ロシアW杯19日目。VARも救ってくれない。揺れるPK+レッドカードの解釈と、横行する演技
マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの18回目。大会19日目の2試合で見えたのは、VARも救えない、揺れるPK+レッドカードの解釈と、横行する演技。審判は辛いよ、である。
この日の2試合は非常に決勝トーナメントらしい――勝利より負けないことを優先し、娯楽的な要素は少なく、緊張感だけが異常にある――ものだった。ベルギー対日本やフランス対アルゼンチンが懐かしい。
スウェーデン対スイス(1-0)は評価すべきプレーがほとんどなかった。
スウェーデンは全員で良く守り、空中戦がとてつもなく強いという一発勝負向きの好チームだが、対戦相手がドイツのように攻めまくってくれて、それを根性でしのぐ、という展開にならないと試合としては面白くない。スイスが捨身の2枚代えで3トップ+シャキリという超攻撃的布陣にした73分以降はそうなりそうだったが、スウェーデンの実践的な守り――人数をかけるとかクリアがでかいとか――がピンチを作らせないので、ほぼ無風のまま終わってしまった。
こんな時は審判について書こう。
二重の罰(PK+退場)はなくなっていない
試合終了寸前ゴールに向かって独走する選手を後ろから倒すファウルがあった。スコミナ主審の判定はPK+レッドカード。PKはVARによってペナルティエリア外であることが判明しFKになったが、レッドカードは維持された。
このシーンを見て思い出したのがクロアチア対デンマーク、延長後半のPK+イエローカードのシーンである。同じくゴール前の選手を後ろから倒したが、レッドカードにはならなかった。このイエローカードに対しスペインの実況は「ルール改正で二重の罰(PK+退場)はなくなった」と言っていたが、これは誤りである。
ルールは改正された。だが、PK+退場が根絶されたわけではない。
日本のみなさんなら知ってますよね。コロンビア戦でカルロス・サンチェスが一発退場になりPKが与えられたことを。
二重の罰は残っている。ペナルティエリア内で得点や得点機会をファウルで阻止することは、ルール改正後もPK+レッドカードで罰せられる。ルール改正でPK+イエローとされることになったのは、「ボールにプレーしようとした結果犯されたファウル」のみである。
「ボールにプレーしようとした結果」ならイエロー
つまり、ボールを奪おうとして足を入れたら引っ掛かって倒してしまった、というようなケースは退場ではなくイエロー。悪意がないファウルでPKだけでも十分な罰なのに、その上、退場では可哀想だ、というわけだ。だが、ゴールになろうとしていたシュートを故意に手で弾き出すとか、ボールにプレーしようとしないで単に得点を防ごうとしたファウルに同情の余地はない。よって退場。
PKは外すことだってあるのだから、罰がイエローでは不十分である。日本のみなさんだって香川がPKを外したとして、カルロス・サンチェスがその後ものうのうとプレーしていたら怒りますよね。やり得だ!と。
そこでスウェーデン対スイス、クロアチア対デンマークの問題のシーンを見直してみる。
ゴールに向かって独走しているのは同じ。だから「決定的な得点の機会」であることは疑いない。そこでスイスの選手はスウェーデンの選手の背中を突いた。この行為が「ボールにプレーしようとした結果」でないことは明らかである。よってレッドカードで正解。デンマークの選手の方はクロアチアの選手の足下に後ろからスライディングした。
モドリッチがPKを外し反則者の“やり得”に
これ「ボールにプレーしようとした結果」だろうか?
普通、ドリブルしているところに真後ろからスライディングしてもボールに届かない。相手を倒すだけ。この時も足はボールに届かなかった。しかも、うまく足が引っ掛かるよう自分の足を持ち上げている。にもかかわらずネスター主審は、ボールを奪おうとして倒してしまった、と解釈しイエローにした。
PKをモドリッチが外してPK戦にもつれこんだ。でも、ファウルをされてなければ、100%ゴールだったのだ。GKはかわされていて空のゴールは7、8メートル先。100%ゴールの代償がイエローカード1枚――。このクロアチア戦の判定は、悪意の反則者を利するものであり、誤りだったと思う。
VARは審判の解釈に介入しない。よって、PKかFKかという見極めには介入するが、プレーしようとしたか否かは判断しない。ここにはまだミスジャッジの余地が残っているわけだ。
演技合戦。芝居を見たければ劇場に行く
コロンビア対イングランド(1-1 pk3-4)は攻め合わなかった代わりに、演技の応酬があった。暴力行為の被害者を装って七転八倒とか、大袈裟に倒れるとか、ダイブするとか。
芝居を見たければ劇場に行く。役者でもないのに下手くそな演技などせず、サッカーに集中してほしいものだ。VARはこういう演技を見破り、演技者を辱めることにも一役買っている。だが、演技はなかなかなくならない。
昨夜の試合ではイングランドの先制点がCK時の混戦の中吹かれたPKによるものだったことも、演技合戦に拍車をかけた。
あのカルロス・サンチェスが今度はケインをつかみ、最後は背中に乗っかって倒してしまった。よくあることだとも言えるし、ファウルであるとも言える。またもや解釈の問題であってVARは助けてくれない。
こういう微妙なPKの笛が一方のチームに吹かれたら、“その埋め合わせに今度は別のチームにPKの笛が吹かれる”という奇妙なジンクスが、サッカー界にはある。少なくともスペインにはある。その理由は「後ろめたさがあるから」らしい。
個人的にはそんなことはないと思っているが、“似たようなプレーはPKになる、しめしめ”と考えた選手がいても不思議ではない。
「大袈裟に」倒れる、痛がるにはイエローが出せない
審判を欺こうとする行為はイエローカードの対象になる。
だからダイブすれば、フィジカルコンタクトがないのに倒れれば、イエローが出る。だが、「大袈裟に」倒れるとか、「大袈裟に」痛がるにはイエローが出せない。とても飛ばされやすい体質(?)なのかもしれないし、痛みに滅茶苦茶センシティブな人なのかもしれないから。
“あんな七転八倒があるものか”と我われは馬鹿にすることができるが、審判はそれを抑止する手段を持ち合わせていないのだ。
勝っているイングランドはプレーが中断し時間稼ぎができればOKだけど、負けているコロンビアの方には損なのに、対抗心なのか、さっきの奇妙なジンクスのせいなのかお付き合いしてしまった。演技とアピールばかりで正味のプレー時間はいかほどだったろう。役者の真似事を止めてサッカーをし始めたのは、コロンビアが捨身の反撃に集中した後半の終盤以降だった。
イングランドが過去8戦7敗のPK戦の呪いから脱し、ハメスの涙が絵になる幕切れではあったが、試合内容の方はこちらも決して記憶に残らないに違いない。