「それってパクリじゃないですか?」弁理士視点の感想と視聴者向け法律解説(5)
それパク第5回目のネタはクロスライセンスと特許の分割出願でした。簡単な法的解説と感想を書いていきます。ドラマを見たことを前提に書いています。未見の方にはネタバレになりますのでご注意下さい。
クロスライセンスの話は個人の写真の著作権と瓶の特許権のクロスライセンスでした。かなり実務的な話ですね。一般的に、企業間で包括的なクロスライセンスが行われているのはよくある話ですが今回のようなパターンはおそらくあまりないと思いますし、いかにもご都合主義ですが、ツイッターでの反応を見ると「なるほど!クロスライセンスとはこうことか」的な好意的意見が多かったように見えますので、知財ドラマとして成功と言ってよいのではないかと思います。
特許の方は、拒絶理由通知への対応、いわゆる中間処理の話でした。最も弁理士の腕の見せ所となる部分ですが、めちゃくちゃ地味な作業なので、テレビ的に映えさせるのは難しいと思いました。特許庁内での初のロケということです。ところで、ロビーとは言え来訪者が特許庁の館内で写真撮ってよいのでしょうかね?また、自分は使ったことないですが、特許庁の食堂を来訪者も使用できるのはリアルでもそのようです。
中間処理の中でも、分割出願とこれまた実務的な話が出てきました。この言葉をテレビドラマで聞くとは思いませんでした。番組中で解説があったように、一つの特許出願に複数の発明の要素(たとえば、「発酵」のプロセスと「熟成」のプロセス)があった場合に、それぞれを別の出願にする手続です。今回のケースのように特許化が確実な部分を先に権利化して、残りの部分の権利化を時間をかけて行いたい場合等に使用されます(それ以外にも活用法がありますが説明割愛)。
しかし、今回のケースのように、「発酵」のプロセスだけであれば特許査定できることが明らかなのであれば、それは拒絶理由通知(暫定的な拒絶)を見ればすぐわかり、対応できると思うのですが、そこは突っ込んでもしょうがないでしょう。
また、サブプロットしてずっと続いていた「ふてぶてリリィ」の件ですが、無効審判の口頭審理に相手方が欠席ということで、本当に無効理由があるのか等には特に深入りせず終わってしまうようですね。しかし、企業知財部にいて弁理士として個人の案件を受任できるって副業可でもそんな会社ってあるのでしょうか?
ところで、このドラマ、視聴率的にはイマイチのようです。やはり、知財という地味なテーマなので難しいところがあるのかと思います。弁理士も知財もほとんど関係なしに、恋愛や人間関係のゴタゴタを中心に据えれば、もっと普通のドラマとして展開しやすくはなると思いますが、私としては「一般視聴者向け知財ドラマ」という課題にチャレンジし続けてほしいと思います(えらそうですみません)。たとえば、特許を出願しなかったために、アイデアを大企業に盗まれて祖父の代から引き継いだ会社を倒産させてしまった町工場のおじさんとかを登場させれば、視聴者にも「知財を軽視すると想像以上に大変なことになるんだなあ」というのを印象付けられるのではと勝手に思ったりしています。