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A24の映画は、はたして10年後もクールでいられるか? 『グリーン・ナイト』D・ロウリー監督は語る

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『グリーン・ナイト』首斬りゲームのシーンを演出するデヴィッド・ロウリー監督(左)

11/25に公開される『グリーン・ナイト』は、製作がA24ということで映画ファンには注目の作品である。

A24は、数年前からアカデミー賞に絡む傑作を次々と製作・配給しつつ、『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』などインパクト強すぎの世界で観客の心をざわめかせ、つい先日の9月に公開された『LAMB/ラム』も、羊と人間が一体化したようなキャラクターが話題を呼んで、日本でもスマッシュヒットとなった。

つまり、A24の作品というだけで、ある一定の人の心に鋭く刺さってしまう。そして刺さる喜びを味わいたいクールな体験をしたい新しい世界に連れて行かれたいという人が現れ、A24のファンが増える。そんなループができあがっている。

A24製作の『グリーン・ナイト』も、中世の叙事詩を基にした物語ながら、「首斬りゲーム」で始まるという、超センセーショナルな世界が展開。主人公の旅には、人間の言葉を話すキツネや、荒野に吊るされたガイコツ巨人たちの行進……などなど、幻想的かつ奇抜なビジュアルの宝庫で、目にしているだけで異次元トリップさせてくれる。その意味でA24らしい作品だ。

監督・脚本のデヴィッド・ロウリーは、2017年の『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』を、すでにA24の下で撮っている。その作品も、死んだ夫が白い布を被った幽霊の姿で現れるという、不思議なセンス漂うドラマだった。

その後、ロウリー監督は、ロバート・レッドフォードが最後の主演作として挑んだ『さらば愛しきアウトロー』で、脱獄を繰り返す伝説の強盗、その晩年を軽やかなタッチで描き、再びこの『グリーン・ナイト』でA24と手を組んだ。

A24以上に本作にふさわしい会社はなかった

A24との仕事を、ロウリー監督自身、切望していたようだ。

「『ア・ゴースト・ストーリー』での経験、および同作の成功によって、2度目のタッグが実現したと思います。僕自身、もう一度仕事をしたかったので、『グリーン・ナイト』の企画を最初にA24に送りました。もし断られていたら他の会社に当たっていたでしょうが、イエスと言われ、心から感謝しています。私が描きたいことをA24の人たちは観てみたいと感じ、受け入れてくれました」

では、断られた場合、『グリーン・ナイト』を監督の意図どおりに映画化してくれる会社はあったのだろうか。

「このようにマニアックなテイストも含んだ作品を完成させるうえで、A24以上に適した会社は思いつきません。とにかくA24は野心的なんです。彼らの最も重要な使命は、過去の映画とは明らかに違う世界を観客に教えること。“教える”と言っても学校の勉強のようにではなく、楽しく魅惑的に“観せる”こだわりです。私の映画、つまり今回の『グリーン・ナイト』のような作品を、世界中の観客に、しかも映画館のスクリーンで届けるチャンスを与える。そのための最高のスタジオですね」

どこか『ミッドサマー』と重ねたくなるシーンも
どこか『ミッドサマー』と重ねたくなるシーンも

しかし、同じように考える映画監督たちは多いはず。「A24で作ってもらえたら、話題になって多くの人に興味を持たれるだろう」と……。裏を返せば、誰もがA24ですんなり映画を撮れるわけではない。しかもここ数年は大人気だ。企画が通るハードルも高くなっているのではないか。

「いや、そうは思いません。私の知り合いで、やはりA24で仕事をした監督たちも、映画製作に関するA24の柔軟な対応を評価していますから。企画を通す難しさ云々ではなく、おたがい納得した位置に立つための話し合いや努力を彼らからつねに感じます。キャスティングや映画の長さ、編集など、作り手側の意図をどこまで信頼してくれるか。そこがポイントになるので、ハードルが高くなっている実感はありません」

A24の作品が評価されることで、同じようなスタンスで作品を探す他の製作会社も出てくるはずだが、その点についてロウリー監督は次のように予見する。

「何かが人気になることで、それを批判したり、反発したりする動きが生じるのも事実です。独自のジャンル、作品のオリジナリティがいつまで持続するかは不透明で、もしかしたら10年後にはA24の映画はクールでなくなっている可能性もあるでしょう。あるいは、そうならないかもしれない。ただ、カッコいいものと、カッコ悪いものは表裏一体です。カッコ悪さが時代が変わってクールに見えることもありますから。少なくとも現時点でA24と私は並走しながら、観客の心をつかんでいけると信じています」

私は「オタク」だと断言できます

『グリーン・ナイト』が現在の観客に「クールと感じさせる」点を聞いてみると……。

「“誠実さ”ですね。自分を罠にはめようとする試練に対し、主人公は深い誠実さを身につけ、闘おうとします。そこは原作の叙事詩から私が意識して引き出した部分で、映画のテーマでもあります。そこを観た人がクールに感じてくれれば幸せです」

デヴィッド・ロウリー監督の次の作品は、2023年、ディズニープラスで配信予定の『ピーター・パン&ウェンディ』。ジュード・ロウがフック船長を演じる実写ファンタジーで、ファミリー向けの作風も予感され、『グリーン・ナイト』からの振り幅も激しそう。

「私はジョージ・ルーカスティム・バートンの映画から最も影響を受けました。そこから年齢を重ねるうちに、アート系の作品、英語以外の海外作品に魅了されていき、ハリウッドの大作もずっと大好きなままです。そのせいか若い時代に想像していた作家像と、現在の私のスタンスがうまく結びつかないのでしょう。ただこれだけは言えます。私は“オタク”だとね(笑)」

この言葉を証明するのが『グリーン・ナイト』かもしれない。振れ幅の激しい作家性、アート系とエンタメ大作の融合、そしてオタクテイスト……。デヴィッド・ロウリー監督のパーソナリティを知るうえで最適な一作と言えそうだ。

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『グリーン・ナイト』

11月25日(金)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー

(c) 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved

配給/トランスフォーマー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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