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第5波に備えるコロナ病棟 緊急事態宣言はなぜ延長されるのか

倉原優呼吸器内科医
(写真:WavebreakMedia/イメージマート)

第4波はピークアウト?

私は大阪府の軽症中等症病床で新型コロナの診療にあたっていますが、大阪府は第4波がようやくピークアウトしてきた印象です。まだ重症病床には数多くの患者さんがおり多数の死亡者が出ている状況ですが、ホテル療養者数や新規入院要請例が急減しており、重症病床の逼迫もいずれ改善されるものと予想されます。

大阪府では一時、軽症中等症病床で多数の人工呼吸器装着患者さんを診ざるを得ない状況に陥ってしまい(下図の緑部分)、「えっ!あの病院で人工呼吸器装着患者さんを診ているの!?」という話もよく耳にしました。人工呼吸器の使用が急増したことにより、プロポフォール(商品名ディプリバン)という鎮静薬の流通が懸念される状況にまで陥りました。

大阪府の重症患者数[5月25日時点](筆者作成)
大阪府の重症患者数[5月25日時点](筆者作成)

「なぜ軽症中等症病床で人工呼吸器装着患者さんの診療がしにくいか」については、以下の記事を参照ください。

■参考記事:新型コロナの「重症化」とは? 人工呼吸器を装着したら、実際どうなるのか?(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210504-00235518/

大阪府の事態を受けて緊急事態宣言に踏み切った東京都では、第4波は第3波のピークを超えることはなく経過しています。現時点では、重症病床の逼迫も前波ほどひどい状況には陥っていません(下図)。

東京都の重症患者数[5月25日時点](筆者作成)
東京都の重症患者数[5月25日時点](筆者作成)

しかし、北海道の感染状況は現在かなり厳しい状況にあり、全国の重症者も本日最多を更新しています。「かなり地域差があるな」というのが今回の第4波の印象です。

緊急事態宣言の延長

現在発令されている緊急事態宣言の延長について、政府は5月28日にも正式決定する方向で検討に入っています。新規感染者数がピークアウトしつつあるのに、なぜ延長されるのか疑問に思う方もいるかもしれません。

大阪府の第4波が始まったのは、人流が増える卒業・入学シーズンでした。そこに変異ウイルスという要素も加わり、第3波をはるかに超える速度で患者数が急増し、大阪府の「医療崩壊」につながったものと考えられます。

さて、良くも悪くも私たちは、新型コロナ慣れ・緊急事態宣言慣れをしてしまっている部分があります。

自身の感染対策はバッチリだろうと自信を持っている人が増えており、第4波に入院した新型コロナ患者さんと話をすると、「しっかり感染対策していたのに感染するとは思わなかった」と言う人がたくさんいました。

ピークアウトしつつあるとはいえ、大阪府は現在、第3波よりもはるかに病床逼迫が厳しい水準にあります。もともと600床あまりある重症患者用のベッドの半数以上を新型コロナのために割くという、ドーピングのようなことをしているので、現在、コロナ禍前のような集中治療室運用ができている病院はほとんどないと思います。

今宣言を緩和すれば、間違いなく6月中に新規感染者の急増が起こりますので、発射台が高くなる分、第5波は地獄のような事態になる可能性があります。そのため、政府・自治体としては緊急事態宣言の延長はやむを得ないものと考えられます。

ワクチンは間に合うのか

ハンマー・アンド・ダンスでは、おそらくこの新型コロナを収束させることは不可能なのですが、ワクチンの普及に時間がかかるため、ロックダウンがしにくい日本ではこうした施策を小出しにする道を選んでいます。

※ハンマー・アンド・ダンス

ハンマー:感染が急拡大した後、休業要請や外出自粛などの制限を行うこと

ダンス:制限を緩和し、経済の回復と感染拡大防止のバランスをとること

政府が全力をあげて取り組んでいるワクチン接種。現場として気になっているのは、これがどのくらいのスピードで接種されるかです。現在高齢者を中心にワクチンの接種が行われていますが、副反応の懸念や、遠出ができないなどの理由もあって、ワクチンの接種率が100%になることはなさそうです。もしかすると、残念ながら60%とか70%という数値になるかもしれません。

そうなると秋には、まだ新型コロナ患者さんをたくさん診療している可能性がありますから、その過程で何度かまた波がやってくることを想定しておく必要があります。

緊急事態宣言の緩和がいつになるか、という要因も影響するものの、これまでの波の傾向を見る限りでは、7~8月頃に第5波が到来することになるのではないか、と考えています。現場の医療従事者に感染症数理学の知識はあまりないのですが、「多分そうなるのだろう」と覚悟を決めつつ、日々診療にあたっています。

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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