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台風8号が西日本に接近 東からの音で危険を知らせる遠州灘の波小僧

饒村曜気象予報士
西日本へ向かう台風8号(8月4日7時40分)

遠州灘の波小僧

 静岡県西部の遠州地方には、掛川市佐夜鹿の夜泣き石や浜松市水窪町の池の平の幻の池など、遠州七不思議という不思議な物語があります。

 組み合わせには諸説があり、合わせると7つ以上ありますが、必ず入っているのが遠州灘の波小僧です。

 遠州灘に住む波小僧が、漁師に助けられたお礼に、海が荒れる時は南東の海底から太鼓をたたいて知らせるという話ですが、これは海鳴りです。

 海鳴りは、遠くにある台風からやってくる波長の長い波(うねり)が、海岸線に達して崩れる時に発生する低い音が海鳴りです。

 遠州灘に面した御前崎市周辺から浜松市にかけては、ほぼ東西に延びる長い砂浜ですので、海鳴りが大きく増幅して聞こえ、海鳴りのくる方向もはっきりわかります。

 波小僧の話で、南東から音が聞こえる時に荒れるというのには意味があります。

 南東から音が聞こえ、それが強まっているときは、説明図の台風Bのように台風が遠州灘の南東にあって西~北西進しているときです(図1)。

図1 説明図
図1 説明図

 台風はまだ発達中で、その後向きを北に変えて接近する可能性があり、接近・上陸して大きな被害が発生する可能性があります。

 これに対し、南西から音が聞こえ、それが強まっているときは、説明図の台風Aのように転向後の台風です。

 次第に進路を東寄りに変え、沖合を通ることが多いために、南東から音が聞こえるよりは、被害が少ないと考えられます。

遠州七不思議のひとつ 「遠州灘の海鳴り 波小僧」

昔、漁師に捕えられた波小僧が、海へ逃してくれた恩返しとして、天気の変わり目を大きな音で知らせるようになりました。

地元では、天候の変わり目に突然鳴り出し、すっと鳴り止む遠州灘の海鳴りを『波小僧』と呼びます。

この不思議な現象は、遠州七不思議のひとつとして今日に伝えられています。

遠州灘の波の音は、雷三里、波七里といわれるほど、海岸付近だけでなく10キロも20キロも陸地の奥まで響くようです。

その音が聞こえる方角や音の高低によって天気が予知できるといわれています。南東から聞こえる時は雨、極端に東なら台風、西南なら天気が回復し晴れると、伝えられてます。

出典:御前崎市観光サイト

台風8号が北西進中

 台風8号は、4日(日)午前3時現在、父島の東海上を北西進しています(図2)。

図2 台風の進路予報(8月4日3時の予報)
図2 台風の進路予報(8月4日3時の予報)

 台風の進路予報は最新のものをお使いください。 

 遠州灘では、これから波小僧が南東から太鼓をたたくと思われますが、台風8号は、しばらく北西進を続けた後に北上ですので、静岡県への接近の可能性は少ないと思われます。

 警戒すべきは、西日本です。

台風8号の暴風に入る確率

 台風8号は、今後勢力を強めながら北西に進み、5日(月)から6日(火)にかけて西日本に接近するおそれがあります。

 すでに、台風8号により、今後九州南部が暴風域に入る確率は30%を超えてきました(図3)。

図3 台風の暴風域に入る確率(8月4日3時の予報)
図3 台風の暴風域に入る確率(8月4日3時の予報)

 台風の暴風域に入る確率は最新のものをお使いください。

 しかも、暴風域に入る時間帯が問題です。

 例えば、鹿児島で、暴風域に入る可能性が一番高いのは8月6日(火)の3~6時です(図4)。

図4 鹿児島・日置が暴風域に入る確率
図4 鹿児島・日置が暴風域に入る確率

 このため、西日本で防災対策をとるのは、8月5日(月)の夕方までということになります。

 せっかくの日曜日ですが、身の回りで吹き飛ばされそうなものを片付けたり、排水溝のまわりを清掃して水はけをよくするなど、台風8号に対する防災対策を始めてはどうでしょうか。

台風9号発生か

 警戒すべきは、台風8号だけではありません。

 フィリピンの東海上にある熱帯低気圧が、まもなく台風にまで発達する見込みです。

 台風8号によって九州南部で大雨が降り始める8月6日朝に、フィリピンの東海上に出現している雨域が、次の台風によるものです(図5)。

図5 降水量分布予報(8月6日朝)
図5 降水量分布予報(8月6日朝)

 この台風が北上し、週末の天気に影響を与えます。

 しかも、台風8号より雨域が広い台風です。

 台風8号、あるいは、今後フィリピンの東海上で発生する予定の台風によって天気予報は大きく変わりますので、最新の気象情報に注意してください。

図1の出典:著者作成。

図2、図3、図4の出典:気象庁ホームページ。

図5の出典:ウェザーマップ提供の図に著者加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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