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ミニスカートはどうやって生まれた? 女性起業家の先駆けだったマリー・クワント

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
1967年、アルベルト・ジャコメッティの彫刻を眺めているTWIGGY(写真:Shutterstock/アフロ)

ミニスカートが久しぶりに復活しています。「ミニの発明者」といわれる、イギリスの女性デザイナー、マリー・クワント(Mary Quant、以下、マリー)にも再評価が進んできました。そもそもミニスカートはどうやって生まれ、なぜ人気になったのか?ドキュメンタリー映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』と回顧展『マリー・クワント展』を通して、「ミニの女王」と呼ばれたマリーの足跡をたどります。

映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』からたどる、ミニスカートの成り立ち

■ストリートファッションの先駆者 時代のアイコンに

映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』
映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』

それまでのファッションデザイナーがモードやスタイルを生み出したのだとしたら、マリーは「ムーブメント」を起こした最初のデザイナーと言えるかもしれません。彼女が登場した1950~60年代はまだオートクチュール(高級注文服)の時代。リッチな上流階級女性だけが特別あつらえでロングドレスを中心にファッションを楽しむ中、マリーはミニスカートに象徴される、ストリートで着やすいミニ丈服を提案。ロンドンの街をざわめかせました。今に至るストリートファッションの先駆者がマリーだったわけです。

■階級社会のひずみ映す 60年代の「スウィンギング・ロンドン」が背景

映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』2021 MQD FILM LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』2021 MQD FILM LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』2021 MQD FILM LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』2021 MQD FILM LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

ミニスカートがブームになった60年代はロンドンが若者のパワーで盛り上がった時期で「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれました。マリーはミニのほかにも、ホットパンツやタイツなどを相次いでヒットさせ、若々しい装いを後押ししました。「自分が着たい服を、自分で作る」という自らのポリシーを徹底。それまでの常識を打ち破るようなアイテムを次々と送り出していきます。

映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』Courtesy Terence Pepper Collection
映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』Courtesy Terence Pepper Collection

マリーが当時の有力デザイナーと異なっていたのは、同世代やその下の世代のニーズをつかんで、服をデザインしたところです。第2次世界大戦後のイギリスでは、伝統的な階級社会への不満感が強まっていました。後にモッズやパンクへつながっていく、彼ら若者たちのフラストレーションを受け止めたマリーは、ファッションにとどまらない、時代のアイコンとして支持を集めていきました。

■ライセンスビジネスとしても成功 ビジネス界でのロールモデルに

映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』Courtesy Terence Pepper Collection
映画『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』Courtesy Terence Pepper Collection

マリーを支えたのは、最愛の夫、アレキサンダー・プランケット・グリーン。彼のパートナーシップも映画の中でしっかり描かれています。映画に登場するマリーは想像以上に活動的で、若い頃はおてんば娘といった印象すらあります。一方、ビジネスを率いる女性起業家のパイオニアとしての顔も記録されていて、今に至る積極的なライセンスビジネスに乗り出す姿も収められています。

日本でもファンが多いのは、デイジーのアイコンで有名なコスメラインでしょう。このブランドロゴを商標登録した先見の明がライセンスビジネスの成功につながりました。新素材の活用や、効率的な量産化などでも、マリーは時代の先を見越して、消費者の支持を集めていきます。今回の映画ではビジネス界での女性ロールモデルとしてのマリーも描き込まれている点が見どころの一つと言えるでしょう。

回顧展『マリー・クワント展』から発見する、多彩なスタイリング術

■ミニスカートから始まる多様性の時代を先取り

『マリー・クワント展』
『マリー・クワント展』

映画と同じタイミングで開催される『マリー・クワント展』では、実際の作品を通して、マリーのクリエーションを振り返ることができます。約100点の衣服をはじめ、小物や写真、映像などが展示され、マリーの仕事ぶりだけではなく、当時の社会状況、ファッションビジネスのありようなども知ることができる展覧会になっています。

あまりにもミニスカートが有名なので、そのイメージが強いのですが、マリーはミニだけのデザイナーではありません。今回の展覧会では、ミニの陰に隠れがちな、彼女の幅広いクリエーションを紹介。それぞれの時代に与えた影響も感じ取ることができます。特設グッズ売場では展覧会オリジナルグッズを販売。マリーらしいモチーフをあしらったマグやグラス、バンダナなども登場します。

『マリー・クワント展』 Image courtesy of The Advertising Archives
『マリー・クワント展』 Image courtesy of The Advertising Archives

こちらは1967年に発表された、ベレー帽の広告ビジュアルです。キュートな雰囲気でありながら、強さも感じさせるところがあり、マリーらしさが漂っています。カラーバリエーションの多さは多様性の時代を先取りしていたかのよう。ミニスカートとタイツのコンビネーションもチャーミングでアクティブなたたずまいです。

■ミニスカートの大切な相棒、カラータイツやレースタイツ

『マリー・クワント展』Image courtesy Mary Quant Archive / Victoria and Albert Museum, London
『マリー・クワント展』Image courtesy Mary Quant Archive / Victoria and Albert Museum, London

カラータイツやレースタイツはこのところジワジワと人気が出ているレッグウエアです。欧米の有力ブランドのファッションショーでもキーアイテムに位置付けられています。ミニスカートの場合、脚線の露出が増えるから、なおさらきれいな見た目のレッグウエアが大切な相棒アイテムに。こちらの写真は1965年頃の「MARY QUANT」。編み地の凝った上質なレッグウエアを、当時から提案していたことがわかります。

ちなみに、日本でミニスカートが流行するきっかけを作ったのは、女優の野際陽子さんです。フランス留学を終えて、1967年に帰国した際、野際さんはミニ丈ワンピースで羽田空港に降り立ちました。その後、女優として活躍し、アクションスターだった千葉真一さんと結婚しています。

ミニスカートのブームを起こしたのは、野際さんが帰国した年に来日した、イギリスの女優・歌手のツイッギー(Twiggy)。細い体を小枝に見立てた愛称です。この頃には、フランスのデザイナー、アンドレ・クレージュ(Andre Courreges)もミニスカートを発表していて、ミニは世界的ブームとなりました。

■盛り上がる「Y2K」トレンドの原点 60年代のこびない女性像

『マリー・クワント展』(c) Photograph Terence Donovan, courtesy Terence Donovan Archive.
『マリー・クワント展』(c) Photograph Terence Donovan, courtesy Terence Donovan Archive.

ツイッギーが66年に披露した、フレッシュなルックは、実は今のトレンドにもつながっています。ベストショートパンツ、そしてタイドアップ(ネクタイ姿)と、型にはまらないコーディネートが打ち出されていて、変革期だった当時の気分もうかがわせます。性別にとらわれないタイドアップはこれから盛り上がりが見込まれるスタイリングです。

2000年頃の装いを復活させた「Y2K」のトレンドがあって、再び勢いづいたミニスカートですが、ロンドンガールが着始めた当時は古い時代への反抗を示すようなメッセージを帯びていました。ボディを締め付ける、それまでの服装は、曲線を描く女性的な見え具合が重視され、男性目線を意識したものでした。戦後の若い女性はそうした束縛を嫌い、働く際にも動きやすいミニを選びました。

脚が露出するので、ミニスカートはセクシーな装いだと思われがちですが、当時は逆で、女性的なふくらみを強調する、それまでの服装に比べて、直線的で素っ気ないシルエットでした。むしろ足裁きが楽で行動的で飾らず、男性にこびないという、新しい女性像を映した装いだったようです。マリーは自らもそうした時代のアイコンとして認知されていきました。

■ボウタイ、ジレ、クロップド丈ジャケット 色あせないアイテムがカムバック

『マリー・クワント展』(c) John French / Victoria and Albert Museum, London
『マリー・クワント展』(c) John French / Victoria and Albert Museum, London

クラシックな装いがリバイバルしているのは、近年のおしゃれトレンドの目立った動きです。ボウタイブラウスがレディーライクなコーデは実は今年らしいスタイリング。1962年にモデルのジーン・シュリンプトンはジレ(ベスト)仕立てのカーディガンドレスを重ねて、「フェミニン×マニッシュ」ムードに。クラウンの高い帽子で気品も醸し出しています。

『マリー・クワント展』Photograph by John French (c) John French / Victoria and Albert Museum, London
『マリー・クワント展』Photograph by John French (c) John French / Victoria and Albert Museum, London

60年も前とは思えないほど、今見ても錆びない着こなしを披露した、モデルのセリア・ハモンド(左)とジーン・シュリンプトン(右)。たとえば、こちらのクロップド丈ジャケットベストはこの秋冬に再びトレンドアイテムとして浮上してきました。上半身をすっきりとコンパクトに見せて、帽子で小顔効果とエレガンスを薫らせています。

■色やディテール、小物でアレンジ ミニスカートを多彩に表現

『マリー・クワント展』Photo Duffy (c) Duffy Archive
『マリー・クワント展』Photo Duffy (c) Duffy Archive

鮮やかな色使いも、マリーの得意技でした。今年の人気カラーはパープル。1966年時に発表された光沢を放つパープルはあでやかな華やぎを演出。ようやくポジティブ気分が戻りつつある中、このようなつやめき素材を取り入れた装いはこれから盛り上がりそうです。

『マリー・クワント展』(c) John French / Victoria and Albert Museum, London
『マリー・クワント展』(c) John French / Victoria and Albert Museum, London

冬にミニスカートをまとう場合、ロングブーツは絶好のパートナーになってくれます。大きめの飾り襟やトップスとつながったジャンパースカート風アイテムは懐かしげな風情で人気がリバイバル。1963年に発表されたマリー流のコーデは「レトロ×モダン」な着こなしのお手本になってくれます。

『マリー・クワント展』Photograph by John French (c) John French / Victoria and Albert Museum, London
『マリー・クワント展』Photograph by John French (c) John French / Victoria and Albert Museum, London

伝説的ロックバンド、ローリングストーンズの面々の若さが60年代感を印象づけます。モデルのパティ・ボイドはレトロかわいいワンピースをまとい、ドールライクな存在感。優美な大襟とクラシカルなフリル袖先もレディーライクな雰囲気です。

■実は機能的だった「ミニスカート」 再評価進むマリー精神

『マリー・クワント展』Image (c) ourtesy of Mary Quant Ar chive / Victoria and Albert Museum, London
『マリー・クワント展』Image (c) ourtesy of Mary Quant Ar chive / Victoria and Albert Museum, London

これらのコレクションを見て感じるのは、今のビッグトレンドになっている「タイムレス」との共通点です。目先の流行を仕掛けるだけではなく、着る人が本質的に望む機能や見え具合を見抜いて商品化する、マリーの能力を感じます。その象徴的アイテムが動きやすいミニスカートです。

映画と展覧会の両方で、シグネチャーのミニスカートはたくさん紹介されています。時を超えて、マリーのアイコンになったミニを通じて、ファッションの歴史がわかり、おしゃれを取り巻くそれぞれの時代性に関する「気づき」ももらえます。

性別にとらわれないジェンダーレスが盛り上がり、その反動もあってフェミニンが再評価されているのが今の傾向です。身体性が見直され、ボディコンシャスが復活する兆しも見えています。ファッションの歴史を書き換えたミニスカート革命をたどる体験は、おしゃれの意味をとらえ直すチャンスにもなってくれるでしょう。

『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』

2022年11月26日(土)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

監督:サディ・フロスト

出演:マリー・クワント/ケイト・モス/ヴィヴィアン・ウェストウッド/デイヴ・デイヴィス(ザ・キンクス)/ピート・タウンゼント(ザ・フー)/ポール・シムノン(ザ・クラッシュ)

2021年/イギリス/英語/90分/ビスタサイズ/原題:QUANT/映倫区分G

協力:マリークヮント コスメチックス/後援:ブリティッシュ・カウンシル/配給:アット エンタテインメント

公式サイト: www.quantmoviejp.com

『マリー・クワント展』

2022年11月26日(土)~2023年1月29日(日)

会場 Bunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)

https://www.bunkamura.co.jp/museum/

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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