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久保建英をめぐる冒険。息づくマジョルカの鼓動。

森田泰史スポーツライター
ボールを追う久保(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

スペイン、マジョルカ島ーー。男は、そこに、降り立った。

マジョルカでプレーする日本人選手は、彼が3人目だった。大久保嘉人、家長昭博が、この島で挑戦している。

久保建英のマジョルカへのレンタル移籍が発表され、2カ月余りが経過した。パルマ・デ・マジョルカ(マジョルカ島)で、彼の名前は確実に認知され始めている。

■久保を獲得したレアル・マドリー

レアル・マドリーが久保の獲得に動いたのは、2019年の夏だった。あろうことか、バルセロナのカンテラーノとして日本で名を馳せている久保を、フロレンティーノ・ペレス会長は手中に収めようとしたのである。

マドリーの行動は迅速で的確だった。FC東京との契約満了を迎え、フリートランスファーで獲得できるという状況が追い風になった。バルセロナが出し渋った120万ユーロ(約1億4000万円)といわれる年俸を準備して、一瞬にして久保の獲得を決めてしまった。

久保の移籍が、マドリーのブランド力向上と、バルセロナのイメージダウンに繋がったのは言うまでもない。近年、若手選手を積極的に確保してきたマドリーと、育成寮ラ・マシアの影響力が落ちているバルセロナにおいて明暗が分かれた。

そして、マドリーが認めた久保という真珠に、リーガエスパニョーラ1部の複数クラブが関心を寄せた。最終的に彼を射止めたのはマジョルカだった。

■マジョルカの声

実際、マジョルカの人々は、彼の移籍をどのように受け止めているのだろうか。本拠地ソン・モイシュで、サポーターたちの声を聞いた。

「僕はエスパニョールファンだけど、おじいちゃんはマジョルカファンだから」と語るのは、ギジェルモ君だ。そしてマジョルカサポーターである彼の祖父は、「まだ、久保には、多くのものが欠けていると思う。1部でプレーするためのポテンシャル、試合に出たいという意欲は伝わってくる。けれど、ここはスペインだ。守備の選手たちは、とてつもない能力を備えている。それに適応できなければ、良い結果は生まれない」と付け加える。

「マジョルカの目標は1部残留だ。多くの選手は2部や2部Bでプレーしてきた。そのチームを変える必要はないよ。そこに、久保のような選手を加え...そうだ、彼には他の呼び名があるようだけど、私は久保と呼んでいるよ。久保は賢い選手だ。アスレティック・ビルバオ戦では、合流して間もなかったが、途中出場でPKを獲得した。誰もができることではない。彼の価値は疑いようがない。ただ、フィジカル、経験、そういったものが不足しているんだ」

日の丸が記されたハチマキを頭に巻いていたフアン・アントニオさんは、「マジョルカが彼を獲得したというより、レアル・マドリーからレンタルしてもらったという感覚だ。マジョルカは、彼にプレータイムを与える。彼は自分の価値を示す。僕たちとしては、1部残留の助けになってほしい」と話す。

「タケが来るまで、日本のことはあまり知らなかったんだ。だけど、彼が加入してから、友達から日本のものをプレゼントされるようになったりして、興味が湧いてきた。マジョルカに適応することや、この街に慣れることは難しくないと思う。大変かもしれないけど、うまくやれるはずだよ」

「僕は幼い頃から、ずっとマジョルカのファンなんだ。今年のマジョルカは良いよ。戦い方が変わって、久保のような素晴らしい選手を補強した」と述べたのは、ガビさんである。「タケは常に試合に出るべき。一番の補強だ。得点はないけど決定機を多く作ってくれる。チームで最も危険な存在だと思う。まだ経験不足な面はあるけれど、徐々にチームに適応していくと思う。今のところ、とてもうまくやっていると思う。本当にね」

■雰囲気

マジョルカは観光都市だ。地元の人々は、外から来る人たちとの触れ合いに慣れている。言葉ができれば、そのスムーズさの度合いは増す。カタルーニャ州の一部ではあるが、現在のバルセロナのように、独立に向けたピリピリとした雰囲気はない。カタルーニャ語だけを話すテレビ局は、マジョルカでは一つだけだと聞いた。良く言えば寛容、悪く言えばルーズな人々が、そこにはいた。

マジョルキンは基本的にとても教養がある。年配の方のなかには、カタルーニャ語を話す人もいる。だが、基本はカスティリャーノ(スペイン語)で会話が繰り広げられ、彼らの発音はきれいで聞き取りやすい。外国人との触れ合いにも慣れているため、使う言葉や単語もシンプルなものが多い印象だ。

観光客にはドイツ人が多いようで、街を気に入り移住する者もいる。その影響もあるのだろうか、スペインの中では、規律を重視する人たちが生活している。なおかつ資金潤沢なビジネスマンが訪れる街で、有能なワーカーの中には、プライベートジェットでマジョルカを訪れる者もいるという。

朝、起きて散歩に出ると、午前8時頃だったが店はおおむね閉まっていた。マジョルカの街は静かに、その鼓動を確かめるようにゆっくりと動いている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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