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サンウルブズの布巻峻介、控え暮らしに見た「エンジョイ」の大切さとは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
鉈のタックル、吸盤のジャッカルは必見。(写真:アフロ)

 6月の日本代表ツアーのメンバーとなった流大は、ナショナルチームと連携を図るサンウルブズで共同キャプテンの一角を担っていた。参戦する国際リーグのスーパーラグビーでは2月の開幕から9連敗と苦しんだが、グラウンド外での仲間の献身には感謝していた。

 具体的な名前が挙がったのは、同級生で日本代表の布巻峻介だった。このシーズン出番のなかった布巻は、試合に出られない選手たちを鼓舞してセッションを引き締めていたというのだ。

 部員100名超の帝京大学でもキャプテンをしていた流は、「(試合の)メンバー外」の態度がクラブの雰囲気を左右すると看破していた。それだけに、国内のパナソニックでキャプテンを務める布巻の姿勢には頭が下がった。

 日本代表として5キャップを有する布巻は、身長178センチ、体重96キロの25歳。東福岡高校時代はセンターとして高校日本一に輝くなど活躍し、早稲田大学3年時からはフランカーに転じて持ち前のタックルやボールを奪う嗅覚などを磨いてきた。

 今季はサンウルブズ参戦2年目となったが、一時はひとつ下のグレードにあたるナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)への帯同も命じられた。もっとも4月にあったNDSのニュージーランド遠征では、スーパーラグビークラブの予備軍たちとの練習試合で3戦2勝。布巻がゲームキャプテンを務めることもあったNDSのチーム(正式名称はJAPAN A)は、雰囲気の良さが広く伝えられた。

 NDSでの様子、流に喜ばれたサンウルブズでの言動について、5月中旬、都内で明かしている。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

 

―――NDSではリーダーシップを求められました。

「当たり前ですけど、まずは自分がやるということ。短期間で集まったチームでしたが、代表になるため、サンウルブズに入る(もしくは定着する)ため…という思いが強い意識の高い集団だったので、そこまで何かをしなくても自然とまとまった感じはありました。

 ただ、(それぞれが)チャンスを掴みたいということ(思い)は尊重しつつも、そのためにはチームにならないといけない。変な方向へわがまま勝手に行っていたら、アピールができないことにもなりますし」

――チームがひと固まりとなることで初めていいプレーができ、その延長で個々が上部組織へアピールできる、ということですね。とにかく、NDSの雰囲気はよかったと聞きます。

「目指しているところが(お互いに)わかっていたし、まとまりやすいきっかけはありました。力を合わせないとアピールもできないから力を合わせるしかなかった…。それをわかっている上で、エンジョイも大事(と考えていた)。プレッシャーを感じて縮こまるよりは、楽しんで共有するという力は皆にあったと思う」

――一方でサンウルブズへ合流すれば、控え組での活動を余儀なくされていました。もっとも流キャプテンは、この位置での布巻選手の働きに助けられたと話しています。

「(控え組は)プレパレーショングループと言われているんですけど、そこへ入ったらそこでの役割がある。そこの役割に、集中します。そう、(同じ組の)皆を促していかないといけないし…」

――自分だって試合に出たいはず。

「チームの勝利に貢献する方にフォーカスして、そのなかでアピールチャンスを見つけていかなきゃいけないと思っているので。例えば、試合に出たいからと言って怪我をさせたり…というのは、試合に出たいという気持ちとは逆の結果になると思うので」

――試合に出られる条件を言語化すれば、「プレーの質を含めたチームに信頼される言動」となるかもしれません。

「出る人には出る人の、出ない人には出ない人の役割がある。そのなかで『あいつも出たいんだろうな』とか、『出るからには責任がある』と色々(な感情が)あるのは、お互いにわかっているので」

――最近のサンウルブズを拝察すると、異国選手同士の仲、選手スタッフ間の対話に変化が感じられます。

「基本的には、リーダーがそういうところを見てくれていると思います。あとは、意見を言う場を設けたりもしています。文句ではなく、『こうなれば、もっとよくなるんじゃないか』という話し合いも増えてきましたし」

――このチームをよくする方法を、ようやく掴みつつあるようです。

「やることはそこまで変わっていないんですけど、ここまでやってみて分かったことがたくさんあるので、それをうまくやりながら(改善しながら)…という感じです」

――例えば。

「負け続けて、プレッシャーもあって。(相手に)立ち向かってはいったんですけど、何をやっても勝てないという雰囲気になったので…。逆に、エンジョイの気持ちも大事なのかなとは思いましたね。さっき言ったJAPAN Aも、ラグビーだけを見たらできていない部分もありました。ただ、元気というか、残り10分でもエネルギッシュに動ける感じがあった。エンジョイもしていたし、単純な団結力とかもあった」

 シーズン序盤に課題とされていた項目は、時間を追うごとに改善。例えば成功率の低かったラインアウトは、首脳陣主導から選手主導にシフトすることで安定。故障から復帰したロックのグラント・ハッティングは、サインコールの落とし込みや試合中の捕球位置決定で皆を助けた。

 その波を受けてチームは目下2連勝中だが、初勝利を挙げたレッズ戦の前から選手からは「勝ちたい」より「自分たちのラグビーをやり切る」といった趣旨の談話が多く出るようになった。この潮流は、「(勝利への)プレッシャー」よりも「(勝負への)エンジョイ」を求める布巻の見立てとも重なる。

 ここまで2連勝のサンウルブズでは現在、6月の日本代表に向けメンバーが大量離脱。5月下旬の2試合は、海外出身選手や出場試合数の少ない日本代表選手たちが戦う。

 日本代表入りした布巻は現地時間5月25日、レベルズとの第15節で今季初先発を果たす(メルボルン)。

 5月の取材時、こうも語っている。

――代表活動にも参加する可能性があります。個人的には何に取り組みますか。

「僕個人は、基本に戻って、身体を強くする、ひとつひとつのスキルのレベルを上げる…。いまはタックル、ボールキャリーの姿勢に立ち返っています。そこで勝負をしないといけないな、とも思っているので」

――布巻選手が務めるフォワード第3列(フランカー、ナンバーエイトの総称)。出身国を問わず強力なライバルがひしめきます。

「そうですね。でも、それもものすごくいいことだと思います」

 高校時代に勝ちまくってきたうえで、サンウルブズでは勝つために「エンジョイ」が必要とした布巻。3戦全勝が目標とされる日本代表でも、自己犠牲と自己アピールを両立させる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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