楽天が受け入れる研修コーチはWBCで活躍し、韓国を格下から宿敵に変えた「国民的右翼手」
日本と韓国が国際大会で対戦する時、この言葉をよく目にする。
「宿敵」
その言葉が確かなものとして使われるようになったのは、13年前のある瞬間がターニングポイントになっている。それまでの日本から見た韓国は「宿敵」ではなく、実力差から見て明らかに「格下」だった。
その瞬間の当事者である韓国の元選手が4月5日に来日。今シーズン、東北楽天でコーチ研修を行うことになった。昨季限りで現役を引退した元外野手のイ・ジンヨン(李晋暎)氏(38)だ。
通算打率3割、2000本安打の左の巧打者
イ・ジンヨン氏は1999年にドラフト1次指名でサンバンウルレイダースに入団。同球団はその年限りで消滅し、2000年からは新球団のSKワイバーンズに所属した。SKでは07、08年と優勝しアジアシリーズで来日。09年からLGツインズ、16年からKTウィズでプレーし、昨年、20年間の現役生活を終えた。
通算成績は2,160試合に出場し2,125安打(歴代6位)、169本塁打、979打点。通算打率3割5厘を誇る、韓国球界を代表する左のアベレージヒッターだった。
冒頭に記した瞬間とは2006年3月5日、東京ドームで行われた第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンド・日韓戦でのことだ。
韓国を「格下」から「宿敵」へと変えたスーパーキャッチ
2-0で日本がリードの4回裏、1番イチローが四球で歩き、2死満塁となった2番西岡剛の場面。右打席の西岡が1ストライクから放った打球はライト線方向へと飛んでいった。
この打球に対し、少し前寄りに守っていたライトのイ・ジンヨンは斜め後ろに疾走。ボールが落下してくると、イ・ジンヨンは頭から思いっきり飛び込んだ。そしてボールは右腕いっぱいに伸ばしたバックハンドのグラブへと収まった。
3アウトチェンジ。日本は追加点のチャンスを逸し、韓国にとってピンチを救ったスーパーキャッチとなった。
このプレーに対し東京ドームに集まった4万人の観客は大きな拍手。その音はレフトスタンドの一角から聞こえた韓国応援団が叩くスティックバルーンの激しい破裂音とは違う、柔らかくやさしい音だった。場内を包んだのは格下の相手が見せたファインプレーへの、日本のファンからの賞賛の拍手。余裕の表れだった。
しかし場内に漂う日本側の余裕のムードは、この拍手を最後になくなっていく。イ・ジンヨンの好守を分岐点に試合の流れは完全に韓国へと傾いたからだ。韓国は5回表に1点を挙げて1点差に迫り、そして8回表にイ・スンヨプに逆転2ランが飛び出して韓国が勝利を収めた。
その後の日韓の対戦はアメリカでの2次ラウンド、北京五輪予選、本戦、第2回WBCと「死闘」と呼ばれるような戦いばかり。イ・ジンヨンのダイビングキャッチを境に、両者の対戦で球場内に穏やかな空気が流れることは一切なくなった。
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「国民的右翼手」を楽天に導いたのは石井GMとパク・チャンホの縁
イ・ジンヨン氏に現役生活で最も印象的なシーンについて聞くとこう話した。「たくさんの国際大会に代表選手として出場したので、やっぱり3大会連続で出場したWBCや北京オリンピックでの瞬間、瞬間が一番印象深いです」
具体的な場面については、「日本の人は思い出したくないかもしれないけど」と前置きして挙げたのが、前出のライトでのダイビングキャッチだった。第1回WBCではその後も、ライトからホームへの好返球など美技を連発したことから、イ・ジンヨン氏は韓国で「国民的右翼手」と呼ばれている。
楽天でコーチ研修をすることになった経緯についてイ・ジンヨン氏は、「パク・チャンホ(朴賛浩)先輩(ドジャース、オリックスなど)にコーチ研修の相談をしたら、石井一久GMにつないでくれたと聞いている。とてもありがたいことだ」と話した。
平石監督と同い年の「松坂世代」
イ・ジンヨン氏は1980年生まれ。「平石(洋介)監督が同い年ということも知っている」と来日前から楽天について関心を示していた。
イ・ジンヨン氏、平石監督の学年はいわゆる「松坂世代」。イ・ジンヨン氏は高校3年生の時に松坂大輔らが代表入りした、1998年初秋の第3回AAAアジア野球選手権大会(甲子園球場)に韓国代表として出場している。
「松坂、新垣(渚)、村田(修一)、そして杉内(俊哉)もいましたよね。日本も韓国もすごいメンバーでした」とイ・ジンヨン氏は振り返った。
(関連記事:韓国の松坂世代が振り返る 怪物との20年前の対戦と現在地)
イ・ジンヨン氏は楽天で基本的に2軍での研修となるが、「1軍も見てみたい」と希望したところ球団の配慮で、一部期間1軍にも帯同する予定だという。平石監督と対面する機会もありそうだ。
現役時代、明るく温和な性格と冴えたトークでも親しまれたイ・ジンヨン氏。楽天では自身の豊富な経験を下地に、首脳陣や選手と上手にコミュニケーションを取りながら、日本の育成システムのノウハウを吸収していくことだろう。
[参考]韓国の元選手の日本でのコーチ研修
韓国の元選手のNPB球団でのコーチ研修は以前よりは減っているが、昨年は巨人にイ・ホジュン現NC打撃コーチ、埼玉西武にチョン・デヒョン現東義大投手コーチが2軍に帯同していた。コーチ契約を結んでいない場合は、通常、無報酬で滞在費などは自己負担となる。
※本項目は韓国KBOリーグ各球団から写真使用の許可を得ています。