【エイジテック革命】第4回 超高齢社会の課題解決に向けて"エイジテック"は何を目指そうとしているのか
【エイジテック革命】連載第4回は、エイジテックの特徴について整理してみたいと思います。エイジテックは高齢者を対象としたテクノロジーですが、このテクノロジーは、主に何を目指し、どのような社会の実現を目指そうとしているのでしょうか。
それは大きく言えば、“高齢者の課題解決”なのですが、より詳細に言えば、(1)エイジング・サポート(加齢サポート)、(2)エイジング・イン・プレイス(在宅で老いる)、(3)リスク予防・防止、(4)ソーシャル・エンゲージメント(社会的繋がり)という4つのテーマとして括ることができるでしょう。これらのテーマをAIやセンサー、ビッグデータなどの技術によって実現しようとするのがエイジテックなのです。
(1)エイジング・サポート(加齢サポート)
人は年齢を重ねると、否応なく身体や五感、認知機能に衰えが生じてきます。そうなった場合に、例えば、われわれは、老眼鏡や補聴器、杖、車椅子、その他の機器や補助器具に頼ることで、損なわれた機能を補おうとします。さらに要介護ともなれば、介助者による援助という人的サポートを得て、今までの生活の維持を図ろうとします。
エイジテックは、今までの補助器具や福祉機器の機能の機能向上を果たすことに加えて、新たなサポート方法や機器の開発により、高齢者の自立生活を支援します。
新たなリハビリ技術なども、失われた機能を回復させるという意味でエイジング・サポートの範疇に含めることができるでしょう。
エイジング・サポートの海外エイジテック事例としては、高齢者の自立歩行をサポートするパワー・スーツのサイズミック(Seismic)、視覚障害者を支援するAI音声認識デバイスのオーカム(OrCam)、車いすでの移動をサポートするセンサーのブレイズ・モビリティ(Braze Mobility)などをあげることができます。またリハビリ関連のエイジテックとしては、VR(ヴァーチャル・リアリティ)を活用したテレヘルスプラットフォームのXRヘルス(XRHealth)、同じくゲーミフィケーションを活用したVRリハビリのニューロ・リハビリ(VRNEURO REHAB VR) などがあります。
(2)エイジング・イン・プレイス(在宅で老いる)
エイジテックは、自宅での利用を前提にユーザー設計されている製品サービスが比較的多いのですが、それは取りもなおさず、多くの高齢者が住みなれた場所で安心して老いていきたいと望んでいることを反映している所以でしょう。エイジテックは、エイジング・イン・プレイス=在宅で老いることを望む人々、の支援技術とも言えます。
伴侶が亡くなった後に一人で生活を続けることには、なにかと不安・不便が生じるものです。また、一人暮らしの親の様子を心配する子供も多い。そうした親子の不安解消ニーズをエイジテックは叶えます。緊急事態が起きた場合の備えを果たすのもエイジテックの役割です。高齢者の話相手になるコミュニケーションロボットのエリQ(ElliQ)、コンセントに差し込むだけで高齢者を見守るセンサーのケアアラート(CareAlert)などのエイジテック技術が注目されます。
さらに自宅での健康管理や在宅介護・看護・医療サポートもエイジテックの範疇となります。
今後さらに増加する高齢者の介護サポートを人的パワーのみで対応するのは困難になってくるでしょう。エイジテックは、そうした負荷のかかる労働を軽減し、効果的な介護・看護。医療サービスを提供するために機能していくことが期待されています。
こうした分野では、オンライン処方箋のイノベーションであるピルパック(PillPack)、スマートスピーカーを活用した見守りサービスのアマゾン アレクサ ケアハブ(Amazon Alexa Care Hub)、AIを活用したヴァーチャル介護人のアディソン・ケア(Addison Care)などのエイジテックがあります。
(3)リスク予測と予防
3つめのテーマは、さまざまなリスクの予測と予防です。高齢者の日常生活は、ある意味でつねに各種のリスクと隣り合わせであるとも言えます。リスクの種類は、極めて幅広く、高血圧や糖尿病などの慢性疾患からの重篤化リスク。筋力の低下により転倒・骨折してしまうリスク。認知機能が低下する認知症になるリスク。こうした身体機能や認知機能の低下に伴うリスク以外にも、交通事故リスク、風呂場や階段でのリスク、金融被害にあうリスクなど、さまざまな生活リスクが高齢期には満ちあふれています。
エイジテックは、こうした高齢期に起こる確率の高いさまざまなリスクの発生確率を予測し、予防するためのテクノロジーでもあります。
リスクの予測を可能とするメイン・テクノロジーが、センサーやビッグデータ、AI(人工知能)などのデータサイエンスです。対症療法的な治療から一歩踏み込み、あらかじめ予測して備える、定量的な予測データに基づく予知予防が可能となりつつあります。
今後は、個人のコンディションを定量データとして把握することで、パーソナルなサービスを提供することがエイジテックで可能となるのです。
乗っただけで1年後の転倒予測確率を予測する計測器のジブリオ(ZIBRIO)高齢者の健康状態の変化をいち早く感知するケア・プレディクト(CarePredict)、会話音声を通じて認知症、うつ病などの早期発見を可能とするウインターライト・ラボ(Winterlight Labs)、高齢者の金融資産をAIで監視し詐欺被害を防止するエバーセイフ(EverSafe)などの製品サービスなどがあります。
(4)ソーシャル・エンゲージメント(社会的繋がり)
そして最後がソーシャル・エンゲージメント(社会的繋がり)です。“人と人をつなぐための技術”と言ってもいいでしょう。先にも述べた通り、高齢期になると伴侶や友人知人を失い、人との社会関係が次第に希薄になっていきます。それと同時に自分でできることが少しずつ減っていくことで日常での生活困難を抱えることになってしまいます。
そうした困難を、ボランティアや近隣の人々と繋がり、彼らのサポートやアドバイス、見守りや援助などを得ることで自立した生活を維持することができる。そうした人と人をつなぐ技術が、エイジテックの4つめの特徴です。
高齢者の困りごとお助けプラットフォームであるナボールフォース(Naborforce)、高齢者と子供たちを繋ぐオンライングローバルヴィレッジのエルデラ(Eldera)、ウーバーやリフトなどアプリベースのサービスを代行するゴー・ゴー・グランドペアレンツ(GoGoGrandparent)などがソーシャル・エンゲージメントのためのエイジテック事例です。
今回名前を挙げたエイジテックの製品サービスについては、今後の連載の中で随時説明をしていきたいと思います。
【過去の連載】