映画「あの日々の話」やテレビドラマ「最愛」といった映画やテレビドラマはもとより、玉田企画やマレビトの会など、舞台出演も数多い俳優の山科圭太。

　役者として確かなキャリアを歩みながら、実はもともと作り手を目指していた彼は、2012年に三宅唱監督の「Playback」で助監督を経験すると、2021年「ボディ・リメンバー」で念願の監督デビューを果たした。

　それ以後も役者として精力的に活動する傍ら、時をあまり置くことなく早くも届けられたのが監督第2作となる「4つの出鱈目と幽霊について」だ。

　タイトルから少し察しがつくが、「幽霊」をキーワードにした４つの短編からなるオムニバス形式の一作。

　ただ、ジャパニーズホラーをはじめとした「幽霊」が出てくる映画ではない。

　古代から現在に至るまで人はなぜこうも「幽霊」は語られるのか、なぜ人は「幽霊について語りたがるのか」のか。

　そんなところから発想をとばした４つのユニークでいい意味で出鱈目な物語が語られる。

　新たなチャレンジに臨んだ山科監督に訊く。全七回。

監督デビュー作「ボディ・リメンバー」を振り返って

　まず監督デビュー作となった前作「ボディ・リメンバー」から、今回の「４つの出鱈目と幽霊について」へ踏み出すまで、どういう経緯をたどったのだろうか？

「そうですね。

　『ボディ・リメンバー』は、デビュー作ということもあってかなり力が入りました。

　今回が力が入ってないというわけではないのですが（苦笑）、デビュー作ゆえの全力投球で自分の映画に対する思いをすべてぶつけたところがあって。自分がやりたかったこと、自分が描きたかったこと、それを自分のやりたいようにやったところがありました。

　そのことにまったく後悔はないのですが、劇場での公開を終えたとき、少し反省したことがあって……。

　それは、あまりに自分のやりたいことにこだわり、自身の映画への思いみたいなことを詰め込み過ぎてしまって、見てくださる方にまでまったく自分は思いを寄せることができていなかった。

　よく映画は観客のもとに届けて、みなさんに見ていただいて完成する、と言います。

　劇場公開で、実感したのはまさにそのこと。

　自分でも公開することで、ちょっと独りよがりになってしまったと気づく点もあって……。

　デビュー作であまりに力が入り過ぎていて周りが見えなくなっていたところもあったので、次に作るならば、もう少し冷静になって視野を広げて、もっと開かれた作品にしたいと、気持ちを新たにしました」

自分の中にあるアイデアをパッと形にするようなことがしたい

　その中で、すぐ今回の４編のオムニバスという形が浮かんだのだろうか？

「いや、それがぜんぜん違いまして。

　『ボディ・リメンバー』は、まだまだ自分が監督として未知数だったにもかかわらず、いろいろと恵まれてかなりきっちりした制作体制を組むことができたんです。

　なおかつ実際の撮影もかなりじっくりと時間をかけて納得して撮ることができました。

　ただ、同じような体制で作品を作ろうとすると、どうしてもかなりの時間がかかってしまう。

　下準備から計算するとそれこそ年単位で考えないといけない。

　自分としてはそれはちょっと避けたいというか。

　じっくり時間をかけて長編に取り組むというより、自分の中にあるアイデアをパッと形にするようなことがしたい。

　そう考えると、少人数体制で短編に取り組むのがいいのではないかと。

　なので、長編とかオムニバスとか全く考えていなくて、まず１本、短編を作ろうと思いました。

　先ほど言ったようにデビュー作は自分の映画への思いが入り過ぎて、思考が勝手にガチガチになったところがあるので、もっとリラックスして自由な発想で作品に取り組みたい気持ちもあったと思います。

　また、原点回帰というわけじゃないですけど、自分でカメラを回したり、スタッフワークに深くかかわったりといったことも、自分には必要ではないかという考えもありました。映画をトータルに体験したい気持ちがあった。

　そこで少人数での短編製作にまずはトライするのがいいのではないかと考えました」

「４つの出鱈目と幽霊について」の出発点

　そんなことを考えていたときに『ボディ・リメンバー』で共同脚本を担当した三宅一平からから連絡が入ったという。

「ある日、三宅くんから連絡が入ったんです。『戯曲を書いたので読んでみてもらえないか』と。

　早速、目を通したんですけど、ワンシチュエーションの物語で、短編にはうってつけのもので。

　『これで短編撮ってみようよ』という話にまとまりました。

　これが今回の『４つの出鱈目と幽霊について』のはじまりでした」

（※第二回に続く）

「4つの出鱈目と幽霊について」

監督・編集・プロデューサー：山科圭太

脚本：三宅一平／山科圭太

出演：小川あん　斉藤陽一郎　祷キララ　伊東沙保

吉田正幸　今野誠二郎　アイダミツル　生実慧　長井短　用松亮　森優作

奥田洋平　神田朱未　田中爽一郎　影山祐子　神谷圭介　深澤しほ　鳥島明

公式サイト　https://4tsunodetarame.com/

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて（C）2023 GBGG Production