【コーヒーの歴史】ヨーロッパに根づく黒い飲み物!―香り高きコーヒーが織りなす社交の歴史―
ヨーロッパにおけるコーヒーの普及は、17世紀半ば、イギリスのコーヒー・ハウスから始まりました。
1652年、ロンドンで初めてのコーヒー・ハウスが開業した際、コーヒーの「悪魔の匂い」に住民が抗議したという記録がございます。
しかし、その異国の香りは瞬く間に社交の中心となり、17世紀末にはロンドンだけで3000軒ものコーヒー・ハウスが営業しておりました。
これに対し、「ロンドンの家庭の主婦」が夫たちのコーヒー・ハウス通いを非難する声明を発表する騒動もありましたが、コーヒーの人気に陰りは見られなかったのです。
フランスでは、1669年にオスマン帝国の使節がルイ14世に献上したことで、上流階級にコーヒーが広がりました。
パリでは1672年、アルメニア人商人が初のコーヒー・ハウスを開業し、1686年にオープンしたカフェ・プロコープは政治家や文人たちの議論の場として栄えたのです。
この時代、コーヒーの毒性を消すとされる牛乳を加えた「カフェ・オ・レ」も考案され、フランス独特のコーヒー文化が形成されました。
オーストリアのウィーンでは、1683年の第二次ウィーン包囲がコーヒー普及の契機とされます。
伝説では、オスマン軍が放棄した物資の中にコーヒー豆を発見したスパイ、コルシツキーが最初のコーヒー・ハウスを開いたとされていますが、記録によればすでに1660年代からウィーンにはコーヒーが存在していたようです。
ウィーンのカフェは客が好みの牛乳や生クリームの量を調整できる点が特徴で、「ウィンナ・コーヒー」など独自の飲み方が生まれました。
ドイツでは1670年頃からコーヒーが上流階級の贅沢品として愛飲されましたが、18世紀後半、プロイセン王フリードリヒ2世がコーヒー消費を抑制するため禁止令を発布しました。
この間、庶民はチコリや大麦で代用コーヒーを作り、「ドイツのコーヒー」として長く親しまれたのです。
フリードリヒ2世の死後、規制が解除されると本物のコーヒーが再び普及しましたが、代用コーヒー文化はフランスや他の地域にも影響を与えました。
スカンディナヴィア半島にも18世紀にコーヒーが伝わり、当初は健康に悪影響を及ぼすと批判されておりましたが、19世紀以降急速に消費が増加し、今日では世界屈指のコーヒー消費国となっております。
このように、コーヒーはヨーロッパ各地で異なる文化や社会状況に合わせて受け入れられ、単なる飲み物を超えて、人々をつなぐ媒介としての役割を果たしてまいりました。
一杯のコーヒーには、地域ごとの歴史と物語が香り立つのでございます。
参考文献
マーク・ペンダーグラスト著、樋口幸子訳(2002)『コーヒーの歴史』河出書房新社