函館本線廃止強行!?北海道庁の政策姿勢は「日本の安全保障」に悪影響 防衛省は自衛隊の鉄道輸送を推進
2024年11月8日、陸上自衛隊は、「令和6年度陸上自衛隊演習」において、北海道のJR石北本線を含む札幌―北見間で鉄道による補給品の輸送を実施し、その有用性を確認したと発表した。陸上自衛隊公式X(旧ツイッター)では、補給品を鉄道コンテナに積み下ろしする様子や、石北本線の遠軽駅付近を走行する貨物列車の画像が公開されたことは、筆者の記事(自衛隊補給品、北海道「札幌―北見」で鉄道輸送 その一方「攻めすぎた廃線」でネットワーク分断の大問題)でも詳しく触れている。防衛省は、「自衛隊の輸送力向上のため鉄道貨物のさらなる活用」を行う方針を掲げており、10月14日には仙台から東京に向けて96式装輪装甲車の鉄道輸送を行うなど、自衛隊装備品の鉄道輸送の実績を積み重ねている。
しかし、ロシアとの国境を接する北海道では、鉄道路線の「攻めすぎた廃線」により、鉄道ネットワークが各所で分断され、災害時などに列車の迂回運行ができる路線がほぼ消滅してしまったことから、すでに北海道の鉄道はネットワークとしての機能を失っている。例えば、8月のJR石勝線の豪雨災害時には、列車の迂回運行ができなかっただけではなく、昨今のドライバー不足から特急列車のバス代行も貨物列車のトラック代行もほぼできなかった状況が明らかとなり、北海道の交通網は脆弱性を増している。そして、今後の安定的な鉄道輸送を考える上で、さらなる問題となりそうなのが、北海道庁が主導で鉄道路線の廃止を強行しようとしている函館本線の長万部―小樽間だ。
有珠山の火山災害時に迂回ルートとなり得る「長万部―小樽間」
函館本線の山線と呼ばれる長万部―小樽間は、北海道新幹線の札幌延伸にともなってJR北海道から経営分離されることが確定している区間であるが、北海道庁が主導する協議会では廃止の方針を強引に決めてしまった。この協議会には地域のバス会社も呼ばれることがなく、地域住民の声も聞かれることはなかったことは、記事(北海道新幹線、泥沼化の並行在来線問題 防災計画にも明記「原子力災害時の避難路」としての住民指摘も黙殺)でも詳しく触れている。
この路線は、2000年の有珠山噴火で室蘭本線が不通となった際には、貨物列車や特急列車の迂回ルートとしても活用されたが、北海道庁はそうした実績を考慮することもなかった。有珠山は、20~30年周期で噴火を繰り返してきた火山であり、「すでにいつ噴火してもおかしくない時期に差しかかっている」と指摘する有識者も存在する。室蘭本線には北海道と本州方面を結ぶ貨物列車が1日20往復以上運行されている。これは、8月に豪雨被害を受け4日間にわたって不通となったJR石勝線の1日6往復の3倍以上にも及ぶ本数だ。
JR石勝線は主に十勝地方で生産されたジャガイモなどの農産物が貨物列車で輸送されているが、4日間の鉄路寸断でトラックによる代行輸送がほとんど行えなかったことから、3月31日限りで廃止された根室本線の富良野―新得間を廃止せずに迂回路線として整備しておくべきではなかったのかという指摘も根強い。北海道で生産される農作物の輸送が滞れば、日本国家の食料安全保障を揺るがしかねない事態となる。こうした状況の中で、室蘭本線が災害で寸断された際の物流への影響は計り知れず、迂回できる鉄道路線がないという状況になれば、北海道の物流は完全に麻痺し、今後、拡大が見込まれる自衛隊の装備品の安定的な輸送にも影響が出かねないだろう。
北海道庁の「バスのほうが鉄道よりコストが安い」という理由一辺倒で、鉄道ネットワークをどんどん分断していく政策姿勢は、目先のコストカットにしか意識がない極めて近視眼的なもので、地域だけではなく国家への影響に対する想像力を欠いている。こうした狭い視野の中で、函館本線の長万部―小樽間の廃止を強行しようとする北海道庁の政策姿勢は、防衛省が自衛隊の装備品輸送について鉄道輸送を広げていこうとする国家の方針に反していると言っても過言ではなく、日本の安全保障に悪影響を与えかねない大きな問題ではないだろうか。
(了)