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宇宙から来る超高エネルギー粒子「宇宙線」とは何か?

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「宇宙から飛来する超高エネルギー粒子の謎」というテーマで動画をお送りしていきます。

●宇宙線とは何か?

この宇宙には、非常に高いエネルギーを持った粒子(放射線)が、光速に極めて近い速度で飛び交っており、地球にも常に飛来しています。

宇宙を飛び交う放射線を特に「宇宙線」と呼んでいます。

宇宙線は放射線なので人体も被ばくしてしまい有害ですが、私たちは普段地球の大気に守られているおかげで、あまり宇宙線の影響を受けずに済んでいます。

ですが宇宙からやってくる宇宙線に対し、大気のバリアがあまり働かないような高度の高い場所だと、被ばく量は増大します。

具体的には地表に対し、高度400kmにある国際宇宙ステーション(ISS)だと100倍にもなります。

そのためISSに滞在する宇宙飛行士は被ばく量が一定値を超えないよう、滞在期間に制限が設けられています。

○宇宙線(放射線)の種類

Credit:Fujii, Toshihiro, Kyoto University, L-INSIGHT (supported by MEXT)
Credit:Fujii, Toshihiro, Kyoto University, L-INSIGHT (supported by MEXT)

では宇宙線(放射線)には、どのような種類のものがあるのでしょうか?

大きく分けて、物質を構成する粒子(陽子、中性子、原子核、電子)と、電磁波(X線、ガンマ線)が挙げられます。

私たちが知る物質は、どんどん拡大していくと「原子」という非常に小さい構造から成っています。

そんな原子をさらに分解すると、+の電荷を持った「陽子」と電荷を持たない「中性子」から成る「原子核」の周りに、-の電荷を持った「電子」が存在するような構造を持ちます。

これらの物質を構成する細かい粒子たちが、宇宙のどこかで何らかのメカニズムで加速させられ、ほぼ光速に近い速度で宇宙を飛び交っているというわけです。

Credit:NASA/Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab
Credit:NASA/Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab

また、私たちが目にする光は、「電磁波」と呼ばれるものの一種です。

電磁波は波なので波長があり、この波長が長いと電波、赤外線などと呼ばれ、逆に短いと紫外線、X線、ガンマ線などと呼ばれます。

このような電磁波にもエネルギーがあり、波長が短いほど高エネルギーになります。

そのためX線やガンマ線は高エネルギーで有害な放射線の一種となります。

放射線にはこのように高エネルギーの粒子や電磁波がありますが、宇宙線の場合はほとんどが荷電粒子、つまり陽子、または陽子と中性子が複数組み合わさった原子核です。

特に単一の陽子が宇宙線の大部分を占めているとされます。

○空気シャワー

Credit:Fujii, Toshihiro, Kyoto University, L-INSIGHT (supported by MEXT)
Credit:Fujii, Toshihiro, Kyoto University, L-INSIGHT (supported by MEXT)

宇宙線が地球大気を構成する窒素や酸素の原子核と衝突すると、新たな粒子が飛び出します。

この新たに生成された粒子が地球大気を構成する別の原子核と衝突し…という風に連鎖的に反応を起こします。

このようにして宇宙線の到来から、地球の大気内で無数の粒子が発生する現象のことを、「空気シャワー」と呼びます。

これは元の宇宙線のエネルギーが高いほど大規模になり、特に高エネルギーの宇宙線が到来した場合だと、シャワーが地表に届いたり、シャワーの中心軸付近で紫外線が放射されることがあります。

○宇宙線のエネルギーと存在比

Credit:Sven Lafebre
Credit:Sven Lafebre

宇宙線は、エネルギーが高いほど珍しく、地球に到来する頻度が下がります。

具体的には宇宙線のエネルギーが10倍になると、地球に来る頻度は約1000分の1になります。

宇宙線の中でも特に高エネルギーで、到来頻度も低いものは「超高エネルギー宇宙線」と呼ばれます。

最強レベルのものだと、非常に質量が小さい荷電粒子一粒で、実にテニスのサーブに相当するエネルギーを持つものも発見されたことがあります!

それだけ光速に極めて近い速度を持っているということになります。

Credit:Yahoo News UK
Credit:Yahoo News UK

ちなみに上記の最強レベルの宇宙線は、人類が粒子加速器で実現できるエネルギーの最高値の、さらに1000万倍以上のエネルギーを持っています。

人類はまだ宇宙のエネルギーの足元にも及んでいません。

●謎多き「宇宙線の起源」

Credit:NASA, ESA, CSA, STScI
Credit:NASA, ESA, CSA, STScI

観測技術の進歩により、現代では地球から何十億光年、さらには100億光年以上も彼方にある超遠方の天体の情報を得ることができています。

そのような遠方の天体の情報は、基本的にその天体が放った様々な波長の電磁波を観測することによって得ることができます。

最近では重力波によっても情報が得られるようになりましたが、やはり電磁波が主流です。

このように電磁波が宇宙の観測の主な手段である中で、重力波や、さらには今回の主題である宇宙線など、電磁波とは別の手段も併せて観測できれば、より多角的な情報を得ることができると期待されています。

宇宙線を観測して遠方の天体の情報を理解するためには、当然ですが、検出した宇宙線を放った元の天体、つまり「宇宙線の起源」を理解する必要があります。

基本的に宇宙線の起源はエネルギー毎に異なるとされます。

宇宙線の中では最もエネルギーが低い部類のものは、太陽が起源であると考えられています。

エネルギーが少し高くなるとその起源は太陽系を超え、天の川銀河内の天体に、さらに高くなると天の川銀河外に起源があるとされます。

太陽系の外からやってきた高エネルギー宇宙線の起源については特定が極めて難しく、未だにわからないことだらけです。

起源の特定が難しい主な理由は、宇宙線のほとんどが荷電粒子だからです。

荷電粒子は天の川銀河内外の磁場によって進路を曲げられるため、地球から宇宙線が到来した方向を見ても、その起源となる天体が存在しません。

とはいえ比較的最近になって、天の川銀河内が起源の宇宙線については、太陽よりも重い星が一生を終える際に起こす大爆発である「超新星爆発」が起源である説が有力視されるようになっています。

超新星爆発の瞬間に発生した荷電粒子が、同じく爆発の際に生じた衝撃波でさらに加速させられて、高エネルギーの宇宙線として地球に届いている、というわけです。

●最先端の宇宙線観測手法と最新の成果

Credit:Fujii, Toshihiro, Kyoto University, L-INSIGHT (supported by MEXT)
Credit:Fujii, Toshihiro, Kyoto University, L-INSIGHT (supported by MEXT)

地球にやってきた宇宙線を検出するには、先述の「空気シャワー」を利用します。

空気シャワーは高エネルギーの宇宙線が地球大気を構成する原子核と衝突し、無数の粒子が発生する現象のことでした。

高エネルギーの宇宙線が到来すると、空気シャワーは地表まで届いたり、中心軸付近で紫外線を放射したりするのでした。

そこで地表まで届いた空気シャワーで発生した粒子を直接検出したり、シャワー中心軸付近で発生した紫外線を観測することで、宇宙線が到来したことを検出することができます。

ただしこれらの方法で宇宙線を検出することができても、宇宙線は荷電粒子であり、宇宙空間の磁場で進路を曲げられているため、その起源を特定することは極めて難しくなっています。

そんな中、実は最高クラスのエネルギーを持った宇宙線(上記画像の右図)であれば、磁場の中でもほぼ直進することができることが知られています。

そのため最高エネルギー宇宙線のみを分析すれば、起源天体を特定できる可能性があります。

ただし先述の通り宇宙線は高エネルギーほど地球への到来頻度は大きく下がってしまいます。

磁場の中を直進できる最高エネルギー宇宙線ともなると、100km^2の範囲でも1年に1個程度しかやってきません。

そのため最高エネルギー宇宙線由来の空気シャワーによって発生した粒子を地表で直接検出するには、通常の検出器では面積が小さすぎて、いくら待ってても目当ての最高エネルギー宇宙線がやってきてくれません。

そこでこのような宇宙線の痕跡を地表で直接捉えるには、膨大な面積をカバーできる特殊な観測システムが必要になります。

Credit:Telescope Array
Credit:Telescope Array

Credit:ADRIAN CHO, science
Credit:ADRIAN CHO, science

実際に行われている「テレスコープアレイ(TA)」と呼ばれる実験では、アメリカユタ州の砂漠地帯に、粒子検出器を1.2km間隔の格子状に507台設置し、なんと約700km^2もの面積をカバーしています。

Credit:Telescope Array
Credit:Telescope Array

さらにその周囲に38台の広角望遠鏡を設置し、上空で発生した空気シャワー由来の紫外線を捉えることもできる仕組みになっています。

Credit:2014 R.U. Abbasi et al. (Telescope Array Collaboration)
Credit:2014 R.U. Abbasi et al. (Telescope Array Collaboration)

現在でも最高エネルギー宇宙線の具体的な起源までは判明していないものの、このTA実験の結果、宇宙線の到来方向には明確な偏りがあることが判明しました!

さらに最高エネルギー宇宙線は宇宙空間を移動中に「宇宙背景放射(宇宙に満遍なく存在する電磁波)」と相互作用を起こすため、1.5億光年以上の距離を移動できないことが知られています。

つまり最高エネルギー宇宙線が到来しやすい方向の、地球から1.5億光年以内の範囲に、最高エネルギー宇宙線の起源天体が存在する可能性が高まっています。

少しずつ浮かび上がってきた宇宙線の起源を解明するため、現在ではTA実験の検出器の面積を4倍に拡大する、「TAx4」計画も進行中です。

より高精度な検出装置が実現し、最強の宇宙線を発生させていてかつ意外と地球に近くにある可能性が高い未知の天体の正体が解明されるのが、今から本当に楽しみです!

https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/prwps/wp-content/uploads/2019/07/sako.pdf
https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/50naze/space_weather/23.html
https://www.isas.jaxa.jp/j/forefront/2007/uchiyama/
https://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/ta/ta_public/index.html

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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