幻に終わった「火星12」による「グアム包囲作戦計画」 は復活するか!
北朝鮮はこれまで核実験とミサイル発射については予告した通り、実行してきた。そのことは6度の核実験、2006年から2017年にかけての5度にわたる人工衛星と称した長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射で立証済みである。
(参考資料:北朝鮮の今朝のミサイルは中長距離弾道ミサイルか!?)
北朝鮮が2017年11月29日に発射した大陸間弾道ミサイル「火星15」も金正恩(キム・ジョンウン)総書記がこの年の新年辞で「最終段階に達した」と述べ、一週間後に北朝鮮外務省報道官が「任意の時刻と場所で発射される」との談話を出していた。
しかし、北朝鮮が公言しながらも実行に移さなかったケースも2度ある。1件が太平洋上での水爆実験であり、もう1件が2017年8月8日に公表した「火星12号」4発による「グアム包囲射撃計画」である。
中長距離弾道ミサイル「火星12」が初めて発射されたのは2017年5月14日。北西部の平安北道・亀城付近から発射された「火星12」はロフテッド方式で発射され、高度は2111km、飛距離は787km。直角で発射すれば、飛距離は4500km前後になる。平壌からグアムまでは直線で3500km前後なので、グアムを完全に射程に収めることができる。
北朝鮮は米国の独立記念日に当たる7月4日と28日にICBM級の「火星14」を発射したことに国連安保理が制裁決議「2371号」採択したことに反発し、金総書記自らがロケット戦略軍司令部に対して「米帝の侵略装備を制圧、牽制するための強力かつ効果的な行動案を検討せよ」と指示していた。
戦略軍司令部はこの指示に従い、「核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告シグナルを送るため、中長距離戦略弾道ロケット『火星12』(4発)によるグアム周辺包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」との報道官声明を8月8日に発表した。
金洛謙(キム・ラッキョン)戦略軍司令官(当時)は声明の中で「8月中旬まで作戦計画案を最終完成させ、核兵力総司令官(金総書記)に報告し、発射待機態勢で命令を待つ」と述べていたが、2日後の10日には「発射されれば島根、広島、高知を通過し、射程距離3、356.7kmを17分45秒間飛行した後、グアム周辺30~40km海上に着弾することになる」とその詳細を明かしていた。
北朝鮮が「グアム包囲射撃計画」を明らかにするやトランプ大統領は即刻「北朝鮮が米国を脅かすなら今直ぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」とツイートしたが、CNNはトランプ大統領の発言を「北朝鮮に対する極めて異例の最後通牒である」と伝えていた。
マティス米国防長官(当時)もまた、8月9日に「政権の終末と国民の破滅を招く行動を中断せよ」とのコメントを出し、「北朝鮮が強行するならば軍事力行使も辞さない」と北朝鮮に対して警告を発していた。
これに対して金総書記も8月14日に戦略軍司令部を訪れ、トランプ大統領に対して「情勢を最悪の爆発寸前に追い込んだ今の状況はどっちが不利か損得をよく考えろ。軍事衝突を防ぎたかったら米国がまず正しい選択をし、それを行動で見せろ。辱めを受けたくなかったら理性的に思考し、正確に判断せよ」と啖呵を切って見せたが、予告していた「火星12」の連射については「惨めで辛い時間を味わっている愚かなアメリカの動向をもう少し見守る」と発言し、うやむやにしてしまった。
トランプ大統領は金総書記が「もう少し見守る」と述べたことを「非常に賢明で、理にかなった判断を下した」として褒め称えたが、北朝鮮が中止を求めていた米韓合同軍事演習は予定通り行っていた。
北朝鮮は「火星12」によるグアム包囲射撃は自制したものの金総書記の発言から約2週間後の8月29日と9月15日に「火星12」をそれぞれ1発発射していた。ロフテッドではなく、正常な角度から発射され、9月15日の「火星12」は最高高度800km、飛距離3700km、19分飛行し、襟裳岬2200km先に落下していた。飛距離も飛行時間も金洛謙戦略軍司令官が述べたとおりだった。