではなぜ、通貨までカオスと化しているソマリアで、電子マネーが普及したのか?
それは以下の4点が大きな理由だと考えられます。
- 内戦で国の基幹システムが破壊され、現政府が成立した2012年以降も中央銀行が通貨を発行できていない(※4)。
- 治安が悪く、現金を持ち運ぶにはリスクが伴う。
- 日本のATMのように、簡単に現金を引き出せる場所やシステムが存在しない。
- すでに隣国ケニアで大成功を収めている「M-pesa(エムペサ)」と呼ばれる電子マネーのノウハウを利用できた(※5)
ソマリアの一人あたりGDPは144.5米ドル(※6)。単純に365日で割ると、1日あたり約0.4米ドルです。先の記事(自撮り棒とIED[即席爆発装置])で、私が自称空港職員に支払った5~7米ドルは、半月分の生活費に該当します。
つまり、市井の人にとって、米ドルは単位が大きすぎて実生活では役にたたないのです。
強引に例えるなら、私たちの日々の生活から硬貨と小額紙幣がなくなり、1万円札だけで生活しなくてはならないというイメージでしょうか。
現在、16歳以上の73%が電子マネーを利用しているといわれるソマリア(※7)。
世界的に従来の通貨の位置づけが変わりつつある昨今。
21年間無政府状態であったがゆえ、独自の進化を遂げつつあるソマリアの金融事情から目が離せません。
(※1)厳密にいうと、現政府が発行していないので通貨とはいえないかもしれません。
(※2)参考元 http://www.pjsymes.com.au/articles/somalia(part3).htm
(※3)大量の現金(偽札ですが)が流入したことでソマリアシリング(SOS)は暴落。偽札作りはコストに見合わなくなり、その後2度と作られることはありませんでした。その結果、皮肉なことにSOSの発行高が固定され、1996年3月は「1米ドル=約2620SOS」だったレートが、2012年の連邦政府成立を気に高騰し、2018年3月2日現在「1米ドル=約558SOS」まで上昇しています。
(※4)現ソマリア中央銀行も新たに紙幣と硬貨を発行しようとしています。しかし希望する発行高が多すぎること、またキャッシュレス化が進みすぎているがゆえ経済に大きな影響を与える可能性が高く、現状、ドナーであるIMF(国際通貨基金)や世界銀行の腰は重くなっています。
(※5)Wikipedia Mペサ
(※6)参考元 UNdatahttp://data.un.org/en/iso/so.html
(※7)参考元 世界銀行 http://blogs.worldbank.org/nasikiliza/a-game-changer-the-prospects-and-pitfalls-of-mobile-money-in-somalia