今シーズン初勝利。内容に結果が伴った新生・千葉は上昇気流に乗れるか?
【内容の伴った勝利】
なでしこジャパンのアジアカップ制覇から一週間あまり。約1ヶ月の中断期間を経て、代表選手たちも各チームに戻り、なでしこリーグが再開した。
ゴールデンウィークを挟んで3連戦の初戦となった4月29日(日)の第3節では、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(千葉)が、アジアカップを制した代表3選手擁する浦和レッドダイヤモンズレディース(浦和)を1-0で下し、リーグ戦初勝利を飾った。
「やっと、勝てたよ!」
試合後、スタッフとハイタッチを交わしながらロッカールームに戻っていく千葉の選手たちの表情に、安堵の色が浮かんでいた。
今シーズン、藤井奈々新監督を迎えた千葉は、公式戦5試合で4分け1敗と勝利がない状況でこの試合を迎えている。一週間前の浦和とのリーグカップ(△2-2)も記憶に新しく、リードを生かしきれない試合が続いていた。それでも、ゲームの内容自体は右肩上がりで、藤井監督のコンセプトが着実に浸透している様子が伝わってきた。
だからこそ、この一戦で好調の浦和から勝利を掴み取った千葉が、ここから上昇気流に乗る可能性は高い。
昨年と比べて特に変化を感じるのは、選手のポジショニングやボールを受ける姿勢、状況判断などの個人戦術が向上したこと。「走る・闘う」というチームコンセプトに、「考える」という要素が徹底されたことで、千葉のサッカーは明らかな変化を見せている。
「攻守の切り替えを早くして、良いポジションを取っているだけでは勝てません。いつ奪いに行くのか、やめるのか、という判断の質を上げること。自分がファースト(ディフェンダー)になっていたら、パスを出された時にセカンド(ディフェンダーとして)の準備をすること。攻撃では、ボールに関わっていなくても、3人目の裏(を狙う動き)を常に考えること。守備から攻撃、攻撃から守備の時間をいかに早くできるかが重要です」(藤井監督)
この試合では、序盤からハイプレッシャーをかけて、浦和が誇る2トップのFW安藤梢とFW菅澤優衣香へのロングパスを封じ、手数をかけない攻撃で相手ゴールに迫った。最終ラインからのビルドアップでは、パスコースを複数作りながら、迷わず縦パスを差し込んでいった。
もう一つの大きな変化は、主力2人のポジションが変わったことだ。昨年までは右サイドハーフ(右サイドバック)でプレーしていたDF千野晶子がセンターバックに、同じくセンターバックでプレーしてきたMF西川彩華がボランチにコンバートされた。高さのある2人を中央に配置したことで、空中戦の対応で強さが増し、より高い位置でボールを奪えるようになった印象だ。
この試合も、その堅守で主導権を握り、さらに幾つかのファインプレーで勝利を引き寄せた。
【勝利をもたらしたファインプレー】
中でも大きな存在感を示したのが、2度のビッグセーブでチームを救ったGK船田麻友。ここまでリーグ戦2試合に先発してきたGK根本望央(みお)が負傷し、重要な一戦でゴールマウスを任された。
「監督から以前、『チームが苦しい時に、お前を使う』と言われたことがあって。何気ない言葉だったけれど、(心に)刺さったんです。とにかくこのチャンスを逃さず、自分のものにしていくぞ、と思いました」(船田)
一つ目のビッグセーブは、0-0で迎えた48分。浦和の安藤にゴール正面の至近距離から打たれたが、最後までボールの軌道を見失わず、股下でブロック。2つ目は、1点リードで迎えた後半アディショナルタイム。浦和のDF高畑志帆のシュートがバーに跳ね返り、そこに安藤が詰めていた。
「あそこに詰めている安藤さんはさすがだな、と。あの嗅覚は、恐ろしいです(笑)」と、船田は苦笑いで振り返る。だが、至近距離から打たれたシュートを再び、体でブロックした。しかし、これで終わりではなく、ゴールライン上を転がったボールに、再び安藤が詰めた。
ここで、センターバックの千野が、ゴールライン上に体を投げ出してボールをクリア。まさにこれがラストプレーとなり、タイムアップ。船田と千野のファインプレーでゴールを死守し、1点を守り抜いた。
攻撃では、サイドバックのDF上野紗稀のプレーが光った。66分、左サイドのタッチライン際を強引にドリブル突破。相手を3人かわしてゴールライン際から折り返す、フォワード顔負けのプレーを見せた。
「あの時間帯は1対1でボールを失う事が多かったので、自分で仕掛けて入って行きました。サイドからえぐってセンタリングを上げる練習もしていたので、ゴリゴリ(ドリブルで抜きに)いきました」(上野)
その上野のプレーから得たコーナーキックの場面で、DF櫻本尚子のヘディングの折り返しに飛び込んだのが、チーム最年長のFW深澤里沙だ。90分間、全力でボールを追い、泥臭く、抜け目がないーー深澤らしい決勝弾だった。
【たしかな伸びしろ】
千葉は67分に先制したが、それから試合終了まで、引くことなく、前線からのプレスを続けている。前半と同じ質の走りを試合終盤まで続けるのは無謀にも思えるが、それを可能にしてしまうスタミナが、千葉にはある。
とはいえ、終盤には前述のようなピンチを迎えたこともあり、勝っているゲームの終わらせ方には今後の伸びしろを感じる。
また、千葉はこの試合で交代枠を一つも使っていない。藤井監督は「本当は、(次戦まで中3日の)短いスパンを考えたら替えたかったのですが」と前置きした上で、その理由を次のように話した。
「(交代しなかったのは)人を替えることで守備のバランスが崩れることを避けたかったからです。先週の試合では交代を入れて、ボランチがぼやけてしまったところを後半、相手にうまく使われてしまいましたが、今日は自分たちで声をかけ合って変化していったので、替えませんでした。逆に、相手が3枚替えても流れが変わらなかったので、このままでも大丈夫だと思っていました」(藤井監督)
初勝利にホッとした笑顔を見せた藤井監督だが、言葉の端々には、この勝利があくまでも通過点であることや、チームのさらなる進化への期待が感じられる。
たとえば、藤井監督は、コンバートした千野と西川のポジションを固定するつもりはないという。試合を重ねる中で、ベストな布陣を探っていく。相手に研究されないチーム作りも目指している。
ベンチ入りメンバーは7人まで登録可能だが、あえて2つ枠を空けたのも、「戦える選手しか帯同させない」という、徹底した方針が根底にある。ポジション争いの激しさは容易に想像できる。
接戦を重ねながら、一歩一歩、着実に階段を上っている新生・千葉。その変化のスピードは、今シーズン、他チームにとって脅威になるはずだ。