【116時間減】労働時間が減り続ける日本企業、これで本当によかったのか?
■3年で労働時間が大幅減
「労働時間が減って、売上も減ったら意味がない」
以前、このように言う社長がいた。実際のところはどうなのだろうか。
日本経済新聞は14日、日本の年間労働時間が3年前と比較して116時間も減ったと報じた。足元では小幅に増えているようだが、18年より19年、19年より20年と、年々減少幅が大きくなっている。
注目すべきは長時間労働者の年代別減少幅だ。40~44歳が30万人で最多。続いて35~39歳までが24万人。45~49歳までが21万人。一般企業における中堅クラス、ベテラン社員と呼ばれる人たちが大半を占める。
それにしても、なぜこのように労働時間が減ったのだろうか。その原因と課題について考えていきたい。
健全な理由で労働時間が減ったのならいいが、そうでないのなら企業は大きな課題と向き合うことになる。
■労働時間が減った3つの理由
労働時間が減った理由は3つ考えられる。
1つ目は働き方改革関連法の影響だ。2019年4月から大企業、2020年4月から中小企業に「時間外労働の上限規制新ルール」が適用されている。労働時間の減少幅が年々大きくなっていることからも因果関係があるだろう。とくに罰則付きにしたことが奏功したはずだ。
2つ目は在宅勤務の普及。これも労働時間減に一役買っている。オフィス勤務だと、たとえ自分の仕事が終わったとしても、上司や同僚もしくは部下がオフィスに残っていると帰りづらいものだ。これを「集団同調性バイアス」と呼ぶ。このバイアスは「同調圧力」とは異なり、無意識のうちに判断してしまうので改善が難しい。
ただ在宅で仕事をしていると、このバイアスにかかりづらい。同調性バイアスは集団になればなるほどかかる。だから災害時、大多数の人が東に向かっていれば同じような行動をするし、多くの人が避難せずにいたら同様の行動をとってしまう。あとで「なぜそのような行動をとったのか」と尋ねても本人は答えられない。その場の雰囲気に流されただけだからだ。このように論理的な意思決定ができなくなるのが同調性バイアスである。
私も実際のところ、オフィス勤務だと帰りづらい。
部下たちがまだ1時間も2時間も残ろうとしているのであれば、すぐさま席を立つことは難しい。経営者であってもこうなのだから、部下の立場ではなおさら難しいだろう。特に、労働時間を大きく減らした40代前後の中堅社員は、昭和的な思考から今も抜け出せないでいる。だから、オフィス勤務よりも在宅勤務のほうが、残業時間が減るのは自然の流れだと思う。
3つ目がコロナの影響である。新型コロナウイルス感染症の影響により、仕事が減り、それに伴って労働時間が減ったケースだ。
■労働時間が減っても成果は出さなければならない
ビジネスのみならず、環境因子によって問題が改善されることは多い。たとえば私の知人は結婚しただけで10キロダイエットに成功した。独身時代の荒れた食生活が自然と見直された。
したがって在宅勤務によって自然と労働時間が減ったのであれば健全だ(もちろん本来の仕事がオフィス勤務時と同様にできていると仮定する)。しかし働き方改革関連法の影響で、労働時間のみを減らしたのであれば不健全であるかもしれない。
現在は、多様性の時代だ。
価値観が多様化していくなかでは、中堅社員、ベテラン社員の役割は大きい。部下や後輩とのコミニケーションを、質も量も高めていかなければならない。会話(表面的な情報交換や交流)と対話(お互いの違いを認めながらすり合わせる)どちらも求められる。ベテラン勢は、たとえ在宅勤務していても、時間をしっかりとって後輩や部下と向き合う時間をとらなければならない。
政府は今年6月、「選択的週休3日制」導入も検討をはじめた。このように、労働生産性をアップしなければ生存できないという潮流は変わることなく、さらに現場は労働時間短縮を迫られるはずだ。
そう考えると、世の中のオフィスワーカーは仕事効率を格段に上げていく必要がある。効率化とは、投下労働量に対する成果の比率のこと。単なる時短は効率化とは呼ばない。それゆえに、何がその職場において成果なのか。それを正しく理解し、目的意識をもって仕事をすることだ。
「過去にやってきたから」という理由だけで業務をこなす人はこれからどんどん必要とされなくなるだろう。少ない労働時間で、正しい成果を出し続けることができるのか。とりわけ中堅のベテラン社員は気をつけたい。