年間270万人が感染症で命を落とすアフリカにとって、新型コロナは真の脅威なのか?
日本では緊急事態宣言の延長について検討されていますが、5月に入りアフリカでも、ロックダウンを延長する国や段階的に解除しはじめる国など、対応に差が生まれてきています。
2020年5月3日時点の、アフリカにおける感染者数は42,713人。
死亡者数は1,754人。回復者数は14,152件となっています。
最も感染者が多い国は南部アフリカの南アフリカ(6,336人)。南部アフリカのレソトは、未だ感染者0人です。
死亡者数が多いのは北部アフリカのアルジェリア(459人)ですが、感染者は存在しても1人も死亡者を出していない国も、ルワンダ、ウガンダ、マダガスカルなど10ヵ国あります。(アフリカ疾病予防管理センター)
各国の報道やSNSへの投稿を見ていても、発表されている数字と実態が乖離してはいないようなので、医療基盤の脆弱さを加味すると大健闘してるといえます。
しかしその一方で、「このまま先進国と同様の対策を取り続けることが、アフリカにとって本当に最良の選択なのか?」という疑問の声が上がり始めているのです。
12億人中6億人以上が20歳未満のアフリカ
新型コロナウイルスは、高齢者ほど重症化するリスクが高いといわれています。
世界で最も感染者と死亡者が多いアメリカの「人口中位年齢・20歳未満・60歳以上の人口の割合」は、それぞれ「38.3歳・25.3%・22%」。
ヨーロッパで最も多くの死亡者を出しているイタリアは「47.3歳・18.1%・29%」です。(日本は「48.4歳・17.3%・33.7%」)
一方、アフリカ54ヵ国の中では、最も人口中位年齢が高いモーリシャスが「37.5歳・25.3%・17.2%」、低いニジェールは「15.2歳・60.7%・4.1%」。アフリカ全体は「19.7歳・51%・5.4%」>
アフリカは、世界で最も若い世代が多い地域なのです。(国際連合「World Population Prospects」人口中位年齢は2020年、年齢別の割合は2018年)
そして同時に世界で最も貧しい地域でもあり、サハラ砂漠以南のアフリカでは、新型コロナ以外の感染症で、年間270万人が命を落としています。
特に5歳未満の子どもへの影響は深刻で、死亡者の30%弱、77万8千人を占めているのです。
2016年だけで、マラリアは1億9550万人の罹患者を出し、死亡者は40万8千人。うち27万8千人が5歳未満の子どもです。
HIV/ エイズによる死亡者は72万人、5歳未満は5万7千人。結核は40万5千人が死亡し、5歳未満は1万7千人。
さらに下痢症でも65万3千人が死亡し、25万5千人を5歳未満の子どもが占めています。
(WHO/CAUSE-SPECIFIC MORTALITY, 2000 to 2016)
下痢症にいたっては、安全な水へのアクセスを確保し衛生環境を改善すれば、大半の命を救える疾病であるにも関わらずです。
感染症以外の栄養不良に起因する合併症や他の疾病・事故なども含めると、サハラ砂漠以南のアフリカでは、年間174万人、5歳未満の子どもの命が消えています。
世界的な新型コロナ対策は、その数をさらに増やしてしまう可能性が高いのです。
ロックダウンで高まる食料危機
今年2月から3月にかけて、東部アフリカを襲ったサバクトビバッタ。凄まじい数のバッタが飛び交う映像は、日本のメディアでも取り上げられたため、記憶に残っている方も多いでしょう。
あの20倍ともいわれる第二波が、再び同じ地域を襲う可能性が高まっています。
今年初頭から同地域には、飢饉の発生を警告する国際的な組織であるFEWS NET(国際飢饉早期警告システムネットワーク)が、最高レベルの「レベル5・飢饉」に次ぐ「レベル4・非常事態」を南スーダン東部に、「レベル3・危機的状況」をエチオピア、スーダン、ソマリアに出していました。
すでに4月上旬には、同じく東アフリカのウガンダに第二波の群れが襲来し、隣国ケニアから移送していた農薬の調達が、新型コロナ対策で国境が閉鎖されていたために遅れが生じたそうです。
第二波の動きは6月に本格化するといわれており、各国が対応を誤ると致命的な事態に陥る可能性があります。
一方西部アフリカでも、食料危機が危惧されています。
なかでもナイジェリア北東部は危機的で、FEWS NETは「レベル4・非常事態」出しています。
同地域は新型コロナの影響が広がる前から、過激派組織ボコ・ハラムの活動により治安が悪化し、多くの人が国内避難民として食料を国際機関などの支援物資に頼っていました。
ナイジェリアも3月30日にロックダウンを開始したため国境が閉鎖され、支援団体の動きが制限されてしまいました。
その結果、食料を支援物資に頼っていたナイジェリア北東部には非常事態の「レベル4・非常事態」、その周辺地域は「レベル3・危機的状況」の警告を、FEWS NETは出しています。
近隣のブルキナファソ、ニジェール、マリ、カメルーンの一部地域も「レベル3・危機的状況」とされ、WFP(世界食料計画)も、同地域で500万人以上が食料危機に陥る可能性があると危機感を募らせています。
人とモノの移動が制限されている現在、農家による畑仕事も、食料サプライチェーンも制限されているため、FEWS NETは今年半ばから後半にかけての食料供給にも影響がでる可能性があると指摘しています。
「Stay Home」が危機を招く
日本では「Stay Home」が浸透するとともに、他の感染症の報告数も減っているようです。
国立感染症研究所の「感染症発生動向調査週報」によると、インフルエンザや手足口病などの「定点把握の対象となる5類感染症」感染者が、3月の最終週以降、過去5年間の同時期と比較してすべて減少しています。
まだ新型コロナ対策との因果関係は明らかになっていませんが、最新号の第16週(4月13日~19日)では、インフルエンザの報告数は定点あたり0.05と、過去5年の同時期と比較して2%にまで激減しています。
一方、サハラ以南の国々は、先に述べた感染症のリスクだけでなく、1000人あたり78人の乳幼児が、5歳の誕生日を迎える前に命を落とす世界で最も乳幼児死亡率(5歳未満児の死亡率)が高い地域でもあります。
1000人あたり100人、つまり10人に1人が死亡する6ヵ国はすべてサハラ以南の国で、ソマリア(122人)、ナイジェリア(120人)、チャド(119人)、中央アフリカ(116人)、シエラレオネ(105人)、ギニア(101人)となっています。(日本は2人)(Levels and Trends in Child Mortality Report 2018)
乳幼児死が死亡する主な原因は、栄養不良や安全な水・ワクチン・適切な治療にアクセスできないことです。
新型コロナ対策で人とモノが動かなくなった今、路上販売や日雇いなどで生計を立てていた貧困層は、十分な食料を得ることも病院にかかることもできません。
国によっては政府が直接食料を配ったり、国際機関やNGO、民間レベルでも様々な人が精一杯手を差し伸べていますが、支援が行き渡っていないことは明白です。
2014年から2016年にかけて、西アフリカでエボラ出血熱が流行した際、今回と同様に人の移動を制限した結果、日常的な医療サービスが中断され、エボラ出血熱以外の疾病で亡くなる人の割合が増えたという調査結果も出ています。
「Stay Home」は、「家にいることが安全」だからこそ成り立つ対策なのです。
国という単位で考えると、社会基盤も経済基盤も脆弱なアフリカ諸国にとっては、国の根幹を揺るがしかねない深刻な脅威です。
しかし、劣悪な環境下で生きているアフリカの人々にとっては、命を脅かす数ある感染症の一つでしかないのです。
世界中の人々が感染症の恐怖と苦しみを知った今、270万人の命から目をそらさず、何ができるのかを真剣に考える必要があるのではないでしょうか。