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ドラマ『日本沈没』に見る“データ改ざん”のリアル感

斉藤貴志芸能ライター/編集者
日曜劇場『日本沈没-希望のひと-』HPより (C)TBS

原作をアレンジし主人公は官僚。沈没説の検証は中断

 初回から2話続けて世帯視聴率が15%超えと、今クールの連続ドラマの中でひときわ注目を集めている『日本沈没-希望のひと-』(TBS系)。1973年に刊行された小松左京のSF小説が原作。日本列島が海に沈むというショッキングなストーリーで、これまでにも映画、ドラマ、アニメ、マンガ化がされてきた。

 『日曜劇場』枠で放送の今回は、主人公が環境省の官僚となったのを始め、登場人物の多くがオリジナルキャラクーで、大きなアレンジが加えられている。

 異端の地震学者・田所雄介(香川照之)が唱えた“関東沈没”への警鐘がネットで広まり、デモも起こる。政府筋の意向を受けた環境省の天海啓示(小栗旬)は、事態の収束を図って田所と会うが、田所は話に一切耳を貸さず、前兆となる伊豆沖の島の沈没を予言した。

 政府は関東沈没説を検証するため、房総沖の海底調査を決定。天海、田所、地球物理学の最高権威で政府の環境事業を後押しする世良徹(國村隼)らが深海調査艇に乗り込み、田所が関東沈没の根拠とするスロースリップ(海底プレートの沈下)の痕跡を探した。

 田所は海中でスロースリップを目視するが、同乗していた国土交通省の安藤靖(高橋努)が体調を崩して倒れ、調査は途中で中止に。検証報告会議に提出された観測データにも海底の映像にも、スロースリップの痕跡は皆無だった。だが、そこに田所の予言通り、伊豆沖の島が沈没したという緊急ニュースが入って……と1話が終わった。

「総理の指示だ」と言われて…

 先日放送の2話では、天海が手を尽くし、バックアップされていた海底調査のオリジナルデータを入手。そこにスロースリップの痕跡があるのを世良に突きつける。データは改ざんされていたのだ。映像にも断層がはっきりと映っていた。

 そして、海上保安庁のメインコンピューターにアクセスして直接改ざんしたのが、調査艇で倒れた安藤だったことも、天海はつきとめていた。

天海「あなたが潜水艇内で倒れ込んで調査を中断させたのも、スロースリップ現象が証明されるのを危惧したからじゃないですか? しかし、あなたがそうまでする理由がわからない。誰の指示ですか?」

安藤「『私の指示は、総理の指示だ』。……そう言われて……愚かにも私は……」

 苦しげに目をつぶり、顔を歪め、嗚咽混じりに言葉を絞り出す安藤。そして、潜水艇内で世良に耳打ちされて、仮病で倒れ込む回想……。

連想される「森友」での文書改ざん

 ここでどうしても連想してしまうのが、森友学園への国有地売却を巡る財務省の公文書改ざん。そして、幹部に改ざんを強要されて自死に至ってしまった、近畿財務局の職員・赤木俊夫さんのことだ。

 安藤に改ざんを指示したのは学者の世良だったが、総理の意向を匂わせた。現実の財務省の改ざんも当時の安倍晋三首相の夫人らの名前を削除したもので、首相が国会で「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と答弁したのを受けてのものと見られている。

 赤木さんの妻が「真実を知りたい」と、国などに損害賠償を求める形で訴訟を起こした中で、政府は首相が変わっても再調査は一貫して拒否。そんな現実があるだけに、『日本沈没』のような改ざんは国家の危機に際しても起こり得るのではないかと、妙にリアルに感じる。

「国民を不安に陥れないため」の既視感

 さらに、世良は事実を明かされても「総理から『日本のために力を尽くせ』と頼まれ、忠実にまっとうしただけです。データを改ざんしたのは国民を不安に陥れないためであり、日本の信用のためです」と動じない。

 この「国民の不安を煽らないため」といった理屈もよく聞くが、危機的状況下ということで思い出されるのが、2011年の東日本大震災で福島第一原発の事故に際し、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータが公開されなかったことだ。原子力事故の際に放射性物質の広がりを予測するため、税金を投じて開発されたものが、肝心なときに住民の避難に活かされなかった。

 国会の事故調査委員会で、文部科学省の次長が「発表の仕方を間違えるとパニックを起こすことを心配し、政府としての発表をためらった」と証言しているが、当時の浪江町の馬場有町長が「適切に利用されていれば、町民が無用な被曝をしなくて済んだ」と語ったりもしている。国民の命に関わる点では関東沈没にも通じる非常時にあっての、情報非公開だった。

緊急事態の政官財界のシミュレーションに

 『日本沈没』2話ではその後、世良が天海に「2人で話さないか」と持ち掛けた。自身は関東沈没が起こる確率は「1割程度」と考えていることを明かしたうえで言う。

世良「たった1割だ。沈まない確率は9割。キミたちは起こるはずのない関東沈没に怯え、やる必要のない危機対策に奔走したあとに、首都経済を停滞させるんだ」

 関東が沈む確率が1割もあったら大ごと、とのツッコミもネット上で見受けられたが、確率は低くても、ひとたび起これば大惨事なら、危機管理はどうするのか。一方で、経済が滞ってもいいのか。そうした投げ掛けは、原発やコロナ禍の問題も連想させる。

 もちろんフィクションでエンタテイメントなのだから、無理に現実と結びつけて観るものではないだろう。しかし、次回3話の予告でも「守るべきは経済か? 人命か?」と謳われている。官僚を主人公に配したうえで政界や財界の絡んだリアルさが、今後も描かれるようだ。

 似てるとの指摘も多い映画『シン・ゴジラ』がそうであったように、国家の存亡が懸かる緊急事態のシミュレーションとしても、価値あるドラマになることが期待される。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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