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メッシ・ロナウド時代を継ぐ者は?リーガエスパニョーラは凋落の一途を辿るのか

小宮良之スポーツライター・小説家
リーガ全盛をバルサ、マドリーのエースとして牽引したメッシとロナウド。(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 イングランド、プレミアリーグが世界最高峰サッカーリーグの座を奪い取っている。

 2018-19シーズンは、それを強く示す結果になった。UEFAチャンピオンズリーグ決勝はリバプール、トッテナム、UEFAヨーロッパリーグ決勝はチェルシー、アーセナルとすべてプレミアのクラブ。付け加えるなら、プレミアを制したのはどちらのファイナリストでもないマンチェスター・シティだった。

 プレミアの隆盛は、数年前から識者の間では予想されてきた。クラブ経営が健全で、潤沢な資金で潤い、各国の優秀な監督、選手を勢揃いさせている。力をつけるのは必然だった。

 世界最高峰の座を譲ったスペイン、リーガエスパニョーラは、このままプレミアの足下にひれ伏すのか。

メッシ・ロナウド時代

「クリスティアーノ・ロナウドのような選手がいたことで、自分にとっても刺激となって、競争が生まれた」

 リオネル・メッシ自身、そう認めている。ここ10年近く、リーガが世界に覇を唱えてきた理由は、メッシとロナウドが並び立ち、王冠を奪い合ったからだろう。それに刺激され、他の選手たちも切磋琢磨し、クラブレベルで力が向上した。

<メッシ・ロナウド時代>

 その中心の舞台がリーガだった。2008年から2017年まで、世界最優秀選手を決めるバロンドールではこの二人が1,2位を独占的に競ってきた。

 メッシのFCバルセロナ、ロナウドのレアル・マドリーは2008-09シーズンから10シーズンでそれぞれ3度、4度と欧州王座に輝いている。一方、アトレティコ・マドリーは2度、ファイナリストになった。ヨーロッパリーグでも、アトレティコが3度、セビージャが3度、頂点に立っている。2011-12シーズンは、アスレティック・ビルバオが決勝でスペイン対決を演じた。

 リーガは最高峰のリーグだった。

 そして時代は巡る。2018-19シーズン、ロナウドがマドリーからイタリア、ユベントスへ移籍。リーガの灯火は消えた。

 しかし、それはスペインサッカーの衰退を意味するのか?

Uー21欧州選手権はスペインが優勝

 2019年6月、Uー21欧州選手権でスペインUー21代表は決勝に進み、ドイツUー21代表を2-1で下し、2013年大会以来の優勝を果たしている。次の世代が育っていることを改めて証明した。

 特筆すべきは、大会MVPに輝いたMFファビアン・ルイスを筆頭に、多くの選手が早くも海外のクラブで活躍している点だろう。

 ファビアンはベティスから移籍したイタリア、セリエAで2位のナポリで定位置をつかんでいる。サイドアタッカーとしてベストイレブンにも選ばれたダニ・オルモは、バルサのユースに昇格せず、クロアチアの強豪ディナモ・ザグレブに移籍。16才からプロとして経験を積み、昨シーズンはタイトル総なめの原動力になった。センターバックのホルヘ・メレは移籍1年目でドイツ、ブンデスリーガで2部降格にかかわったが、2年目は昇格に貢献した。左サイドバックのアーロンは、ブンデスのマインツで不動のレギュラーを張る。ポル・リローラはセリエAのサッスオーロで右サイドバックに定着している。

 他にも、グループリーグのベルギー戦で貴重な決勝点を叩き出したパブロ・フォルナレスは、ビジャレアルの主力としてプレーした後、来シーズンは移籍金2700万ユーロ(約35億円)でプレミアのウォルバーハンプトンに新天地を求めた。他にもヘスス・バジェホ、ミケル・メリーノ、ボルハ・マジョラルはすでにブンデス、もしくはプレミアを経験している。

 スペインサッカーは、多くの若手を欧州のトップクラブへ"輸出"。人材が豊かな証左だろう。リーガ、プレミア、ブンデス、セリエAと4大リーグのUー21代表のメンバーと比べても、これは類を見ない。ちなみに同年代で今大会に参加していないMFロドリは、アトレティコからマンチェスター・シティへ、今夏、7000万ユーロ(約91億円)で移籍することが決まった。

 選手層の厚さでは、未だにスペインが傑出している。

育成に秘訣はない

「クラブには波があります。レアル・ソシエダも2部に落ちていたことがありました。育成は何しているんだ!って批判に晒されましたよ」

 スペインの古豪レアル・ソシエダの下部組織スビエタ、そのディレクターであるルキ・イリアルテは語っていたことがある。

「我々はいつだって、自分たちの育成哲学に自信を持ち、捨てることはありませんでした。いつも太陽が出ているわけではないのです。曇りでも、雨でも、嵐でも、自分たちのスタンスは変えない。人を育てるには、そういう覚悟が求められるのです」

 レアル・ソシエダは70近いクラブと提携。毎年、1億円以上をその費用に充てている。数年をかけ、ほぼ見返りがないこともあり得る。しかし彼らは、地方にいる選手たちのプレーをひとりひとり吟味し、才能を丁寧に拾い上げ、厳しく大らかに育てる。育成に秘訣はない。

「選手には、人としての振る舞いを求めます」

 ルキはそうも語っていた。それは仲間を思い、チームのために尽くす、というスピリットか。自分への甘さを断つことでもある。 

 例えば、今大会途中で「偽9番」としてトップでプレーしたミケル・オヤルサバルは、18才で抜擢され、レアル・ソシエダのレギュラーになっている。しかし、少しも慢心していない。例えばリーグ戦の翌日、オヤルサバルはまだ3部の同年代選手たちの試合観戦に来ていた。才能だけではプロの世界は生き抜けない。彼は着実に成長し、2018-19シーズンはキャリアハイの13得点で攻撃の中心になっている。

 レアル・ソシエダは主力の半数が下部組織出身で、これはトップリーグでは稀なケースだ。

 スペイン語で下部組織は「カンテラ」と言われる。「石切り場」という意味だが、建物を作る石は、スペイン各地で切り出されている。

競争の中で王は生まれる

 もっとも、リーガエスパニョーラの劣勢は動かしがたい事実だろう。劇的に覆すのは難しい。経営面の充実によって、プレミアには優れた人材がこれからも流れ込むはずで、それは国全体のサッカーをも強化する。

 ユース年代では、イングランドは力を見せつつある。世界的な選手が近くにいることで、大いに刺激を受けているのだろう。マンチェスター・シティのフィル・フォデンなど最たる例だ。

 サッカー選手は切磋琢磨の中でしか、成長できない。味方、敵、友人、ライバルが殻を破る触媒になる。それは変わらぬ真理だ。

 メッシ・ロナウド時代はいつまでも続かない。王もやがて去る。キリアン・エムバペ、ジョアン・フェリックスの二人は、"王子"と言えるか――。時代を継ぐ者は、世界最高峰リーグで玉座に就くはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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