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【世界史】アニメに出て来るような海賊って本当にいたの?カリブ海に実在した伝説の船長と2人の女海賊

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

船上にはためくドクロマーク、恐怖する船乗りたち。

「う、うああ、あれは・・海賊船だぁー!」

「へっへっ、野郎どもやっちまいな。財宝は頂きだ!」

こんなシーンを思い浮かべるとき、きっと誰もがアニメや映画の世界だと、思うでしょう。

しかし、ドクロの旗も財宝を狙う海賊団も、実際の歴史に存在していたのです。

具体的には中世から近世にかけ、場所はおもに中南米のカリブ海。とうじ周辺諸国は、ヨーロッパの強国が進出して、植民地にしていました。

しかし、それらの国同士も、利権を巡ってたびたび衝突していました。

ヨーロッパ本国の土地でも戦争は起き、その影響で植民地の間でも、数々の争いが勃発。

とうぜん治安は悪化し、もと水夫や海兵崩れ、荒くれもの達が徒党を組んで、海賊化して行きました。

とくにこの海域は、植民地で得た途方もない財産を乗せ、ヨーロッパ本土へ運ぶ船が通るのです。それらの強奪に成功すれば、まさに一攫千金。

とうぜん輸送船は兵士が守っていますが、中には敵対国の力を削ぐために、海賊行為の容認や、むしろ支援を行っていた国もありました。

かくして海賊の力は増し、後世にまで名を残す伝説の海賊も、誕生して行きました。今回は中でも、思わずロマンを感じてしまう女海賊。

それもフィクション作品もびっくりな、数奇で波乱の生涯を送った“メアリ・リード”の視点に沿って、お伝えしたいと思います。

彼女はなぜ海賊となり、誰と出会い、どのような運命を辿って行ったのでしょうか?

男装の少女

ときは1685年、日本では江戸時代の頃。メアリはイングランドの、ふつうの家庭に生まれました。

しかし幼くして父や兄を亡くし、彼女の母は夫の実家から養育費をもらうため、孫息子と偽り、男装させたのです。

そのまま13歳になると、お金持ちの家へ奉公に出されますが、もともとメアリは自由奔放な“おてんば”。窮屈な生活に嫌気がさし、男として育てられた経験を活かし、男装して軍隊に入りました。

この頃イギリスはフランスと“スペイン継承戦争”で全面衝突していたため、兵士の需要も高まっていたのでした。

もともと天性の“戦いの才能”もあったのか、メアリは戦場で活躍し、その兵科も騎兵隊、歩兵、海軍など様々な兵役を経験します。

伝説の海賊ジャック・ラカムとの出会い

やがてイギリスと同盟国であった、オランダ軍へ入隊。そしてカリブ海に派遣されたことが、人生のターニングポイントとなります。

「おい!あ、あれは・・海賊船だあ!」

その地でとつじょ海賊に襲われ、メアリは同僚らとともに、囚われの身になってしまいました。そのままアジトへ、連行されます。

しかし、この出来事がメアリの運命を、大きく変えて行くことになりました。

伝説の海賊ジャックとの出会い。彼こそまさに、アニメのイメージそのままといった海賊で、キャラコの帽子を被り、船にはドクロの海賊旗を掲げていました。

海賊なので、もちろん他の船を襲うわけですが、一説によると抵抗しない相手は、なるべく傷つけないのが信条だったとも伝わっています。

また有能そうな人材を見つけると、仲間に誘う器の大きさもあったそうです。

ジャックはメアリに言いました。「あんた、なかなか面白そうな“男”だ。どうだ、俺と一緒に来ないか?」

メアリは誘いを受け、そのままジャック海賊団の一味になりました。その暮らしは当然、戦いの連続でもありましたが・・メアリは、もともと歴戦の猛者です。

「こいつ、相当やるぞ!」その戦闘能力は、たちまち仲間の間で、一目置かれるようになりました。

もうひとりの女海賊

そうした中、とある一夜。メアリはとある海賊員から、物陰に手招きされます。相手は、言いました。

「わたしの名はアン・ボニー、実はこう見えて女なんだ。あんた端正な顔立ちのわりに、めっぽう強い。前から気になっていたんだよ。」

それは、いわゆる逆ナンパでした。

「まあ、そういうわけだ。今夜は私と、楽しいコトしないかい?」

とつぜんの出来事にメアリは驚きますが、少し経ってこう返します。「ふふ、悪いがお嬢さん。そのお誘いには乗れないな。何故なら・・わたしも、女だから!」

こんどは言い寄ったアンの方が、キョトンとしてしまいました。じつは両方ともが女海賊。しばらくして、2人は笑い出しました。

そして秘密を共有し合ったこともあり、無二の親友となったのです。

ちなみにアンは船長の愛人だったので、その実力も相まって、2人は海賊団の主力になりました。

あるとき、ジャック海賊団に囚われたジャマイカの漁師は、こう証言しています。

「最初は2人とも女だとは、気付かなかったよ。ハンカチを頭に巻いて、男と同じ格好をしていたからね。銃や剣を手にして、言葉遣いも荒々しかった。」

ジャック海賊団の終焉

2人の女海賊を従えたジャック海賊団は、さんざんカリブ海を荒らしまわり、やがて恐怖や畏怖のイメージとともに、語り継がれて行きました。

しかし、たまりかねた周辺地域の住民たちは、何回も政府へ討伐を申請。やがて精兵と十分な兵器を備えた、討伐隊が組織されます。

とはいえ、ツワモノ揃いのジャック海賊団は、まともに戦っては強敵です。そこで緻密に情報を集め、その動向を掴むと、とつじょ奇襲攻撃を行ったのでした。

船上では激しい戦いとなり、とくに2人の女海賊は男もひるむほどに、甲板でピストルを撃ちならして奮戦しました。

しかし不意を突かれたうえ、訓練を積んだ正規軍が相手とあっては、分が悪いです。

ついには敗北して投降、お縄について裁判にかけられることになりました。

・・さて、そのニュースが周辺地域を駆け巡ると、脅威の海賊団に2人も女性がいたことに、世間は驚きました。

そして中には、同情の声も寄せられました。とくにメアリはもともと一般人です。捕まって、やむなく海賊となったという見方も出来るため、情状酌量の余地もあったのです。

しかしジャック・ラカムは許されず、そのまま処刑。ここに彼の伝説は、その幕を降ろすことになりました。

また2人の女海賊も同様に、最終的には死刑が宣告されたのですが・・その直後、2人は身籠っていることが判明。

当時の法律では、そうした女性の命を断つことは許可されず、刑は延期されます。しかし残念ながらメアリは獄中で病に罹り、そのまま死亡してしまいました。

その胸中は・・やりたいことをやりきった人生だったでしょうか?

それとも、まだまだ海を駆け巡りたくて、無念だったでしょうか?

今となっては、彼女自身にしか分かりません。

実在した海賊たち

なお残りのアン・ボニーですが、いろいろと裏社会とのツテがあったようで、牢獄から上手い具合に脱出し、いずこかへ姿をくらませたと言います。

かくして伝説のジャック海賊団は、歴史からその姿を消しました。しかし、その生き様は今にも語り継がれています。

たとえばアン・ボニーは大人気アニメ『ワンピース』に登場する、ジュエリー・ボニーという女海賊のモデルになっています。

このように姿形は変わっても、アニメや映画の舞台に登場し、今なお私たちにワクワクやドキドキを与えてくれているといっても、過言ではありません。

ドクロの旗も、財宝を狙う男たちも、そしてフィクションのような女海賊も。かつて実在していたと思うと、ロマンを感じずにはいられません。

こうした歴史に触れるとき、それはもはや勉強としてでなく、秘密の物語をひも解いて行くような面白さを感じます。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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