飲酒経験のある少年が9割以上、沖縄の少年院に学ぶ非行の現状
日本で一番新しく建てられた少年院である「沖縄少年院」および「沖縄女子学園」の会議室には沖縄県在住者のみならず東京などから集まった約40名の大人で占められていた。
集まったのは、認定NPO法人育て上げネットとNPO法人沖縄青少年自立援助センターの共催で行われた沖縄少年院・沖縄女子学園スタディツアーの参加者で、多くは生まれて初めて少年院という教育施設に足を踏み入れた。
敷地面積は75.233平方メートルと広大で、近年の少年院では珍しく建物の外側に「壁」がある。これまで14の少年院に足を運んだが、その多くが金網のようなもので外界と仕切られており、厳重な感じがした(理由は台風など沖縄の気候に合わせているため)。
沖縄少年院および沖縄女子学園は、男性と女性の少年院が一体化した全国でも非常に珍しい運営形態である。公務員削減の方向性と相まって効率的に運営することを目指したものだと言う。
沖縄少年院の収容定員は100名だが、現在の収容数は20名(2020年2月14日現在)。沖縄女子学園の収容定員は全国9カ所の女子少年院で最も少ない25名で、収容数は2名と少ない。ただし、平均でも近年は10名以上を収容することはほとんどない。
他の地域の少年院と比べて、沖縄の少年院で特徴的なのは入院する少年の大半が沖縄県在住の少年で、出院後も沖縄県内に戻っていくことだ。そのため、その地域や風土を生かした教育が可能になる。
その他の特徴を簡単にまとめる。
・非行名としては「窃盗」が圧倒的に多い。全国では「特殊詐欺」が多くなっているが沖縄では少ない
・収容年齢は15歳以下が多く、圧倒的に低年齢で入院する
・学歴は90%以上が中学在学および中卒である。現在、中学生が3名在院しており、今年は沖縄少年院内で卒業式を行う
・保護者は、実父母率が低下しており、ひとり親家庭のなかでも世帯主が母親であることが全国平均より20ポイントほど高い
少年院の役割は「矯正教育」と「社会復帰支援」に大別される。矯正教育は、「職業指導」「体育指導」「生活指導」「教科指導」「特別活動指導」の5指導が行われている。
そのなかでも沖縄の少年院が最も力を入れているのが「生活指導」内で行われる「アルコール関連問題指導」である。
これは基本的に20歳未満の少年が収容される少年院の指導では沖縄だけの独特なもので、「お酒の伝統、アルコールに寛容な地域文化が強く影響しているのではないか」ということだ。
子どもたちは小さな頃から手を延ばせばアルコールが手に届くところにある。そのためか、アルコールが非行の背景にある少年が多く、在院する少年の9割以上に飲酒歴があるようだ。また、10代でアルコール依存症一歩手前で少年院に来る少年もいるという。
2015年7月22日には、沖縄タイムスが社説で沖縄の飲酒文化について記事にしている。
社説[アルコール依存症問われる「飲酒文化」] | 社説 | 沖縄タイムス+プラス
アルコールへの寛容性が見られる一方、その寛容性は少年院を出院した少年のよき受け皿にもなり得ているようだ。 高卒認定試験を目指す少年に対する学習指導やビブリオバトルなどを活用した読書指導では近隣大学との連携が緊密に行われている。
また、在院中に仕事が決まって、出院後スムーズに職場とつながる割合が高い。平成29年、30年では50%と驚くような数字が出ているという。 景気状況などにも左右されるが、それでもこの数字の高さは全国でも非常に突出している。
現在、少年院の数は収容される少年の数の減少などから統廃合が進んでいる。その一方で、少年のために手助けがしたいという声は大きくなり、手厚い支援体制が整いつつあるそうだ。
直近の課題としては、少年の多くが戻る家庭に精神的、経済的余裕がなく、保護者支援・家族支援によって、少年の帰住先である家庭を整えることで再非行、再犯を減らしていく必要がある。
非行少年に限らないが、さまざまな地域課題に対して「地域の受け皿」という言葉が使われるが、沖縄における「寛容性」は、少年非行の要因になり得るアルコール問題などを減らすことができれば、再犯防止に大きな力となるだろう。
特に再犯防止には帰住先の落ち着きとともに、安定した「仕事」や「職場」とのつながりが重要とされており、「協力雇用主制度」などを通じて、少年と仕事を結び付けられる雇用主の寛容性と手助けが求められている。