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ACL決勝 浦和レッズがねらった“蜂の一刺し”と、その結末

清水英斗サッカーライター
ACL決勝2019、浦和対アル・ヒラルの第2戦(写真:ロイター/アフロ)

24日、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝・第2戦の浦和レッズ対アル・ヒラルが行われ、浦和は0-2で敗れた。2戦合計スコアは0-3で、浦和は準優勝。2年前には浦和が勝ち、優勝を果たした因縁の対戦だったが、今回はサウジアラビアの強豪が雪辱を果たした。

アル・ヒラルは、本物の強さを持っていた。欧州トップリーグで活躍したFWバフェティンビ・ゴミス、MFセバスティアン・ジョビンコといった外国人選手に加え、MFサレム・アルドサリ、アブドゥラー・オタイフ、DFモハンメド・アルブライク、アリ・ハディ・アルブライヒ、ヤシル・アルシャハラニなど、今年1月のアジアカップで日本代表を苦しめたサウジアラビア代表の面々がずらり。素晴らしい技術と、整備されたプレッシングが印象的で、アグレッシブなサッカーを見せた。

特に異次元の違いを作り出したのは、今年7月にポルトガルのベンフィカからローン移籍したペルー代表MFアンドレ・カリージョだろう。後半29分の先制シーンでは、カウンターで右サイドを独走し、並走する関根貴大を身体で跳ね飛ばすと、数的優位で最終局面へ。ボールはサルマン・アルファラジ、ジョビンコを経由し、最後はMFアルドサリのゴールが決まった。

関根に限らず、カリージョに対しては槙野智章や鈴木大輔も1対1で突破を許し、岩波拓也もイエローカードで止めるしかなかった。Jリーグ屈指の対人能力を誇る選手でも勝てず、さらに複数人で囲んでも、ボールを奪えず。そんな無敵のサイドアタッカーが、守備にも献身的で、規律に忠実にプレーするため、手に負えない。過去にACLで見た中でも、トップクラスの強烈な選手だった。

強い。圧倒的に。しかし、浦和も全く可能性が無かったわけではない。第1戦の0-1をまずは同点に戻すべく、“蜂の一刺し”は狙っていた。

そのキープレーヤーがGK西川周作だ。試合後、浦和の大槻毅監督は次のように戦術の意図をコメントしている。

アウェイの試合で、彼らが積極的に前から守備をしてきて、なかなかウチのところで、後ろでボールを動かせませんでした。理由はパスコースが1つちょっと減っていた、というのは、GKのところで1つパスコースを作ることができなかったので、(西川)周作のところ、ディフェンスラインでパスコースを増やしたところ、そこのハンドリングを早くして、サイドのところでウイングバックで背中のところを取ったりだとか、そこを使って、というのを狙いにしました。

出典:Jリーグ公式サイト

アウェイの第1戦は、GK西川がイエローカードの累積により出場停止だった。代わって出場したGK福島春樹も、パフォーマンスは良かったが、西川を起用する場合は、より足元でつなぐビルドアップの選択肢が増える。そして、幸か不幸か、アル・ヒラルはそれを第1戦で体感していない。

この第2戦、浦和はGKから相手2トップの間を通して中盤につなぐなど、西川を経由したビルドアップが目立ち、アル・ヒラルに問題を引き起こした。たとえば、最終ライン近くに下りた青木拓矢に対し、右サイドのカリージョが食いついた隙に、空いたサイドから関根が持ち運んだり、あるいは序盤に1トップから左シャドーへポジションを移した興梠慎三がスペースへ流れて突破したりと、サイドを起点にアル・ヒラルの裏を突いた。

AFCのスタッツ、ヒートマップやタッチマップを見ても、浦和の攻撃が両サイドを起点としたことはわかる。西川を使ったビルドアップで相手を引き込み、サイドにスペースを空けて素早く突いた。前半9分に関根のクロスから橋岡大樹がシュートした場面、あるいは23分に興梠のクロスから長澤和輝が落とし、関根がシュートした場面はどちらも決定機。惜しかった。

ポゼッション率でも、第1戦の浦和は30.3%と相手に一方的に押し込まれたが、ホームの第2戦は54.3%と上昇。特に前半は57.2%と高かった。浦和が西川を起点としたビルドアップを重視したことはスタッツでも読み取れる。

もちろん、リスクは負った。ハイプレスを仕掛けてくると想定できるアル・ヒラルを相手に、GKを使ってビルドアップするのは勇気がいる。ボールを奪われれば、即失点の危険があるからだ。実際、ショートカウンターを食らった場面は何度もあった。

それでも、やるしかない。相手のプレッシングを掻い潜り、取らなければならない1点を取るには、これしかない。

突破力に長けた関根も、この試合ではドリブル成功0、後半は失敗が2つと、分の悪い戦いを強いられた。普通の1対1では劣勢になる以上、身を切って相手を引き込み、その裏を突いて勝ちに行く。まさに浦和が狙ったのは、身を切る“蜂の一刺し”だった。

ところが、前述した9分、23分の場面で刺しきれず、ハーフタイムを迎えると、状況は変わっていく。アル・ヒラルが守備を修正してきた。浦和の大槻監督は後半について次のようにコメントしている。

前半に1つ取れれば良かったんですけど、後半はそれに対して向こうも2つ追いとかで対応してきて、あそこの最初のところをいなせれば良かったと、いまは思っています。ただその後の、リスタートが続いたりしたところでは、圧迫感が出てしまったので、そこを少し変えたいと思っていました。

出典:Jリーグ公式サイト

アル・ヒラルは、2トップのゴミスとジョビンコのプレス強度を上げてきた。彼らが連続してボールを追うことで、カリージョがサイドから釣り出される場面を避けている。一方の浦和は、勢いを増す相手のプレスに追い込まれる場面が増えた。

さらにアル・ヒラルは前線がボールを追い込んだ場面と、中盤に侵入された場面をハッキリと分けるようになった。後者の状況ではDFとMFが4-4のブロックを作り、構えている。カリージョもその守備ブロックに入ったため、浦和は前半のようにサイドでの数的優位やスペースを見つけることが困難になり、かといって個人でも抜けない。起点としたサイド攻撃が不全に陥ってしまった。

浦和の手詰まり感が増す中、後半12分、おそらくこのプレーが試合の流れを決めたのだろう。

守備ブロックに入って興梠の動きを見張っていたカリージョが、一瞬のすきを突き、興梠のボールをかっさらう。そして爆発的なカウンターへ。浦和は岩波がファウルで止め、イエローカードを受ける以外に止める術が無かった。この場面を境に、浦和はセットプレーの連続で押し込まれ、さらにボールをすぐに奪い返されるなど、なかなか敵陣に運べない時間が続く。

やっとの思いで運んでも、やはりアル・ヒラルのサイドを強化した守備ブロックに阻まれ、個人の突破も通用しない。そうやって手をこまねいていると、ボールを奪われ、カリージョのロングカウンターが発動。浦和はどんどん疲弊していく。

“一刺し”に失敗した浦和は、八方塞がりになった。九つ目の方角を求め、柏木陽介や杉本健勇を投入するも、大槻監督が言う「圧迫感」を打破する道は見つからず。

そして後半29分の場面を迎えることになった。カリージョのドリブルカウンターで関根が弾き飛ばされ、最後はアルドサリに決定的な1点を食らう。雌雄は決した。

浦和にとっては、やはり前半の決定機を外したのが痛手だった。ハーフタイムを挟んだことで、アル・ヒラルに修正するチャンスを与えてしまった。“一刺し”は何度もできない。相手の修正も的確だった。

そして後半は時間が進むごとに、1点を取らなければという焦りが強くなり、カウンターから失点した場面などは、ボランチの位置にMFが誰も残っていない。点を取れない焦りや疲労から、バランスを欠いた。もちろん、リスクを負うことは仕方がない。しかし、西川のところで負ったリスクとは違い、引き換えに得るものが見えなかった。

こうした状況に応じた戦術を見て行くと、単純な個の力だけでなく、組織の完成度でも浦和は負けていた。このACL決勝までたどり着いたことは素晴らしい。他のJクラブには出来なかったのだから。しかし、”一刺し”の失敗で、ここまで八方塞がりになってしまう事態に、積み上げの薄さ、今シーズンうまくいっていない浦和の現状が表れたように思える。この結果はフェアだった。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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