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アメリカは日本を本当に守るのか? 集団的自衛権、安全保障論争に欠けている視点

山田順作家、ジャーナリスト

■戦略的視点を欠く安全保障の議論

中国との尖閣諸島の領有権問題、そしてそれに絡むウクライナ情勢、さらにこうしたことを受けて議論されている集団的自衛権問題、ついに起こった中国とベトナムの南シナ海での衝突など……本当にいま日本が巻き込まれそうな国際情勢はきな臭い。だから、国内世論は錯綜している。まるで、かつての日中戦争時、太平洋戦争開戦時の状況を見ているようだ。

ただ、こうした議論に、なぜか戦略的な大きな視点が欠けているのが、本当に気になる。どういうことかというと、日本は中国と対決していく。その基盤となる日米同盟は堅持する。さらに、そのためには集団的自衛権が必要という流れが、自然とできあがっていることだ。

この枠組みから外れた議論、考え方がほとんどない。それが本当に気になる。完全にズレている「日本を戦争する国にするのか」という方々はほっておくとして、まともに議論している方々、メディアなどに、巨視的な視点がないのはなぜなのだろうか?

■日米会談のオバマ発言は満額回答か?

ずばり言うと、日本の安全保障には「右」も「左」もないと、私は思っている。安全保障というのは、この世界の中で私たちの国がいかにサバイバルしていくかという問題だから、そんなイデオロギーを持ち込んだら、国は滅びてしまう。つまり、この問題に親米も反米も、まして親中も嫌中もないのだ。

もっと言うと、昨日の味方は明日の敵かもしれないからだ。その逆もある。いくらグローバル時代だからとはいえ、国家間の枠組みの中でしか、安全保障は成立しない。

そういう目で見ると、まず、先の日米会談で、オバマ大統領が「尖閣諸島を含む日本の施政下にあるすべての地域に日米安全保障条約第5条が適用される」と言ったことで、「満額回答」なんて言っている方々はお人好しだ。満額回答と言うなら、「尖閣が日本の領土であることを米国は認める」と言ってもらわなければならない。

つまり、尖閣で紛争が発生したら、アメリカは日米同盟にのっとって軍事行動を起こすという確約だ。

■アメリカの裏をかき、中国・ロシア側に寝返る

安倍首相は、ウクライナ問題に対しては、オバマ大統領にならって「力による現状変更の動きに明確に反対する」と言っているが、反対してもやることはアメリカの尻馬にのった経済制裁だけ。しかも、当のオバマ大統領が口先だけになっているのだから、現在のところ、オウムにしか見えない。

そう言いながら、日本がアメリカの裏をかき、中国・ロシア同盟ができたら、そちらに寝返ることなど考えたこともないだろう。実際、ロシアと中国の関係は、中ソ対立時代と比べたら大きく変わっている。キッシンジャーの中国抱き込みの成果は、いまや無に帰しつつある。日米安保条約というのは、一方的に破棄できる条約だ。

今回の中国とベトナムの紛争を、アメリカの主要メディアは「ベトナムやその隣国、オバマ政権の決心を試すテストであることは明白だ」と言っている。もし、このテスト(中国の挑発)にオバマ大統領が乗らなければ、日本の不信感はますます強まる。「尖閣も守ってくれないのではないか?」と。

■尖閣の実効支配を緩めて中国の出方を見る

そこで、例えば、日本がアメリカを試してみることだってできる。つまり、尖閣の実効支配体制をわざと緩くして、巡視船などを引いてしまう。そうして、中国がなにをしてくるかを見る。もし、フィリピンやベトナムのようなことになって、アメリカがなにもしなければ、そのとき、初めて日米安保は無意味ということになる。

実際、オバマ大統領はすでに「アメリカは世界の警察官ではない」とまで言っている。安倍首相は経済より集団的自衛権、憲法改正に熱心で、オバマ大統領からお墨付きをもらったつもりでいるが、アメリカでは世論の半分は常に「外国のことはどうでもいい」である。日米安保を相互援助協定にしたとしても、アメリカ人は日本のために中国とは戦わないだろう。

第二次大戦では、アメリカはその逆をやって(中国を助け日本と戦争)、中国大陸の利権を全部失ったうえ、毛沢東政権までつくってしまった。

■オバマ大統領のレームダック化を喜ぶ人々

オバマ大統領はすでにレームダック化したというのが定説になっている。こういう話になってくると、日本の評論家と称する人々は、喜んでそれを書き、「アメリカを一方的に信頼するのは危険だ」などと言い出す。アメリカでは民主党がどうのこうの、共和党がどうのこうのと言い出す。

また、経済評論家は、以前から「ドルの崩壊」だの「アメリカの崩壊」だの、あるいは、「新自由主義の限界」などを言って、アメリカが世界覇権を失っていくような未来を喜んでいる。

ハッキリ言って、ある大統領がレームダックになろうと、財政赤字が積み上がろうと、アメリカは現在も将来も基軸通貨と世界覇権を握る民主主義の帝国であることに変わりない。大統領が代わり、いざやる気になれば、また戦争だってするだろう。

しかも、彼らは自分たちからは仕掛けない。太平洋戦争を思えば、彼らはぎりぎりまで待って、日本に先に仕掛けさせた。オバマ大統領だって、ある限度まできたら、戦争をやる可能性だってある。アメリカの持つ潜在的なパワーを読み違えると、日本はまた滅亡しかねない。

■集団的自衛権はアメリカだけに使うのか?

憲法9条の世界は絵空事である。だから、それを議論することはあまり意味がない。まして、解釈論など、国際情勢一つで変わる。今日の解釈が明日も通用するとは限らない。国際法ですら破る国があるのだから、一国の憲法で安全保障など成立しない。

また、集団的自衛権はアメリカのために使うとは限らない。将来の同盟国のために使うかもしれない。日本はオプションとしては、中国だろうと、ロシアだろうと、EUとだろうと同盟できる。

たとえば、いまベトナムは中国と紛争しているが、ベトナムが中国側につくという可能性だってある。東南アジアはASEANといっても華人経済圏だから、将来、中国に抱き込まれる可能性だってある。そうなったら日本はアジアの端で孤立する。

つまり、日本が中華秩序に戻ることだってあることも、オプションとして持っていなければ国家戦略ではない。個人的にはそんなことはまっぴらだが、ドイツだってソ連と不可侵条約を結び、やがて裏切って戦争を仕掛けた。

ソ連もヤルタの密約で、日ソ中立条約を破って日本に参戦した。話は古いが、もっとも戦略にたけた英国は、日本が必要でなくなったら、日英同盟を切ってきた。

■日本にとって最悪のシナリオは米中同盟

TPPは経済連携協定だが、集団的安全保障同盟の側面も持っている。コメや牛肉を守るなんて議論は枝葉末節だ。ここに将来的に中国・韓国を抱き込めば、日本は安泰かもしれない。まったく違った観点から、たとえば北方領土を放棄して日ロ同盟を結び、中国と対立したっていい。

日本にとって最悪は、アメリカと中国が日本の頭ごなしに「米中同盟」を結ぶことだ。そして、日米安保を切られたら、日本は第二次大戦の敗戦をもう一度喫することになる。これだけは絶対避けなければならない。

このようにあらゆるオプションを想定して議論しなければ、私たちの安全は保てない。とりあえずは、アメリカと旧西側陣営との同盟関係が、日本の安全を保障するのは間違いない。その意味で、沖縄県民の一部が、「基地反対」などと言っているのを、私は理解できない。

また、感情的に中国・韓国を嫌い、アメリカの属国でいるのもいやだなどと言っている保守も、私には理解できない。この世界に、自主独立していてやっていける国など一国もない。

私たちがやるべきことは、自国経済の衰退を止め、世界のどこの国からも脅威であり、なおかつ平和を維持する決意を断固たる態度で示し続けることだろう。

ともかく、現在の世界情勢だけで判断し、それに過剰に適応すると、将来は危うい。それは、歴史が示すとおりではないだろうか。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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