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200年に一人の天才ボクサーが語る「ドネアが井上を大きく成長させた」

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:山口裕朗

 現役時代、所属していた協栄ジム会長、故金平正紀に「具志堅用高を超える逸材。200年に一人の天才」と絶賛された元WBAジュニアウエルター級1位、日本同級&日本ウエルター級王者の亀田昭雄。

 本シリーズでお馴染みの彼に、WBSSバンタム級トーナメント決勝、井上尚弥vs.ノニト・ドネア戦について訊いた。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 一人のジャッジは114-113で井上の勝ちとしていましたね。1ポイント差ということは、第11ラウンドのダウンがなければ、どちらに転んでもおかしくなかった、という見方が出来ます。正直、僕は途中からドネアに感情移入していました。あのダウンがなければ、ドネアの勝ちでもおかしくなかったように感じています。

 「36歳のファイターが、ここまで仕上げて来たのか。10歳も年下の、モンスターと呼ばれながら成長を続ける男を、こんなに苦しめるのか」と、胸が熱くなりました。だから、ドネア贔屓の採点をしていたように思います。

井上vs.ドネア戦のスコアシート Press Roomにて著者撮影
井上vs.ドネア戦のスコアシート Press Roomにて著者撮影

 昨夜の井上のアドバンテージはスピード、ドネアは距離感でしたね。ドネアはキャリアを武器に試合巧者ぶりを発揮しました。忠実にジャブを放ち、ほぼほぼ自分の距離を保っていました。やはり百戦錬磨の王者であるパフォーマンスでした。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 しかし、そのドネアを下した井上は本当に見事です。バンタムに上げてからは、強いとされた相手を早いラウンドでKOしていました。でも、今回はキャリアのある老獪なチャンピオンにペースを握られ、誤魔化されながらも、一気に勝負に出て流れを変えた。相手に惑わされながらも第11ラウンドに勝負に出た彼のハートも技術も、文句のつけようがありません。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 井上は第2ラウンドに右目の上をカットし、視界を奪われたんですよね。ドネアが二重に見えて的が定まらなくなった。右ストレートも打てなくなった。最強の相手と対峙し、そういったアクシデントを乗り越えての勝利なんです。

 井上は多くをドネアから学んだでしょう。名王者に苦戦しながらも判定で勝てたということは、精神力もスタミナもタフネスもあるということを証明したんです。彼はまた引き出しを増やしましたよ。

 WBC王者とバンタム級タイトルの統一戦を希望しているようですが、この階級ならどんな相手にも負けないでしょう。まだまだ伸びると思いますね。楽しみです。

 そうそう、前回も言いましたが「200年に一人の天才」というキャッチコピーは、僕よりも井上尚弥の方が相応しいです。現役時代は、そう呼ばれたものですが、彼に差し上げます(笑)。井上尚弥は間違いなく、アーロン・プライアーに匹敵するパウンド・フォー・パウンドです。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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