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最新研究「アイコス」から発生する微粒子とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:Shutterstock/アフロ)

 最新の研究で、アイコス(IQOS)を吸った際に含まれるエアロゾルに特徴的な微粒子の振る舞いが観察された。特に燃焼温度が高くなった場合、揮発されない微粒子が発生し、その健康への影響は未知数だが十分に警戒すべき現象だという。

有害物質1/100でも十分危険

 タバコ煙から発生する微粒子に数千種以上の発がん性物質が含まれているというのは今や常識だ。これらの物質はタバコを吸う際の不完全燃焼で発生し、副流煙のほうに有害物質が多いことからもそれがわかる。

 喫煙者や受動喫煙でがんの発生率が高いのはこうした発がん性物質のせいだが、この場合、不完全燃焼で生じる物質の評価が重要となる。これまでの研究(※1)によれば、発がんリスクは1立方cmあたり3〜6個の微粒子濃度が基準となり、それら微粒子の表面積では1立方cmあたり60〜120平方mm(※2)となり、それらの表面積や粒子の粒径にも注目するようだ。

 タバコという製品は、一度に大量消費をするわけではない。毎日少しずつ長期間にわたって吸い続け、それが20年以上も継続され、その結果として発がんしたりCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの喫煙関連疾患にかかる。

 発がん確率で喫煙による影響だけを見積もった増分のことを生涯過剰発がんリスク(Excess Lifetime Cancer Risk、ELCR)という。タバコ由来のニトロソアミンやその他の有害物質が前述の研究(※1)による基準で、身体に影響する場合、最も予想可能なELCRは0.2〜0.6となるようだ。

 有害物質のリスク指標(※3)では、ELCRが10万分の1(0.00001)以上で発がんの危険性が明らかとされているから、タバコによる有害物質の影響はその数万倍も高くなる。つまり、従来の紙巻きタバコよりも有害性が低いとタバコ会社により喧伝されているアイコスなど加熱式タバコについていえば、発生する有害物質が仮に100分の1の量としてもまだ十分に発がんのリスクは高いままだ。

アイコスから発生する微粒子とは

 フィリップ・モリス・インターナショナル(以下、PMI)のアイコスは、2014年11月に日本の名古屋とイタリアのミラノで先行テスト販売が開始された。その後、2016年4月から全国展開され、2017年11月には日本のタバコ市場におけるシェアは約12%にまで上昇している。日本で先行して使用者数が伸びているアイコスだが、次第にほかの国や地域への広がり、PMIによれば370万人以上がアイコスを使用しているようだ。

 日本と同様、アイコスが先行販売されたイタリアの南ラツィオ・カッシーノ大学(University of Cassino and Southern Lazio)などの研究者が発表した最新の研究(※4)によれば、アイコスの主流煙(喫煙時に吸い込む煙、エアロゾル)を調べてみたところ、加熱温度が300℃の場合、微粒子の粒径が約1/5(約20nm:約100nm)に小さくなることがわかったという。PMIによれば、アイコスは火を使わずに350℃以下でタバコ葉(ヒートスティック)を加熱している。

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今回のイタリアの研究者が使用した測定機器類。Via:A Pacitto, et al., "Characterization of airborne particles emitted by an electrically heated tobacco smoking system." Environmental Pollution, 2018

 微粒子の数は加熱温度が上がっても減らず、また不揮発性物質は常にエアロゾル中に存在していた。数が同じで粒子の大きさが小さくなれば、全体としての表面積は増える。これら不揮発性の微粒子の表面積は、1パフ(吸引)あたり1〜2平方mmで、これは欧米で使用される一般的な電子タバコで検出される微粒子表面積の約4倍になるという。

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上は微粒子の粒径で温度が上がるごとに小さくなっていく。下は微粒子の数で温度が上がっても増減はほとんどない。Via:A Pacitto, et al., "Characterization of airborne particles emitted by an electrically heated tobacco smoking system." Environmental Pollution, 2018

 前述したように、喫煙習慣は長期にわたり、寝ているとき以外は定期的に使用するのが特徴だ。アイコスを1パフ吸い込むごとに1〜2平方mmの微粒子が身体の中へ入ってくることになる。1立方cmあたり60〜120平方mmが一定の基準になるとすれば、アイコスの使用は長期的な健康にどんな影響を与えるのだろうか。

 仮に1日10本のヒートスティックを使用する場合、1ヒートスティックあたり10数パフとすれば1日100数十パフほどになる。単純に計算すれば、少なく見積もっても1日100平方mmの微粒子面積になるだろう。これら微粒子のすべてがタバコ由来の発がん性物質ではないが、表面積でみれば1日で基準値に達してしまう。

 これを毎日何年も続ければ、あとはもう考えるまでもなくどんな影響が表れるか容易にわかるはずだ。

※1:Luca Stabile, et al., "Smokers' lung cancer risk related to the cigarette-generated mainstream particles." Journal of Aerosol Science, Vol.107, 41-54, 2017

※2:1平方mm:1辺1ミリの面積:cm-3(センチメートル・マイナス3乗)という単位は立方cmの体積あたり何個の粒子があるかという意味

※3:"Committee on Carcinogenicity of Chemicals in Food, Consumer Products and the Environment."(2018/05/17アクセス)

※4:A Pacitto, et al., "Characterization of airborne particles emitted by an electrically heated tobacco smoking system." Environmental Pollution, Vol.240, 248-254, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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