Yahoo!ニュース

トヨタ、真の世界一を獲得へ好発進!ポルシェ、フェラーリを相手に耐久レースに挑む

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
トヨタGR010ハイブリッド 【写真:FIA WEC】

日本を代表する自動車メーカー、トヨタ自動車が参戦を続ける耐久レースシリーズ「FIA WEC(世界耐久選手権)」が2023年3月17日(金)の「セブリング1000マイルレース」(アメリカ)で開幕する。

総合優勝を争う「HYPERCAR」クラスにはトヨタ、プジョーに加えて今季からポルシェ、フェラーリ、キャデラック(GM)がワークス参戦することもあり、非常に注目度の高いシーズンだ。

ついにポルシェ、フェラーリとの対決が始まる

2012年からFIA WEC、そして「ル・マン24時間レース」への挑戦を続けてきたトヨタにとって、2023年はここまでのモータースポーツ活動の中で最も重要な1年になるだろう。

2012年にル・マン、耐久レースへの復帰を宣言したトヨタ
2012年にル・マン、耐久レースへの復帰を宣言したトヨタ写真:ロイター/アフロ

2018年以来4シーズンに渡って世界チャンピオンのタイトルを獲り続けてきたトヨタだが、その4シーズンは実質的なライバル不在の「トヨタ1強」状態だった。2021年から「HYPERCAR」クラスが発足するもライバルメーカーはなかなか手を挙げず、トヨタは台数合わせのために参戦したプライベーター達との性能調整を受け入れ、何とかチームの総合力でタイトルを獲り、ル・マン24時間レースでも5連覇を果たした。

2022年のトヨタGR010ハイブリッド【写真:FIA WEC】
2022年のトヨタGR010ハイブリッド【写真:FIA WEC】

2020年、アメリカで開催されるデイトナ24時間レースを含む「IMSAウェザーテックスポーツカー選手権」と、ル・マン24時間レースを含む「FIA WEC」のどちらにも参戦できる新車両規定「LMDh」(ル・マン/デイトナ・ハイブリッド)が発表されると次々に自動車メーカーが手を挙げ始めたのだ。

2022年途中からFIA WECに参戦している「プジョー」はWEC側のHYPERCARレギュレーションで製作されたプジョー9X8で参戦。トヨタにとってプジョーは1990年代前半のライバルであり、当時のSWC(スポーツカー世界選手権)、ル・マン24時間レースでも惨敗した歴史がある。

そして、今季から同じくHYPERCARレギュレーションのマシンで「フェラーリ」が参戦する。F1が主体のフェラーリだが、1950年代、60年代はル・マンで総合優勝を争い、ル・マン6連覇を達成。レースの代名詞とも言えるブランドとの対決はトヨタにとって非常に重要な意味を持つ。

また、IMSAのLMDh規定のマシンで参戦するのが耐久王と呼ばれる「ポルシェ」だ。1980年代はポルシェ956、ポルシェ962Cを前にトヨタは全く歯が立たず、トヨタがル・マンの制覇に躍起になるキッカケを作った最大のライバルだ。2010年代のLMP1規定時代にはトヨタよりも後発で参戦したポルシェにトヨタはまたも惨敗してしまったのだ。

ポルシェ963【写真:FIA WEC】
ポルシェ963【写真:FIA WEC】

さらに、今季はデイトナ24時間レースを4連覇したキャデラック(GM)がLMDh規定のマシン、キャデラックVシリーズRで参戦する。インディカーやNASCARでも活躍するチップ・ガナッシレーシングが運営する強豪チームには元ポルシェのスタッフがヘッドハンティングされるなど体制強化を図っており、トヨタにとっては不気味なライバルだ。

今年はル・マン24時間レースが100周年記念のレースということもあり、どのメーカーも当然、6月のル・マンでの優勝を狙っている。トヨタはライバル不在と言われた中で連勝を続けてきたが、今年が本当の意味での勝負の年になる。

これまでのデータ、経験を活かせるか

まさに雨後のタケノコのごとく次々に現れた強力なライバル達にトヨタは勝てるのだろうか。

性能調整が行われ、接戦の耐久レースになることが予想されるWECで勝つのはそうそう簡単なことではないだろう。ましてや今季はプライベートテストの走行日数にも制限がかけられている。新規参入組のフェラーリ、ポルシェ、キャデラックなどはトータル20日間のテストが許される一方で、継続参戦のトヨタは12日間。それも受け入れての参戦になる。

鈴鹿サーキットモータースポーツファン感謝デーでGR010ハイブリッドを走らせた小林可夢偉と平川亮【写真:MOBILITYLAND】
鈴鹿サーキットモータースポーツファン感謝デーでGR010ハイブリッドを走らせた小林可夢偉と平川亮【写真:MOBILITYLAND】

実際にセブリングのレースが始まってみないと本当の勢力図は分からない。性能調整もレースごとに変わり、多少の有利不利も出てくるだろう。しかし、トヨタには現在のHYPERCAR、トヨタGR010ハイブリッドのデータを2年間に渡って蓄積してきた強みがある。同じワークスチーム体制でWECとル・マンに参戦を続け、失敗も含めて糧にしてきた経験値はライバルにはないものだ。

性能調整によって他を圧倒するスピードを誇示することは不可能になっているHYPERCARクラスの戦いはスプリントレースを何時間も繋いだような耐久レースになるだろう。かつての耐久レースと違い、マシンは壊れないことが前提。小さなトラブルですら起こってしまえば、それは優勝争いからの脱落を意味する。

今までの経験値を生かそうというトヨタの姿勢は今季のラインナップにも表れている。7号車にチーム代表兼任の小林可夢偉、トヨタに所属して10年目となるマイク・コンウェイ、そしてWTCCのチャンピオンを経て今季で所属6年目となるホセ・マリア・ロペス。3人のトリオはLMP1時代から6年間、5シーズン変わっていない。

8号車は昨年、中嶋一貴の引退に伴いラインナップが変わったが、昨年加入の平川亮、トヨタのWEC挑戦1年目から走り続けているセバスチャン・ブエミ、そして2018年にポルシェから移籍して昨年は3度目のル・マン優勝を達成したブレンドン・ハートレーの3人。昨年、新布陣ながらもル・マン優勝、ワールドチャンピオンを獲得した3人のラインアップを継続した。

チーム代表を兼任する小林可夢偉【写真:FIA WEC】
チーム代表を兼任する小林可夢偉【写真:FIA WEC】

一方でライバル達は全てが新しい挑戦だ。ドライバーはGTEクラスやLMP2などで耐久レースの経験が豊富なドライバーが大多数を占めるが、チームとしてはデータ不足、予期せぬトラブルに対処しながらのレースを強いられることになるだろう。

開幕戦はトヨタvsフェラーリ?

開幕戦の舞台、セブリングはアメリカのフロリダ州にある空港の跡地に造られたサーキットだ。常設コースでありながら路面は非常にバンピーで、市街地コースとも言える特性を持ち、トラブルが起こりやすいコースなのだ。

今季は使用するタイヤを事前にブランケットで温める「タイヤウォーマー」の使用が禁止され、ドライバー達はただでさえ滑りやすい路面の中、冷えたタイヤを慎重にウォームアップして走らなければならない。その中で、タイヤウォーマーを使わないのが当たり前の日本のレースに慣れた小林可夢偉、平川亮を擁するトヨタはそういう経験値でも有利になるかもしれない。

3月17日(金)のレース本番に向けたフリープラクティスが3月15日(金)に行われたが、2回目のプラクティスでトヨタ勢が1-2状態。7号車の小林可夢偉が1分46秒954で他を圧倒する速さを見せた。トヨタGR010ハイブリッドはアベレージタイムでもライバルを上回っており、唯一対抗できそうなペースを見せているのはフェラーリ勢だ。

フェラーリ499P【写真:FIA WEC】
フェラーリ499P【写真:FIA WEC】

HYPERCAR規定のマシン、フェラーリ499Pで最高峰クラスに初参戦するフェラーリは50号車にアントニオ・フォコ、ニクラス・ニールセン、ミゲル・モリーナとGTEクラスでの経験豊富なドライバーを揃えてきた。一方51号車は元F1ドライバーのアントニオ・ジョビナッツィ、そしてGTEクラスから昇格のアレッサンドロ・ピエール・グイディ、ジェームス・カラードのラインナップ。レースで高いアベレージを刻んできそうなアントニオ・ジョビナッツィの存在はトヨタの脅威になるかもしれない。

フェラーリと共にトヨタにスピードで対抗できそうなのが、1台体制のキャデラックだが、ポルシェ勢、プジョー勢はベストタイムでもアベレージでもトヨタやフェラーリから離されている印象だ。

トヨタ優勢でレースが進みそうな開幕戦だが、実際には世界のビッグネームがこれだけ集う舞台は蓋を開けてみないと本当の勢力図は見えてこない。経験値の少ないライバル勢はシーズンを通じてのチャンピオンよりも、100周年のル・マン24時間レース優勝に照準を合わしてくると考えられ、セブリングを含めてル・マンまでの3戦はライバル勢の伸び幅がどれほどのものか注目したい。

とにもかくにも、見どころが書ききれないほど多い今季のWEC。1980年代のグループCカー時代、1990年代後半のモンスターGTカーの時代を彷彿とさせる激戦が復活する。そんな中でトヨタは勝たなければいけない。ここまでの我慢と苦労は報われるだろうか。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事