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消毒剤を誤って飲んだ場合、目に入ってしまった場合、どうすればよいか?

倉原優呼吸器内科医
photoACより

新型コロナの感染拡大によって、私たちは普段から日常的にアルコール消毒剤を使用しています。ポケット型のものを持ち歩いている人もいれば、店舗の入り口にあるディスペンサー式の噴霧液を使っている人もいるでしょう。これらは当然、手に擦り合わせて使用するわけですが、もし消毒剤を誤って飲んだ場合、目に入ってしまった場合、どうすればよいでしょうか?

消毒剤の誤飲

先日、甲府市で開かれた陸上競技大会で、選手に提供された給水用のコップにアルコール消毒剤が入っていた事例が報道されました。飲んだ選手1人が気分が悪くなり、棄権しています。

1年前にも東京の学校でアルコール消毒剤の誤飲事故が起こっており(1)、コロナ禍ではなかなかこの手の事故は減りません。

私たちが普段よく使っている消毒用のアルコール、たとえば濃度80%の場合、30分以内に成人で300mL、子どもで3mL/kg程度飲むと、急性アルコール中毒になるリスクがあります(図1)。1時間以内にそのほとんどが胃から吸収され、興奮状態、発汗、血圧・体温の低下などの症状が発現します。

図1. アルコール消毒剤の誤飲危険量(看護roo!よりイラスト使用)
図1. アルコール消毒剤の誤飲危険量(看護roo!よりイラスト使用)

消毒剤の主成分はエタノールであることが多いため、誤飲量が多くなければ医学的にはそこまで問題にはなりません。ただし子どもの場合、親が見ていないこともあり、どのくらい誤飲したのかわからないことがよくあります。

また、アルコールだけでなく、香料などの添加剤によって胃が刺激される場合があり、これによって気分が悪くなることがあるかもしれません。

主成分がベンザルコニウムの消毒剤もありますが、もっぱら消毒用に用いられている低濃度に調整された製品では、かなりの量を飲まなければ危険量に到達することはありません。

誤飲のときに吐かせようとすると、吐物が気管に入ることがあるため、無理に吐かせないよう注意してください

子どもの場合、一口以上飲んだと思われるときは、飲んだと思われる消毒剤の容器を持って、すみやかに病院を受診しましょう。

さて、消費者庁に掲載されている事例では以下のような報告があります(2)。

「外出先で人と会って話していた。ふと子どもを見ると除菌剤のボトルと蓋を手に持って苦そうな顔をしていた。飲んだ量は分からなかったが、通院が必要となった。ボトルは電話機の後ろの目につかない場所にあったが、子どもの目の高さ位で手が届いた。」(1歳、令和3年11月発生)

「携帯用の容器に詰め替えて使用していた除菌アルコールジェルが30mL程度減っていた。子どもが保護者に抱きついた際、口からアルコール臭がしたため誤飲を疑い、救急外来を受診した。検査をして異常はなかったものの、点滴を行った。その後、自宅にて経過観察となった。」(2歳、令和3年5月発生)

消毒剤が目に入った場合

エタノールが目に入ると強い刺激になり、炎症を起こすこともあります。そのため、目に入った場合は、こすらずにただちに流水で洗い流してください

他の化学物質と比べると、エタノールによる目の障害はそこまで重篤にならないことが多いので、落ち着いて行動してください。

図2. ディスペンサー式のアルコール消毒剤は子どもの顔にかかりやすい(参考資料2より使用)
図2. ディスペンサー式のアルコール消毒剤は子どもの顔にかかりやすい(参考資料2より使用)

なお、消費者庁に掲載されている事例は以下のようなものです(2)。

「店舗のスタンド型のアルコール消毒剤で保護者が消毒した際、近くにいた子どもが突然「目が痛い」と言った。その場でタオルで拭いたが、その後再び目を痛がったため受診した。特に異常はなかった。」(2歳、令和3年4月発生)

「買い物中に店舗の噴射状のアルコール消毒剤が顔面にかかった。まぶたや頬が赤くなったので、店舗と帰宅後に水で顔を洗い病院を受診した。特に異常はなかった。」(2歳、令和3年5月発生)

店舗にディスペンサー式のアルコール消毒剤が設置されている場合、基本的に大人が使いやすい角度に設計されています。そのため、小さな子どもの場合、顔面に吹き付けられてしまうことも往々にしてあります。そのため、一緒にいる大人が注意する必要があります。

受診の相談

受診したほうがよいのか、あるいは応急手当の方法がわからないときは、日本中毒情報センターの中毒110番にご相談ください(URL:https://www.j-poison-ic.jp/general-public/)。

判断に迷うような場合は、大人では「#7119」子どもでは「#8000」で医師や看護師等に相談できるのでこちらにかけてもよいでしょう。

図3. 医療のかかり方(筆者作成)
図3. 医療のかかり方(筆者作成)

消費者庁からの推奨をまとめると以下のようになります(2)。

1.消毒剤・除菌剤は、使用方法、有効成分、濃度、使用期限などを確認し、情報が不十分な場合には使用を控えましょう。なお、手や指の消毒には、石けんやハンドソープを使った丁寧な手洗いを行うことで、十分にウイルスを除去できます。

2.ご家庭では、消毒剤や除菌剤は子どもの手の届かないところに保管しましょう。

3.携帯用の容器で持ち歩く場合は、幼い子どもが簡単に取り出せないように、かばんの中にしまうなどの工夫をしましょう。

4.設置型の消毒液ディスペンサーは、子どもが近づかないように注意しましょう。特に自動で薬液が噴霧されるタイプのものは子どもが興味本位で触らないように言い聞かせましょう。使用する際は、そばに人がいないことを確かめ、噴射方向を確認してから使用しましょう。

(参考)

(1) 誤飲事故はなぜ起きたか【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP(URL:https://riss.aist.go.jp/sanpo/riscadnews/2021/03/p7448/

(2) Vol.583 消毒剤・除菌剤の取扱いに留意しましょう。誤飲や眼に入る事故の発生が続いています! (URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20220228/

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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