オートバイのあれこれ『軽さで勝負した空冷Z。』
全国1,000万人のバイク好きたちへ送るこのコーナー。
今日は『軽さで勝負した空冷Z。』をテーマにお話ししようと思います。
1972年に「Z1」こと『900SUPER4』をリリースし、世界のビッグバイク市場を席巻したカワサキ。
最大のライバルだったホンダ『CB750FOUR』にも遜色ない人気ぶりを見せたZ1は、瞬く間にカワサキを代表する存在となります。
Z1の魅力はやはり、当時の日本車において最大排気量となる900cc級のエンジンを携え、そこから解き放たれる82psのパワーと200km/hオーバーのトップスピードを味わうことができるところでした。
「オートバイはデカくて速くてナンボ!」という当時のバイクファンたちの思いに沿った作り方を、カワサキはZ1の開発において実行したわけですね。
言い換えれば、「排気量を上げて、パワーを大きくして…」という“足し算”の考え方でZ1は作られたということ。
しかし一方、カワサキ社内には、その発想とは真逆をいく“引き算”の考え方に基づくバイク作りの構想もありました。
具体的には「車体をなるべく軽く&コンパクトにして勝負する」というアイデアです。
そしてこのアイデアをベースに生み出されたのが、1976年登場の「ザッパー」こと『Z650』でした。
車名から分かるとおり、排気量は650cc。
900ccはおろか、定番(日本の規制上限)の750ccですらなく、当時の“大排気量至上主義”からすると全く的外れな設定とされていました。
しかし、これは先述の引き算思想に基づく数字で、カワサキは意図的にエンジンサイズを抑制したことにより、DOHC4気筒というZのフォーマットを維持しながら、Z2系の750ccエンジンから約20kgもエンジン重量を削ることに成功。
排気量縮小にともなうパワーダウンを惜しむことなく、ひたすら軽量コンパクトに傾注した結果、この大幅なダイエットを成し遂げたのです。
(ただ、「パワーダウンを惜しむ」とはいってもZ650のエンジンは最高出力64ps&最大トルク5.8kg-mを発揮していて、同年代の『Z750FOUR』と比べると馬力はマイナス6ps、トルクにいたっては0.1kg-m、Z650のほうが上回っていました)
このエンジンを知るだけで、カワサキの引き算思考を貫く姿勢を理解できるのではないでしょうか。
また、Z650は車格もコンパクト。
ホイールベースを例に挙げると、Z650のそれは1,420mmと、初期型のZ1と比べ70mmも短くなっていました。
あらゆる部分が小さくまとめられたZ650は、Z1のように“パワーで押す”速さではなく、軽快なフットワークを活かした機動力で速さを得ていたといえます。
まさしく“zapper”、すなわち、軽いハンドリングで風を“zap, zap”(「ヒラリ、ヒラリ」)と切って走るバイクだったのですね。
当時はまだライトウェイトスポーツの魅力が受け入れられず、Z650はあまり注目されませんでしたが、ダウンサイジングなどが流行っている現代であれば、きっと人気を集めるオートバイに違いありません(もっとも現在は、子孫的な存在の『Z650RS』がありますけどね)。