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若手実力者・近藤誠也七段(25)今期王将リーグ初白星 フリースタイル・糸谷哲郎八段(33)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月14日。東京・将棋会館において第71期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ戦▲糸谷哲郎八段(33歳)-△近藤誠也七段(25歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は17時56分に終局。結果は106手で近藤七段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は、近藤七段は1勝1敗。糸谷八段は0勝3敗となりました。

近藤七段、攻め続けて快勝

 糸谷八段先手で、戦型は角換わり。そこで定跡形には進めないのがフリースタイルな糸谷将棋です。

 近藤七段が6筋の歩を突いたのを見て、趣向で四間飛車に振ります。これは予定の作戦ではなかったようですが、観戦者の目をひくような進行でした。

 近藤七段は慎重な姿勢。相手の動きを警戒しながら、銀冠の堅陣を組みます。

近藤「基本的に後手番なんで、待ちの姿勢で」

 7筋の位を取ったものの「具体的なプランが難しかった」という糸谷八段。コンピュータ将棋ソフトが示す評価値では、振り飛車側の糸谷八段に不利な点数が出ていました。

 とはいえ、ほとんどの人間の観戦者の目には、ほぼ互角に見えたと思われます。終局後、質問する記者が「苦しい状態で中盤が続いていた?」と尋ねると「あ、そうなんですか?」と糸谷八段も意外そうな声をあげました。

糸谷「そうなんですかね。千日手かなあ、と思ったんですけど、ちょっと苦しいんですかね。わからなかったです」

 手詰まり模様の中、47手目、先手番の糸谷八段は位を取った7筋に筋違いの角を据え、局面の打開をはかります。

糸谷「角を打つところで何をするかがわからなかったです」

 ずっと好機を待っていた近藤七段。糸谷八段が角を打ったタイミングで動き、駒がぶつかる戦いが始まりました。

 58手目。近藤七段は相手の金の頭に角を打つハードパンチを放ちます。この攻めが鋭い好手でした。

 近藤七段は銀冠の堅陣を残したまま、一方的に糸谷玉に迫る形を得ます。形勢は次第に近藤優勢へと推移していきました。

糸谷「粘ってたんですけど、ちょっとやっぱり、あちらが堅い形なので」

 糸谷玉は最後、中段に逃げ出し、近藤陣の手前にまで泳ぎだしましたが、入玉は望めない形。飛車打ちの王手を見て、糸谷八段は投了を告げました。

「強敵の方しかいませんので、毎局厳しい戦いが続く」という近藤七段。価値ある今期1勝目をあげました。

 一方、前半戦3連敗で、星勘定としては苦しくなった糸谷八段。「いろいろ指していきたいと思います」と語っていました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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