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「指導死」:広島中3自殺報道から考える子どもの自殺予防

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■万引きの誤った記録から自殺へ

広島で中学3年生の男子生徒が自殺した問題で、報道が続いています。

<広島・中3自殺>生徒への教諭指導 学校説明「立ち話で」

<広島・中3自殺>サーバーに訂正済み生徒資料…知られず

「子供預けるの怖い」=中3自殺で保護者ら―広島

事実ではない万引きの記録が、誤って記述されます。その記録をもとに、男子生徒の推薦(専願)受験が認められなくなります。NHKの報道によると、担任教師は、生徒と5回にわたって面談をしています。

最初の面談で、「1年生の時に万引きをしましたね」との先生の問いに対して、生徒は明確な答えをしなかったといいます。そして、数回にわたる面談を通して、万引きのために推薦は難しいという話から始まり、結局だめになったと生徒に話していいます。

生徒は、「ガラスを割ったから推薦が受けられない」と親に話したら、親が怒ったと先生に伝えます。それに対して、先生はガラスではなくて万引きが原因だと言っています。

これらのやり取りがあったにもかかわらず、担任教師は万引きの記録が誤記であったことに気づきませんでした。

■不適切さ

これらの5回の面談は、教室の外の廊下で行われています。これには、校長も「こうした面談方式で生徒の本音をどこまで聞けていたのかを考えると、今となっては不適切だったと考えている」と答えています。たしかに、こんなにプライベートな話をなぜ廊下でしたのか、わかりません。

また、推薦は担任個人や校長が一人で決めるのではなく、会議にかけられるでしょうから、その会議でも誤りに気づかれなかったのは、疑問です。

ただ、「過去の過ちがあったとしても、直ちに進路を閉ざすのは機械的、短絡的な進路指導で大きな間違いだ」との識者の意見もありますが(中3生徒自殺 面談は「立ち話」 書類記録残さず03月09日:NHK NEWS WEB)、面談の経緯を見ると、必ずしも機械的に推薦をだめにしたとも思えません。

一度悪いことをしたからといって機械的にだめとするのは、たしかに間違いだと思います。しかしまた、様々な問題を起こしても推薦が受けられるというのも、おかしな話でしょう。

今回は、万引きの事実自体が誤りだったのですが。

■指導死?

教師による様々な指導中、指導後に、生徒が自殺した事例は今までにもあります。それを、「指導死」と名付けて問題提起している人々もいます。「『指導死』親の会」も作られています。この会によれば、「指導死」は平成に入ってからおよそ60件にのぼるという調査結果があるといいます(中3自殺 再発防止の会の思い03月09日NHK NEWS WEB

たとえば2013には、同じ広島県で起きた2年生の男子生徒の自殺に関して、市教委の調査委員会が「直前の教師からの指導と自殺との間に因果関係が認められる」とする報告書をまとめています。

この報告書では、「自殺の決定的要因の特定は困難」とした上で、教師間の連携などが不十分だったために「生徒は逃げ場を失った」と指摘しています。

このような自死遺族の家族よって、「指導死:追いつめられ、死を選んだ七人の子どもたち」という本も出版されています(高文研 2013)。

■子どもの自殺を防ぐために

指導中、指導後の自殺はあります。ただ、内容は様々です。教師の連携不足、配慮不足が指摘されるものもあります。ひどいケースもあるでしょう。一方、ほとんど問題のないごく日常的な指導の後(叱った後)で、自死を選ぼうとしてしまう子どももいます。

子どもの自殺の特徴は、小さなきっかけで、突然実行されることです。

子どもの自殺を防ぐためには、大人の連携が必要です。子どもを守るためには、学校も家庭も、健全さを保たなければなりません。指導力のある学校は、校内のコミュニケーションがスムーズです。ある生徒が万引きして補導されたりすれば、会議の場以外でも、多くの教員がその問題を共有します。学年全体、学校全体が、チームとなって子どもを支援します。

生徒指導は、悪いことをした生徒を叱りつけ、押さえつけることではありません。本来の生徒指導は、カウンセリング的な対応を基本とした生徒支援です。

生徒を支援するためには、保護者支援も欠かせません。良い学校は、保護者と学校との信頼関係があり、互いに情報を共有します。学校であったことを、何でも保護者に話すことができ、家庭で起きたことを何でも先生に話すことができる。こうして情報が共有される中で、子どもを守ることもできるでしょう。

今回の件では、まだ詳細はわかりません。報道によれば、男子生徒の父親は、我が子が自分に相談してくれなかったことでご自分を責めているようです。お辛い思いをしている自死遺族を支援することは、何よりも大切です。

その上で、混乱している学校を支えることが必要です。緊急保護者会は紛糾したようですが、大きな自殺報道の後は、自殺の連鎖が起こりやすくなります。子どもを守るために、健全な環境が必要です。

■参考

「緊急保護者会」と「スクールトラウマ」:事件事故不祥事のとき学校と保護者はどうあるべきか

子どもの自殺:その特徴と予防方法

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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