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パリ五輪・開幕前は「最小最弱」で「沈韓」ともされた韓国はどんな競技でメダルを獲得したのか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
アン・セヨン(写真提供=スポーツソウル)

パリ五輪開幕前までは「近年最小規模」、「歴代最弱」といった悲観的であったり懸念の声も絶えなかった韓国。

その声に日本メディアも反応し「沈韓」と報じたことに韓国の著名な大学教授が激怒する一幕もあったが、終わってみれば韓国の金メダル数では過去最多タイだった。

(参考記事:「パリ五輪は“沈みゆく韓国”の象徴」と書いた日本ジャーナリストに韓国教授が怒りの反論「嫌韓商売人だ」)

今回のパリ五輪。韓国は歴代最小規模だった1976年モントリオール大会(50人)に次ぐ少なさとなった144人(21種目)の選手団をパリに派遣したが、金メダル13個、銀メダル9個、銅メダル10個を獲得し、総合順位8位になった。

3年前の東京五輪では金メダル6個、銀メダル4個、銅メダル10個の計20個のメダルで、総合順位は16位。総合順位としては1984年ロサンゼルス五輪以後、最も低かった。

まして今回のパリ五輪では男女サッカー、男女バスケ、男女バレー、男子ハンドボールで本大会出場に失敗。団体球技で唯一、パリ行きの飛行機に乗れたのは女子ハンドボールだけということもあって目標設定も控えめだった。

大韓体育会(KOC)はパリ五輪で「金メダル5個」「総合15位以内」を目標に掲げていたのだ。

ところが、韓国は大会3日目には目標の金メダル5個を達成し、その後もその流れは止まらず、最終的には金メダル13個を獲得した。これは2008北京五輪、2012年ロンドン五輪で記録した一大会最多金メダル(13個)と並ぶタイ記録だ。

獲得したのは金メダルだけではない。アーチェリー(金5、銀1、銅1)をはじめ、射撃(金3、銀3)、フェンシング(金2、銀1)、テコンドー(金2、銅1)、バドミントン(金1、銀1)、柔道(銀2、銅3)、卓球(銅2)、重量挙げ(銀1)、近代五種、ボクシング、水泳(以上は銅1)など様々な分野でメダルを獲得し、その合計は計32個になった。

これは地元開催となった1988年ソウル五輪(33個)に続いて二番目に多い。金メダル、全体メダル数だけ見れば2008年北京五輪とほぼ似たような成果を出したことになる。

それも前回・東京五輪の232人に比べるとかなり少ない144人の選手団だった。そのため、量では劣るが、選手の質では東京五輪の時よりも良かったと解釈する声もあるほどだ。

また、結果だけではなく内容面でも印象的だった。

例えばアーチェリー。韓国は世界最強を誇るが、今回の出場選手たちは以前より経験値が低い選手が少なく心配されたが、結果的にはアーチェリーではメダルを総ナメにし、男子部ではキム・ウジン、女子部ではイム・シヒョンがともに3冠を達成した。お家芸の射撃では歴代最高の金メダル3個と銀メダル3個を獲得し、フェンシングでもオ・サンウクが個人戦と団体戦を席巻した。いわゆる「弓·銃·剣」の強さが目立った。

また、2020東京五輪ではノーゴールドだったテコンドーで金メダル2個と銅メダル1個を獲得し、水泳でもメダリストが生まれた。

このほか、女子ボクシング(銅メダル)、女子重量挙げ(銀メダル)など、最近メダル獲得がなかった種目でもメダル獲得があったし、射撃のバン・ヒョジンとオ・イェジン、テコンドーのパク・テジュン、キム・ユジン、近代五種のソン・スンミンなど、10代半ばから20代前半の選手が表彰台に上がってメダルを手にしたことも韓国スポーツ界には朗報だったと言えるだろう。

また、大会中はスターも生まれた。

射撃女子10mエアピストルの銀メダリストとなったキム・イェジは、あのイーロン・マスク氏がX(旧ツイッター)で反応したことで一躍、世界的な有名人になった。

韓国女子柔道に8年ぶりの銀メダルを獲得したホ・ミミは、韓国人の父親と日本人の母親の間に生まれ、独立運動家ホ・ソクの子孫というストーリーが関心を引いた。

卓球の天才少女として国民的人気を誇るシン・ユビンは混成ダブルスと女子団体で銅メダルを手にして、その知名度をさら高めた。

だが、大会期間中は思わぬ出来事やハプニングもあった。最も衝撃的だったのは、バドミントン女子シングルスで金メダルに輝いたアン・セヨンの発言だろう。

(参考記事:パリ五輪・金メダル直後の爆弾発言に韓国パニック!女子バドミントン王者が“協会批判”したワケ)

歓喜に酔いしれる間もなく韓国バドミントン協会をストレートに批判した発言は大きな波紋を呼び、帰国後もこの問題は収まっていない。むしろスポーツ団体を統括する文化観光部(日本の文部科学省にあたる)が、韓国バドミントン協会の調査に乗り出すことになった。政府からの補助金の使い方などにもメスが入りそうで、五輪を目指すエリート選手とその種目団体との関係性が見直される契機になるかもしれない。

いずれにしても心配された「惨敗」や「不振」に陥ることがなかった韓国のパリ五輪。『スポーツソウル』は「歴代最弱→最高成績“パリの奇跡”」と題して大会決算特集を開始しているが、これから本格的に始まるであろう各メディアの大会総括や4年後に向けた課題展望なども、引き続き注視していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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