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本田は「4番」のポジションに向いている。使うならボランチかアンカー。日本代表レースを探る(2)MF編

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT

 これまで主に4−2−3−1か4−3−3のいずれかを使用してきたハリルジャパンだが、いわゆるMFの輪郭は、3分割表記の4−3−3の方が鮮明になる。4−2−3−1は、3の真ん中(1トップ下)のキャラクター次第。MFの概念に曖昧さを残している。

 このポジションを、ハリル就任以来ほぼ独り占めしてきた香川真司(ドルトムント)は、FWと呼ぶには得点力が低い。MF的な味にも欠けるストライクゾーンの狭い選手だ。C大阪からドルトムントに移籍した当初(00-01シーズン)のような冴えたプレーを、代表戦で披露した過去はない。ネームバリューを常に先行させていた。昨秋、清武弘嗣(C大阪)がセビージャに移籍し、試合に出場し始めると、香川よりよいのではないかというムードに包まれた。ところが、清武は出場回数が伸びず、シーズン途中あっさり退団。帰国して古巣C大阪に戻り、国内組に転じると、招集すらされなくなった。国内組で臨んだ昨年末のE1東アジア選手権も、怪我のため不参加。流れに乗れていない。

 香川も深みから脱せず終い。不調というより力不足、技術不足を随所に露呈させた。その間隙を突いたのが、清武と入れ替わるように代表入りした倉田秋(G大阪)。香川の控えに止まるかと思いきや、試合毎に評価を上げ、香川をハイチ戦(昨年10月)後、代表漏れに追いやった。

 布陣も気がつけば、4−2−3−1メインから4−3−3メインに変化。中盤の構成は、アンカー(1人)とインサイドハーフ(2人)の計3人になった。

今野泰幸 写真:岸本勉/PICSPORT
今野泰幸 写真:岸本勉/PICSPORT

 守備的MF 長谷部故障で混沌。本田圭佑を使うならボランチかアンカーで

 4−2−3−1がメインだった頃、守備的MF、ダブルボランチとしてスタメンを飾っていたのは長谷部誠(フランクフルト)と山口蛍(C大阪)だ。しかし、長谷部は昨季後半、左足を負傷。以降ベストフォームを取り戻せずにいる。

 長谷部負傷直後に行われたUAE戦(アウェー)で、長谷部の代役に抜擢され、窮地を救ったのが今野泰幸(G大阪)だった。まさにベテランの味を発揮。隅に置けぬ選手であることをアピールした。

 長谷部がロシアW杯本番を34歳で迎えるのに対し、今野は35歳だ。さすがに2人同時には選べない。とはいえ、どちらかは選ばれるだろう。長谷部に怪我の後遺症が残るなら、今野は有力候補になる。少なくともベンチには置きたい選手になる。

 4−3−3ならアンカーが適役に見えるが、ハリルホジッチは今野を一列高いインサイドハーフに置きたがる。アンカーに山口を起用する。

 アンカーは、その存在感がそのままチームに反映されやすい、いわばチームのヘソ。中心選手だ。ここに誰を据えるかで、チームの安定度は大きく変わる。山口はそつなく無難にプレーするが、中心選手の重みに欠ける。4−2−3−1のダブルボランチとして長谷部とともに出場した時は、脇役になれるが、4−3−3のアンカーとして、1人で"主役"を任されると苦しくなる。山口にボールが渡っても、攻撃のリズム等々、何かが変わる予感がしないのだ。

 大ベテランの長谷部と今野、そして山口。浦和の遠藤航はボーダーラインか。E1東アジア選手権で招集された三竿健斗(鹿島)も好選手だが、アンカーの争いは、現状この3〜4人に絞られていると言っていい。

 だが、個人的には、もっと別の選手を置きたくなる。少なくともテストしてみたくなる。本田圭佑(パチューカ)だ。彼の状態がよいのなら、身体の状態が使えるレベルにあるのなら、前ではなく後ろで試したい。背番号4に相応しい、まさに4番のポジションで。

 かつてと同じポジション(4−2−3−1の3の右)では、可能性が見えている。プレーが想像できてしまう。よいイメージが抱けないが、ボランチ、アンカーなら話は別。"主役"になり得るそのポジションの特性と、俺様系キャラとは、好ましい関係にある。

 想起するのは8年前だ。それまでサブだった本田は、本番でいきなりCFとして出場。青息吐息の岡田ジャパンを救ったことは記憶に新しい。CFも主役を意味するポジションだが、それに、当時、最新型と言われた0トップという付加価値まで加われば、意気に感じないはずがない。日本のベスト16入りは、本田の精神的なノリと深い関係があった。

 W杯を32歳で迎える今回、俺様キャラを活かせる場所、ノってプレーできそうな場所は、逆に言えばそこしかない。前方でのプレーは老害になりかねない。CSKAモスクワ時代、守備的MFでプレーした経験もある。アンカー本田を代表で見てみたい気がする。

井手口陽介 写真:岸本勉/PICSPORT
井手口陽介 写真:岸本勉/PICSPORT

センターハーフ 井手口リード。追う柴崎、大島、長澤

 次は4−2−3−1のダブルボランチと4−3−3のインサイドハーフを兼務しそうな中間的な選手に目を向けたい。

 中でも昨年、一番名を上げたのは井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ)だ。高い身体能力とボール奪取能力を武器に、スタメンの座を不動にしつつある。だが、その分だけプレーは粗い。昨年11月、リールで行われたブラジル戦では、軽率なクリアを拾われ、マルセロに強烈なシュートを浴びた。E1東アジア選手権でも、同種のミスを犯している。勢いに任せたプレーが目立つのだ。少なくともアンカーに適した資質の持ち主ではない。

 評価が難しいのは、長澤和輝(浦和)だ。11月の欧州遠征に初招集され、ベルギー戦に出場したものの、早めにベンチに下がっている。積極的にプレーしたとは言い難い。

 E1東アジア選手権の対中国戦で、負傷退場した大島僚太(川崎)も、ハリルホジッチの胸の内が読みにくい選手だ。その言動から察すれば、川崎は自らの趣向と反するチームになる。川崎らしさを象徴する大島についても、同種のイメージを抱いていると考えるのが自然だ。とはいえ大島には、高度なボール操作術がある。途中怪我で退場したE1東アジア選手権対中国戦でも、大島のいる時、いない時で、サッカーには著しい差が出た。いる時の方が、断然よいサッカーができていた。少なくともこちらの基準に従えば。

 そしてもう1人忘れてはいけないのが柴崎岳(ヘタフェ)だ。実力的には十分足りている。ラスト半年で、巻き返すことはできるか。守備的MFに加え、サイドハーフ、1トップ下、2トップの一角でもプレー可能。W杯を23人枠で戦う代表監督にとって、こうしたユーティリティ性の高い選手は本来、使い勝手のいい歓迎すべき選手であるはずなのだ。

倉田秋 写真:岸本勉/PICSPORT
倉田秋 写真:岸本勉/PICSPORT

トップ下、インサイドハーフ 倉田リードも混沌

 高めのMFは混沌としてる。一歩リードするのは倉田だが、絶対的な存在には見えない。E1東アジア選手権を怪我で辞退した清武に脈はまだあるのか。11月の欧州遠征で久しぶりに代表に招集され、ベルギーで高い評価を得ている森岡亮太(ベフェレン)のハリルホジッチ評は、どれほどのものなのか。

 E1東アジア選手権で2試合に出場した土居聖真(鹿島)は、FWとしてより、高めのMFとしてプレーした方がよさそうな印象だ。ハリルホジッチは4−3−3の左ウイングで起用したが、本来、槍的な魅力を持つ選手ではない。トップ下付近で、持ち前のセンスを生かすプレーが見たかった。

 高萩洋次郎(東京)、小林祐希(ヘーレンフェーン)は苦しそうなムード。

 そして香川。本田にあって香川にないものはカリスマ性だ。プラスアルファの要素がない。復帰の可能性が高いのも香川より本田だと見る。

日本代表レースを探る(1)GK、DF編はこちら

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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