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アザール、それともヴィニシウス?ジダンを悩ませる左ウィングの起用法。

森田泰史スポーツライター
アザールとヴィニシウス(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

リーガエスパニョーラが再開に向けて動き始めている。ただ、レアル・マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン監督は頭を悩ませているかもしれない。首位バルセロナに勝ち点2差で2位につけているマドリーだが、中断期間にエデン・アザールがリハビリのピッチを上げ、復帰に近づいているところだ。

リーガ第25節レバンテ戦で負傷したアザール。一方、この夏に移籍金1億ユーロ(約115億円)で加入した男が離脱して、存在感を示したのがヴィニシウス・ジュニオールだ。ヴィニシウスはシーズン序盤、アザールやロドリゴ・ゴエスの控えという立場で、昨季に比べてチーム内における序列を落としていた。

■組み合わせ

シーズンが半分を終えた辺り(1月20日時点)で、ジダン監督が3トップを採用したのは20試合だった。その中で、実に11通りの組み合わせが試されている。

最も試合数が多かったのが、【アザール/ベンゼマ/ロドリゴ】の3トップだ。次点が、【アザール/ベンゼマ/ベイル】で、【アザール/ベンゼマ/バスケス】と続く。アザールは、左ウィングで、常にジダン監督のファーストチョイスだった。

ジダン監督の考えは明確だ。左サイドに「突破者」を据え、右サイドにフリーランニングの上手い選手あるいはハードワークできる選手を置く。そのため、右WGでロドリゴやルーカス・バスケスが重宝される。

現在のマドリーにおいて、攻撃の中心はベンゼマだ。クリスティアーノ・ロナウドが2018年夏にユヴェントスに移籍して以降、ベンゼマが得点源になってきた。また、ベンゼマはマドリーの攻撃を「創る」役割を担う。センターフォワードに配置されながら、左サイドのスペースに流れてボールを受ける傾向がある。

ベンゼマが空けたスペースを、誰が使うのか。それが、「ポスト・クリスティアーノ時代」のマドリーの課題になっている。現時点、それを一番巧みにこなせるのがロドリゴで、加えて周囲との連携力を備える彼を、ゆえにジダン監督は貴重な選手として見ている。

■左サイドの起用/2選手のストロングと課題

そして、問題の左サイドだ。

アザールと、ヴィニシウス。いずれも右利きで、突破力を武器とする。ドリブルだけにフォーカスするならヴィニシウス、フィニッシュの精度を考えるならアザールに軍配が上がる。

ヴィニシウスに関しては、突破した後に課題がある。顔が上がらず、次のプレーへの移行が遅くなる。時に、シュートをイメージしてドリブルするのではなく、相手を抜き去るためにドリブルをしてしまう。リーガの猛者たちは、そういったヴィニシウスの特徴を見抜き、一旦彼のスピードを止めて人数をかけてプレスをするか、左足が苦手なヴィニシウスを縦あるいはサイドに追いやる手法を採るようになっていった。

対して、加入後に体重超過が指摘されたアザールは、相次ぐ負傷離脱で、コンディションを崩していった。彼が輝きを放ったのは、マドリーに加入して11試合に出場した時だった。リーガ第13節エイバル戦(4-0)で相手守備陣を切り裂き、本当の意味でジダン監督とチームメートの信頼を勝ち得た。出場時間825分、それがアザールが適応に要した時間であった。

ただ、2人とも、やる時はやる男だ。アザールはロシア・ワールドカップにおけるベルギー代表の選手としての活躍、昨季チェルシーで残した21得点17アシストという結果、そのクオリティに疑いの余地はない。ヴィニシウスはリーガ第26節、本拠地サンティアゴ・ベルナベウにバルセロナを迎えた一戦で殻を破った感がある。勝ち点2差で首位バルセロナを追っていたマドリーは、ヴィニシウスの決勝点で勝利を収めた。

スペイン・スーパーカップで「5人の中盤」を据えてタイトルを獲得したジダン監督であるが、シーズン終盤に向けては慣れ親しんだ【4-3-3】を使う可能性が高い。その時、起用されるのは、アザールかヴィニシウスかーー。ベルナベウの左サイドで、躍動する影が気になるところである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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