Yahoo!ニュース

学校のプールでまた飛び込み事故 授業では全面禁止を!!

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

■長野で男子生徒が首を骨折

いったい何回「コピペ」の事故が続けばよいのだろう。学校のプールでまた、まるでいつものことのように、重大事故が起きた。

被害者は、長野県立の高校に通う3年生の男子生徒。14日午前の出来事であった。水泳の授業中に、スタート台からプールに飛び込んだ際に、頭部をプールの底にぶつけて、首を骨折したという(産経ニュース)。

昨年の7月、名古屋市立の中学校で、水泳の授業時に2年生男子生徒がスタート台から飛び込みをして首を骨折し、首より下に麻痺が残った。今年6月には、岐阜県多治見市立の中学校で、体育の授業中にスタート台からプールに飛び込んだ3年生の男子生徒が、プールの底に頭部を打ち、全身がしびれた状態となった(詳細は不明)。

水泳の授業時に、スタート台から飛び込み、頭部を底に打ちつけて、重度障害・傷害を負う。日付と学年を書き直しただけの、まるでコピペの事故が続いている。生徒には、車いすや寝たきりの生活が待っている。

■プール飛び込み、過去に169件の障害事故

2011年度以降で、学校のプールでの飛び込みにより障害が残った事故事例は、下記のとおりである【注】

学校のプールにおける飛び込みによる障害事故事例[2011~2013年度]
学校のプールにおける飛び込みによる障害事故事例[2011~2013年度]

さらに事故記録が残っている1983年度までさかのぼって調べてみると、学校管理下のプールで飛び込みにより後遺障害を負った事故は、全部で169件起きている。そのうちもっとも重大な事態と考えられる「頭頸部」の外傷に起因する事故が、151件(89.3%)を占める。(全169件の具体的な事故事例概要については、13ページにわたるPDF資料を、私が運営するウェブサイト「学校リスク研究所」に無料で公開している。

過去数十年にわたって、コピペがくり返されている。その理由は簡単である。抜本的な対策を立てないからである。対策が立たない限りは、これからも同じ事故が確実に起きていく。

■水泳連盟公認の事故?!

飛び込み事故は、プールの施設に起因する事故として知られている。日本水泳連盟は、事故防止のために、「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」(2005年)を策定している。そこには、水深1.00m~1.35m未満のプールにおいて、飛び込みが認められるスタート台の具体的な高さが示されている。

日本水泳連盟「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」(2005年)
日本水泳連盟「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」(2005年)

だが、注意しなければならないのは、ガイドラインに明記されているように、この基準は「『如何なる飛び込み状況の中でも安全を確保』という観点ではなく」という点である。現状の日本のプール施設状況を踏まえたうえでの「現実的な妥協点」でしかなく、したがって何らかの事情により姿勢を崩して飛び込んでしまった場合には、「プール底に頭部を強打して、飛び込み事故が起こるのも事実である」(日本水泳連盟「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」)。

学校のプールで、仮にガイドラインに適合的な水深が確保されていたとしても、飛び込みのかたちが崩れてしまえば、頭部を底に打ちかねない。そのことを、日本水泳連盟は熟知している。ずっとくり返されてきた飛び込み事故は、水泳連盟公認の事故と言ってよい。

■オリンピック用は水深3m、学校用は1.3m 授業での飛び込み禁止を徹底させるべき

学校のプールは溺水防止のために、水深が浅く設計されている。他方で、オリンピックの競泳用プールにもなると、日本水泳連盟の「公認プール施設要領」によれば、水深は3mが推奨されている。

なるほど、先の「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」には、いかなる飛び込み姿勢であっても安全が確保されるのは「3m以上」と記されている。

オリンピックに出場するような選手は飛び込み事故に遭うべきではないが、学校の子どもであれば事故に遭っても仕方がないなどと、誰が言えようか。学校のプールについて現状から結論できるのは、正しい姿勢で飛び込むよう指導することではなく、姿勢が崩れることを考慮して、十分な水深が確保されない限りは、授業ではいかなる飛び込みも全面的に厳しく禁止にすべきということである。

中学校の現行の学習指導要領では、スタートは「水中から」と明記されている。それでも名古屋市や多治見市ではスタート台からの飛び込み事故が起きている。

高校では「段階的な指導」のなかで「飛び込みによるスタート」が教えられる。競泳選手くらいしか必要としない飛び込みの練習を、はたして全員参加の授業で扱う必要はあるのだろうか。扱うには、あまりに利益が少なく、あまりに代償が大きすぎる。

【注】

●事例は,(独)日本スポーツ振興センターがほぼ毎年発行している『学校の管理下の死亡・障害事例と事故防止の留意点』『学校の管理下の災害』から抽出したものである。

●「事故発生年度」というのは,厳密にいうと,(独)日本スポーツ振興センターから「見舞金」が支払われた年度である。したがって,見舞金の支払いが年度をまたぐ場合(たとえば,事故発生は12月で,障害の確定が翌年の5月の場合)には,「事故発生年度」は,実際に事故が発生した年度と一致しない。

1983~2013年度までの全169件の事例一覧表は,「学校リスク研究所」よりダウンロード可能

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

内田良の最近の記事