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「薬剤耐性あるある川柳」から考える耐性菌問題 〜傾向と対策〜

忽那賢志感染症専門医
第3回 薬剤耐性あるある川柳(AMR臨床リファレンスセンターより)

毎年11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」です。国民一人ひとりが耐性菌の問題を意識し、取り組んでいきましょう。

さて川柳と言えば日本を代表する近代文芸ですが、皆さんは「薬剤耐性(AMR)あるある川柳」をご存知でしょうか。

なんと!ご存じない!?

薬剤耐性(AMR)あるある川柳と言えば応募型川柳コンクールの中で「サラリーマン川柳」と双璧をなす「川柳界の芥川賞」とも言える存在です(個人の印象です)。

第3回 薬剤耐性(AMR)あるある川柳

毎年11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」ということで、「薬剤耐性(AMR)あるある川柳」が募集されています。

医療従事者向けというわけではなく、「日本国内および海外に在住する小学生以上の方」が応募対象です。

せっかくなのでここは一発金賞を狙おうではありませんか!

というわけで、私が傾向と対策を分析して皆さまに「金賞を狙える川柳」の作り方を指南させていただきます。

「そもそもおまえ、川柳ドシロウトだろ!」とお思いの方もいらっしゃるかと思いますが、いえいえ、そんなことはございません。

何を隠そう、私はAMR川柳に「クツナックス山頭火師匠」というペンネームで第1回から投稿している常連なのです。

ちなみにクオリティが高すぎたのか、選考には紙一重の差で落選しました。

そんな私が川柳を指南するのも心もとないと思うかもしれませんが・・・安心してください、大丈夫です!(全く根拠なし)

昨年の受賞作品を振り返る

それでは昨年の受賞作品を振り返りつつ、傾向と対策を考えてみましょう。

まずは佳作の作品からです。

佳作作品(AMR臨床リファレンスセンターHPより)
佳作作品(AMR臨床リファレンスセンターHPより)

「ペット・・・?耐性菌とペットが関係あるの?」と思われるかもしれません。

実は抗菌薬が効かない耐性菌はペットでも、そして家畜でも問題になっているのです。

家畜の持つ耐性菌は、食事を通して人間にも伝播する可能性があります。ペットの場合はスキンシップによって耐性菌の伝播の可能性があります。ペットや動物の持つ耐性菌は人間にとっても大きな問題なのです。

日本のペットの耐性菌について調べた研究がありますが、人間が持つ腸内細菌科のうち「ESBL」という強烈な酵素を持つ耐性菌はおよそ10〜20%なのに比べ、ペットの持つESBL産生菌は20〜60%にも及ぶことが分かっています(感染症誌 91: 392~398, 2017)。

その原因としてはペットに対する抗菌薬の不適切な使用と言われています。もはや人間への抗菌薬使用だけでなく、ペットや家畜への使用も我々人間に影響を及ぼす要因になっているのです。

人間だけでなく動物や環境も含めて健康を考えていくという概念を「ワンヘルス」と言います。

抗菌薬が投与され耐性菌を保有するようになった家畜の食肉などを介して私達人間にも耐性菌が侵入してきます。

耐性菌の問題はヒトだけでなく動物や環境まで広く捉えて考える必要があります。

ワンヘルスの概念(AMR臨床リファレンスセンターHPより)
ワンヘルスの概念(AMR臨床リファレンスセンターHPより)

このワンヘルスという概念はAMR川柳金賞を狙うポイントと言って良いでしょう。

つまり5・7・5の中のどこかに「ワンヘルス」とか「ペット」とか「動物」とかをぶっこんでおくとポイントアップです。

なおクツナックス山頭火師匠の過去の落選作品として、

ワンヘルス いわゆるひとつの ワンヘルス

   〜クツナックス山頭火師匠〜

がありますが、やや前衛的すぎましたかね。ワンヘルスを押しすぎました。もう少し婉曲的にワンヘルス要素を入れると良いでしょう。

次は銀賞です。

銀賞作品(AMR臨床リファレンスセンターHPより)
銀賞作品(AMR臨床リファレンスセンターHPより)

これはシンプルかつ重要なメッセージですね。

抗菌薬という限りある資源を次世代に残そうということです。

前回もお話しいたしましたが、このまま抗菌薬が不適切に使われ続けると将来は抗菌薬の効かない耐性菌に溢れた世界になり、もはや抗菌薬は使えなくなってしまいます。

2050年の死亡者数とその原因(推計)(出典:Resistance: Tackling a crisis for the health and wealth of nations)
2050年の死亡者数とその原因(推計)(出典:Resistance: Tackling a crisis for the health and wealth of nations)

そのような世界にならないように、不必要なときには抗菌薬は使用せず、必要なときにだけしっかり使いましょうということですね。何事もメリハリが大事です。

こういった「未来目線」のメッセージも受賞しやすいポイントと言えるかもしれません。

それではいよいよ金賞です。

金賞作品(AMR臨床リファレンスセンターHPより)
金賞作品(AMR臨床リファレンスセンターHPより)

さすが金賞、素晴らしい作品ですね。

「念のため」というのは、よく抗菌薬が処方される言い訳として使われる文言ですね。

「かぜだと思うけど念のために抗菌薬を出しておきましょう」という風景を医療現場でよく見かけます。

しかし、かぜには抗菌薬は不要です。

確かにかぜの後に肺炎を起こしてしまう人はいますが、抗菌薬を飲んでも「かぜの後の肺炎」を防ぐことはできません。

厳密には1万2255人のかぜ患者に抗菌薬を処方すれば1回の肺炎患者の入院を防ぐことはできるという報告(Ann Fam Med. 2013 Mar-Apr;11(2):165-72.)はありますが、残りの1万2254人については不要な抗菌薬によって下痢などの副作用を被り、お金もかかるだけの不要なものです。

例えば最もよく使われる抗菌薬の一つであるペニシリン系の抗菌薬を1万人が飲めば、1人はアナフィラキシー反応という重篤な副作用が出ることがあります。

宝くじの当選確率と比較して考える抗菌薬のメリットと副作用(筆者作成)
宝くじの当選確率と比較して考える抗菌薬のメリットと副作用(筆者作成)

それと同じくらいの頻度で肺炎を防げるとしても、皆さんは抗菌薬を飲みたいと思いますか?

肺炎になったとしても、日本は医療アクセスの良い国ですので、すぐに受診すればほとんどの場合は治療可能です。

大事なのは「かぜの後に稀に肺炎になることがある」ことを知っておくことで、やみくもにかぜの後の肺炎を恐れて抗菌薬を飲む必要はないのです。

ということで「かぜに抗菌薬は不要」というメッセージも受賞しやすいポイントです。

ここで再びクツナックス山頭火師匠のお手本です。

日本の未来を ウォウウォウ したければ ストップ かぜに抗菌薬

   〜クツナックス山頭火師匠〜

とかどうでしょうか。銀賞の「未来のために」、金賞の「かぜに抗菌薬はダメ」を入れ込んでみて、さらにモーニング娘。にインスパイアされてみました(オッサンなのがバレバレ)。素晴らしい作品ですので、これどなたか私クツナックス山頭火師匠の代わりに投稿していいですよ。権利をお譲りいたします。ただし、5・7・5ではなく、勢い余って5・7・5・7・7になっちゃってますのでたぶん予選落ちです。

ということで、クツナックス山頭火師匠が考える川柳金賞を狙うためのポイントは、

・ワンヘルス

・未来目線

・不要な抗菌薬処方はやめよう

という要素が重要です!

このAMR川柳をきっかけに皆さんが抗菌薬や薬剤耐性菌について考えるきっかけになれば幸いです。

「ついついしてしまう…」「知らなかった!」「言われてみれば」「ある?ある!」など、抗菌薬や耐性菌に関して共感できる、日頃感じていること、実体験を川柳として詠んでみてください!

応募規定

・応募はひとり5句まで

・入賞作品はひとり1句までとなります

・日本国内および海外に在住する小学生以上の方

・本人が創作した未発表で第三者の著作権を侵害しない作品、個人情報が含まれていない作品に限ります

応募方法

AMR 臨床リファレンスセンターHPの「応募する」ボタンをクリックして専用フォームに作品と必要事項を記入の上、投稿してください。

またハガキでも応募を受け付けていますので下記の必要事項を記入の上、郵送にてご応募ください。

1 作品

2 ペンネーム(フリガナ明記)

 本名(フリガナ明記)

3 生年月日・年齢・性別

4 郵便番号・住所・電話番号・メールアドレス

※応募作品は返却いたしませんのでコピー(控え)をおとりください。

送り先・お問い合わせ先

〒105-0011

東京都港区芝公園1-8-21 芝公園リッジビル5F

第3回「薬剤耐性(AMR)あるある川柳」事務局 行

(株式会社公募ガイド社内)

TEL:03-5405-2062

Mail: amr-senryu@koubo.co.jp

応募期間

2019年11月1日(金)から11月30日(土)(必着)

入賞発表

2020年1月下旬(予定)

AMR情報サイト/Facebookページにて発表。

入賞者には賞状と記念品をお送りします。

応募上のご注意

応募及び入賞作品は、当センターのウェブサイト・SNS・報道資料等、広告広報活動に使用することがございます。

ご了承のうえ、ご応募ください。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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