Yahoo!ニュース

欧州評議会「ホロコーストの記憶の伝達と反ユダヤ主義への対抗に最新技術とSNSの活用を」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

欧州評議会は2022年の国際ホロコースト記念日にホロコーストの記憶と想起の重要性を訴える声明を出していた。1945年1月27日にアウシュビッツ絶滅収容所がソ連軍に解放されたため、1月27日は国際ホロコースト記念日である。

欧米では今でも反ユダヤ主義が根強く「ホロコーストはなかった」といったホロコースト否定論が多くある。欧州評議会は声明の中で「ホロコーストの正しい歴史を伝えていくことがとても重要です。そしてホロコーストはなかったという歴史の歪曲は表現の自由とは言えません」と主張。

戦後70年以上が経過して、ホロコースト生存者が年々減少してしまい、当時の経験や記憶を直接伝えることができなくなりつつある。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。そのような中だからこそ欧州評議会では「インターネットやSNSなど最新技術を活用して、ホロコースト生存者の記憶や経験を伝えていくこと、そしてそのようなデジタル化された証言をもっとホロコースト教育に使うべきだ」と訴えていた。

現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコースト時代の記憶や経験を後世に伝えようとして生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。また最近ではホロコースト生存者らが若者に人気のTikTokでホロコースト時代の経験を伝えるショート動画を撮影して、当時の記憶と経験を次世代に伝えている。

ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。だがホロコーストを経験した生存者は当時の悲惨な体験を子供たちや世間の人に語りたがらない人の方が多い。

そしてこのようなホロコースト否定論が大量に拡散されているのがSNSだ。ツイッター、TikTok、インスタグラムといった若者に人気のSNSや高齢者が多く利用しているFacebookまでホロコースト否定論の投稿を多く目にする。世界的にもまだ根強い反ユダヤ主義でホロコースト否定の投稿は多い。露骨にホロコースト否定や反ユダヤ主義に関する内容であれば、すぐに削除もできる。だが、そのようなわかりやすい投稿はすぐに削除されるので、隠語や仲間内でしかわからないような言葉、新しい表現などで投稿されることも多く、全てのホロコースト否定の投稿を削除することは容易ではない。例えば「あんなことはなかった」といった文脈からでしか推測できないような表現が多く、そのような投稿をSNSから削除していくことは至難の業である。

技術の進化でホロコースト生存者の記憶や経験の証言を動画やホログラム、映画などでデジタル化して保管してSNSで世界中に拡散したり、ホロコースト教育の活用にも貢献している。だがこのような技術やサービスの進化にともなって「ホロコーストなんてなかった」というホロコースト否定論の拡散も以前よりも容易に、かつ大量に行われている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事