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天の川銀河中心で巨大天体がブラックホールに引き裂かれる瞬間を観測!?

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「天の川銀河中心で天体が破壊される姿を観測」というテーマで動画をお送りしていきます。

●銀河中心で破壊される天体「X7」

ハワイのマウナケア山頂にあるケック望遠鏡は2002年~2021年にかけての過去20年にわたって、天の川銀河の中心部に存在する「X7」という天体の動きを観測し続けてきました。

こちらは実際の赤外線画像ですが、当初は球のような形を保っていた天体が、時間と共に細長く引き延ばされている姿が鮮明に捉えられており、最終的には3000天文単位(※)の長さになったと考えられています。

(※1天文単位=地球と太陽の平均距離≒1.5億km)

X7の正体は、地球50個分の質量を持つ巨大な塵とガスの塊であると考えられています。

それだけ大規模な天体が、たった20年という天文学的には非常に短い時間でこれだけの変化が起きているのは驚きです。

X7をこのような目に遭わせているのは、天の川銀河の中心に存在する、太陽の430万倍もの質量を持つ超大質量ブラックホール「いて座A*」です。

この画像では左上のギリギリ映らない部分に位置します。

例えば地球は月から重力を受けていますが、地球における月に近い面と遠い面では月から受ける重力が異なります。

その重力の差は「潮汐力」と言いますが、これによって潮の満ち引きが生まれています。

この潮汐力は、いて座A*のような超大質量ブラックホールにもなると、とてつもなく強大なものとなり、近付いてきた天体を引き延ばし、破壊してしまうこともあります。

このような現象は「潮汐破壊」と呼ばれます。

X7はいて座A*の周囲をわずか170年で1周するような公転軌道を描いており、非常にブラックホールに近い位置に存在しています。

X7は2036年にいて座A*に最接近する予定ですが、現時点でもそこに近付くにつれて非常に速いペースで破壊が進んでいる段階です。

今後一周もしないうちに完全に引き裂かれると予想されています。

そして最期の瞬間には超高温に加熱され、まばゆい光を放つ可能性もあるそうです。

●X7の起源とG天体との関係

X7のような巨大なガスや塵の雲がどのようにして形成されたのかについては、未だに多くの謎が残っています。

ですが一説では、銀河中心部の非常に高密度で恒星が存在する環境下において、恒星同士が衝突した結果、X7のような巨大なガスと塵の塊が放出されたというシナリオも考えられています。

そしてこのシナリオが正しい場合、合体の結果残った恒星も、巨大なガスや塵の塊に包まれて存在することが予想されます。

実はこの「恒星の周りにガスや塵の塊が覆っているという構図は、銀河中心部だけに存在する「G」と呼ばれる奇妙な天体の構図と合致しています。

○G天体とは何か?

G天体は単なる恒星にしては大きく広がっていたため、当初はX7のように、ガスや塵の塊だと考えられていました。

そしてこれがいて座A*に最接近する際には、引き裂かれ、飲み込まれてしまうと予想されていました。

ですがG天体のうち「G2」という天体は、なんと形は変えながらも塊の状態を維持したまま、引き裂かれることなくブラックホールから遠ざかっていったことがわかっています。

このことからG天体は単なる恒星でも、ガス雲でもない、「星やガスが密集している銀河中心部ならではの何か」であると考えられるようになりました。

想像図ではクリオネのような奇妙な見た目で描かれています。

ですがG天体にはもう一つ不可解な点があり、それは周囲の塵と比べて約2倍も高温であるにもかかわらず、いて座A*との距離に関係なく一定の温度を保っていたことです。

このことから、G天体表面の高温の熱源はいて座A*ではなく、G天体の内部にある可能性が高いことがわかりました。

単なる恒星でもガス雲でもなく、内部に恒星のような熱源を持つ天体、なんとも不可解です。

その後2021年12月10日には、ドイツのケルン大学の研究チームによって、G2の正体は「生まれたばかりの3つの赤ちゃん恒星」であると発表されました。

太陽の年齢は約46億歳ですが、G2を構成する3つの星々の年齢はたったの100万歳で、恒星としてはとてつもなく若い赤ちゃん星です。

この推定が正しければ、いて座A*の周囲で発見された星の中でG2の星々が最も若い星になります。

さらにG2を構成する3つの恒星は若すぎるために、現在もそれらを誕生させたガス雲が周囲にたくさん残っていて、3つの星々全体を包み込んでいるのだそうです。

このようにG2は3つの赤ちゃん星とそれを取り巻くガス雲で構成されているという分析結果が正しいとすれば、G2がいて座A*に最接近した際に引き裂かれることなく再び離れていくことができたことが説明できます。

さらにG2の表面温度がいて座A*との距離にかかわらず非常に高温を維持できていたことも、内部に若く高温な星々が3つも存在することで説明することが可能です。

話をX7の起源に戻すと、X7は恒星同士が衝突した際に宇宙空間へと放出された、巨大なガスと塵の塊であるというシナリオが考えられていました。

そしてこのシナリオが正しい場合、合体の結果残った恒星も、巨大なガスや塵の塊に包まれて存在しますが、これは誕生して間もないためにガスや塵の雲に包まれているという「G天体」の構図と非常によく似ています。

銀河中心部で恒星同士の合体が起きると、新たにできた恒星はG天体に、そしてそこから宇宙空間へと放たれたガスや塵の雲はX7のような天体になるというように、これらの天体は密接な関係があるのかもしれません。

https://keckobservatory.org/x7/
https://www.eurekalert.org/news-releases/937559

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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