中須賀が開幕2連勝で迎える鈴鹿決戦!エントリー73台のJSB1000で鈴鹿8耐への流れを掴むのは?
「全日本ロードレース選手権」の最高峰クラス「JSB1000」は、ヤマハワークスの中須賀克行が2レース制で行われた開幕戦(ツインリンクもてぎ)を連勝で飾り、2018年シーズンをパーフェクトな形でスタートした。4月21日(土)22日(日)は舞台を鈴鹿サーキット(三重県)に移し、第2戦を迎える。
今回は「鈴鹿8時間耐久ロードレース」の前哨戦として位置付けられ、プライベーターたちが出場権を争う「8耐トライアウト」も兼ねており、エントリー台数は大幅増の73台(4/13時点)。鈴鹿の決勝出場台数は44台のため、なんと29台が予選落ちする計算だ。ヤマハワークスが鈴鹿でも好調を維持するのか、はたまた波乱の展開が待っているのか、第2戦の見所をご紹介して行こう。
中須賀はJSB1000で40勝目
現役にしてレジェンドの領域。7度の最高峰クラスJSB1000王者の中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM/ヤマハ)はツインリンクもてぎでの開幕2連勝で同クラス通算40勝目を達成した。この記録は歴代最多の記録であることはもちろん、歴代2位の秋吉耕佑(au・テルルMotoUP RT/ホンダ)が19勝であることを考えると、倍以上の勝利数の中須賀は既に孤高の域に達している。
事前テストからレコードタイム(1分48秒460)を大幅に上回るタイムを非公式にマークしていた中須賀はレースウィークに入っても頭一つ抜きん出るトップタイムを連発。公式予選は残念ながら雨絡みのウェット路面となり、レコードタイム更新とはならなかったが、ヘビーウェットのコンディションでも一発逆転のポールポジションを獲得するなど、中須賀が全てにおいてレースウィークを独占した。
昨年はツインリンクもてぎで圧倒的な速さを見せながらも新導入の17インチタイヤの扱いに苦しみ、レース終盤にまさかの転倒。忌まわしい思い出のあったサーキットだったが、その悪いジンクスを自ら払拭してみせた。もはや誰も止めようのない勢いを見せている。
今季からJSB1000は土日に各1レースずつ決勝を行うが、中須賀は「疲れは全然なくて、むしろ土曜日に1レースすることで日曜日のレースにリズムに乗っていける。日曜日により良い走りができる」と2レース制を大歓迎。その言葉通り、完全なドライコンディションで行われた日曜日の第2レースでは2位の野左根航汰(YAMAHA FACTORY RACING TEAM/ヤマハ)を13秒近くも引き離す速さを披露した。乗れている時の中須賀のライディングは実に美しく、第2戦・鈴鹿でどれだけ他を圧倒するかにも注目したい。
鈴鹿が鍵となる野左根
優勝した中須賀、2位表彰台を獲得した野左根とヤマハワークスの「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」が今季初の1-2フィニッシュを飾った開幕戦レース2。ホンダワークスが早々に戦線から離脱したとはいえ、ヤマハワークスは3位の渡辺一馬(Kawasaki Team Green/カワサキ)に対してトータル約22秒の差。開幕戦ではヤマハワークスの速さが際立った印象だ。
2位の野左根航汰は昨年ツインリンクもてぎで2勝を飾ったものの、これらは中須賀の転倒も影響しての勝利。今年は自力での優勝が期待されたが、野左根は開幕前からテスト中の転倒が相次ぎ、レースウィークになってもリズムを崩していた。「波に乗れていなかったのは自分のせい」とスランプに陥った原因は自分にあることを認めるも、レース1ではバックマーカーと接触して転倒。レース2で何とかリズムを取り戻し、表彰台フィニッシュを果たした。
野左根は第2戦鈴鹿について、「正直、あまり得意ではない」と弱気なコメントをしているが、彼にとって第2戦鈴鹿は夏の「鈴鹿8耐」に向けてという意味でもキーとなるレースになるだろう。今季、まだヤマハワークスは鈴鹿8耐のライダー編成を発表していないが、ワークスライダーである野左根も当然その候補。昨年は海外耐久チーム「YART-YAMAHA」から参戦したが、今季は全日本JSB1000に集中。8耐のワークスチーム入りにはやはり中須賀にどこまで肉薄できるかという所がポイントとなる。そういう意味で勝負に出なくてはいけない野左根はレース全体のキーマン言える存在だ。
ホンダワークスは追いつけるか?
今季のJSB1000、鈴鹿8耐の大きなテーマは「ホンダvsヤマハ」のワークス対決だ。チャンピオン高橋巧(Team HRC/ホンダ)を擁して復活したホンダワークスは、高橋のトレーニング中の怪我で事前テストから苦境に。しかし、レースウィークには怪我の回復も何とか間に合い、高橋巧はレース1を2位でフィニッシュした。
「決勝のロングランで怪我の影響がどう出るか心配」と語っていたものの、レース1ではファステストラップも記録するアグレッシブな走りをレース後半に披露。チャンピオンになって殻を破った高橋巧を垣間見たと同時に、ライダーが怪我をした状態でテストも充分ではなかったことを考えるとホンダワークス「Team HRC」のポテンシャルは相当なものである。
レース2は他車との接触により、サイレンサーが脱落するトラブルに見舞われ後退。ホンダワークスの本当の実力は未知数のまま終わってしまう形となった。昨年、新型「CBR1000RR SP2」をデビューさせ、電子制御のセッティングに苦戦していたと言われるホンダだが、開幕戦でのプライベーターたちの戦闘力アップを鑑みても、その壁は乗り越えたと見られる。熟成が進み、いよいよ本格的な勝負に入るのが第2戦・鈴鹿となるはずで、スリリングなワークス対決が見られることを期待したい。
もはや伏兵ではないホンダ勢
開幕戦・ツインリンクもてぎではイタリアのタイヤメーカー「ピレリ」の好調ぶりも目についた。特にウェットの路面や路面温度の低い状況下で「ピレリ」ユーザーが速さを発揮。その代表的チームである「モリワキ」はレース1で清成龍一(MORIWAKI MOTUL RACING/ホンダ)が3位表彰台。レース2では高橋裕紀(MORIWAKI MOTUL RACING/ホンダ)が5位フィニッシュを果たした。
今季、「モリワキ」と「ピレリ」は協力関係を密接なものにしている。冬に清成龍一が担当したセパンサーキットでのテストが早くも効果を発揮した結果となった。とはいえ、モリワキだけに戦闘力の高いスペシャルタイヤがデリバリーされているわけではなさそうで、ピレリをチョイスしたチームが軒並み好タイムを刻んでいたのも興味深い。昨年、鈴鹿8耐テストではトップタイムをマークしたピレリ。過酷な8耐のコンディションの知見を得て今季に向けて作ってきたタイヤがうまく機能するか、まずは春の鈴鹿でその実力に着目したい。
また、ホンダのプライベーターでは秋吉耕佑(au・テルルMotoUP RT/ホンダ)が今季からブリヂストンにタイヤを変更し、テストから好調だ。開幕戦のレース2を前にしたウォームアップ走行では1分49秒台に入れる3番手タイムをマーク。秋吉自身も手応えを掴んだようで「第2戦の鈴鹿をターゲットにバイクを作っています。良い感じで仕上がってきている」と顔もホクホク。レース2は7位フィニッシュで表彰台争いには加われなかったが、パドックでは「秋吉はキット車最速だ」と話題になっていた。ホンダ+ブリヂストン+秋吉といえば、かつて鈴鹿では「韋駄天」の異名で誰も手がつけられない速さを発揮したパッケージ。しかし、現在の秋吉が駆るのはキット車=市販レースベース仕様とのこと。いわゆるワークス仕様ではないマシンで、鈴鹿でトップ3に食い込むことができるとしたら、ホンダ勢は夏に向けて相当勢いづくことになるだろう。
観客を沸かせたW渡辺のバトル
ヤマハとホンダがワークス体制を投入して開幕したJSB1000。もちろんカワサキとスズキも負けてはいられない。開幕戦のレース2では渡辺一馬(Kawasaki Team Green/カワサキ)と渡辺一樹(ヨシムラスズキMOTUL/スズキ)による激しい3番手争いが観客の目を釘付けにした。名前が似ているが血縁関係は無い2人。渡辺一樹はカワサキからヨシムラ・スズキに電撃移籍したということで、まだ見る方が慣れないという感じだが、渡辺一樹はヨシムラ・スズキのデビューレースからアグレッシブな走りを披露。即戦力としての可能性を示した。
カワサキの渡辺一馬は地元・栃木県のツインリンクもてぎで3位表彰台を獲得。ヤマハワークス、ホンダワークスをキャッチできるまでには至らなかったが、「レースウィークを通じてフィーリングがどんどん良くなっていった」と良い感触を掴んでいる様子。夏の鈴鹿8耐にはカワサキワークスライダーのジョナサン・レイを迎えて戦うことが決定しており、第2戦鈴鹿は重要な戦いになる。「鈴鹿で良い成績を残して、ジョニー(ジョナサン・レイ)に速いバイクに仕上がっていることを結果で伝えたい」と意気込み充分だ。
エントリー73台、普段とは違う
開幕戦・もてぎが38台のエントリーだったのに対し、第2戦・鈴鹿は73台。鈴鹿8耐の出場権を争う「8耐トライアウト」の選考対象レースということもあり、空前の大量エントリーとなった。
「8耐トライアウト」は開幕戦で新規チーム扱いの「Team HRC」(ホンダワークス)、「SuP Dream Honda」「TONE RT SYNCEDGE 4413」が選考を通過。今回の鈴鹿ではまだ出場権を持っていない希望チームの中で上位13チームが通過する予定(土曜日のレース1で決定する)。開幕戦に比べれば枠に余裕はあるが、メーカー系のトップチームは既に出場資格を持っており、プライベーターによる熾烈な出場権争いとなりそうだ。それより何より、予選落ちが29台も出るというエントリーの中で、「8耐トライアウト」対象ライダーが決勝に駒を進められるかどうかがまず運命の別れ道。予選からプライベーターも必死のアタック合戦になる。
プライベーターの決勝進出をかけたアタック合戦が熾烈になれば、転倒が相次ぐ可能性もある。そのため、スムーズに予選が進むとも限らない。不確定要素を避けるため、トップチームはまず我先にコースインしてファーストアタックを敢行するだろう。予選ベストタイムがレース1のグリッド、それぞれのセカンドベストがレース2のグリッドを決めるタイムとなり、トップチームも最初から飛ばしに飛ばす予選は見応えがありそうだ。
決勝進出のボーダーラインは2分13秒台となる可能性が高く、プライベーターにとっては予選通過すらかなり高いハードルとなる。決勝レースは最終戦MFJグランプリのレース2より2周少ない18周となるが、2分6秒台のハイペースで走行すると考えられるトップグループは最終ラップ目前で「8耐トライアウト」を戦うプライベーターの争いに遭遇する可能性がある。まさに最初から最後まで何が起こるか予測不能なレースウィークになりそうだ。2018年の最重要レースの一つ「NGKスパークプラグ鈴鹿2&4レース」で勢い付くのは誰だろう?