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名古屋の伝説のカフェ本から15年。『はるばるカフェ』著者が語る“令和のカフェシーン”

大竹敏之名古屋ネタライター
『はるばるカフェ ―名古屋からの小さな旅―』を出版したこんどうみきさん

前作『カフェうらら』は自費出版ながら異例のヒット

名古屋のカフェ好きにとっては伝説的なバイブル『カフェうらら』。2007年に出版され、ローカルの自費出版本としては異例の1万2000部以上を販売するベストセラーとなりました。それから実に15年、著者のこんどうみきさんが久しぶりの新刊『はるばるカフェ ―名古屋からの小さな旅―』を出版しました。

『カフェうらら』(左)は名古屋を中心にカフェ、雑貨店を紹介(現在は絶版)。『はるばるカフェ』は東海地方(愛知・岐阜・三重・静岡)の80軒を掲載する。リベラル社、5月26日発売、1650円(税込)
『カフェうらら』(左)は名古屋を中心にカフェ、雑貨店を紹介(現在は絶版)。『はるばるカフェ』は東海地方(愛知・岐阜・三重・静岡)の80軒を掲載する。リベラル社、5月26日発売、1650円(税込)

このタイミングで新たなカフェ本を刊行することになった理由は? 15年の間にカフェ事情はどう変化した? 前作と今作の違いは? こんどうさん自身は何かが変わった・・・? 気になるあれこれを尋ねることにしました。

さらに80軒の掲載店の中から特に「本当にはるばるだった」3軒を特別にセレクト。あわせてお楽しみください。

こんどうみきさんインタビュー。「郊外に魅力的なカフェが増えている」

―― 『カフェうらら』の出版から実に15年。このタイミングで新しいカフェ本を出すことになったきっかけは?

こんどう 「よく“15年ぶり”といわれるんですけど、その間に関東のカフェの本を出したり自費出版のリトルプレスをつくったりもしていて、何もせずにいたわけじゃないんですよ(笑)。『カフェうらら』を出した後、一度東京へ行って、名古屋へ戻って結婚して出産してと、ずっとあわただしくて気持ち的にも時間的にも余裕がなかったんです。でも2年ほど前から子育てもやっと少し落ち着いてきて、急に企画書を書きたくなりました。『カフェうらら』の後に“本を出しませんか”と声をかけてくれた出版社はいくつもあったんですが、こちらがバタバタしてお応えできなくて。そんな中、ずっと忘れずにいてくれたリベラル社さんに企画を提案して、本をつくることになりました」

―― この15年でカフェシーンにはどんな変化がありましたか?

こんどう 「郊外の“えっ、こんなところに!?”とびっくりするような場所に魅力的なカフェが増え続けています。例えば岐阜県の恵那や三重県のいなべ~菰野のあたりにも、ここ数年でそんなお店がぐんと増えました。生まれ育った田舎を盛り上げたい、という店主も多いです。自家焙煎などコーヒーに力を入れるカフェも増えています。ドリンクに無料でついてくるモーニングサービスではない朝食メニューを出すカフェも増えたかな。個人的にカフェでの静かな朝時間が大好きなのでうれしいです」

――『はるばるカフェ』というタイトルに込めた思いは?

こんどう 「今回はあえて名古屋市外の郊外にあるカフェばかり紹介しました。私自身、年齢を重ねたこと、子育て中であること、また密を避けることが推奨される社会状況もあって、郊外のカフェでのんびり過ごすことが増えました。そういうお店はたどり着くまで不安になるようなへんぴな場所にあったりして、宝探しのような気分にもなれる。名古屋から近ければ30分、遠くても2時間ほどの場所でも、はるばる来たような小さな旅の気分も楽しんでもらえればと考えました」

写真もこんどうさんが撮影。「窓の外の景色が印象的なカフェが多いので、表紙のカバーも窓の形に切り抜いて、窓の先に心地いいカフェが見えるというイメージにしました」
写真もこんどうさんが撮影。「窓の外の景色が印象的なカフェが多いので、表紙のカバーも窓の形に切り抜いて、窓の先に心地いいカフェが見えるというイメージにしました」

―― 昔ながらの喫茶店にも注目が集まるようになったのも近年の変化と感じます

こんどう 「古きよきものを慈しむ感性の人が増えたのでしょうか? 昭和ノスタルジーブーム…? マニアックだった世界が徐々に一般化してきたようにも思います。メニューも空間もレトロかわいい感じが若い女性にもウケるようになりましたよね。ネオ喫茶的なお店も増えたし、店名に『カフェ』ではなく『喫茶』とつけるお店も増えていますね」

―― 拙著『名古屋の喫茶店』で対談した時のテーマが「喫茶店とカフェの違いとは?」。あらためて両者の違いは?

こんどう 「ますます分からなくなってきましたが(笑)、やっぱり長い歴史のあるお店を『喫茶店』と呼ぶのがしっくりきます。もちろん、カフェも喫茶店も好きですし、呼び方だけの問題なので普段は気にしていません」

拙著『名古屋の喫茶店』(2010年・左)での対談以来、12年ぶり(!)のツーショット
拙著『名古屋の喫茶店』(2010年・左)での対談以来、12年ぶり(!)のツーショット

子育て中だったから気づいたカフェの魅力

―― 子育てしながらだと取材も大変だったのでは?

こんどう 「育児しながら東海地方のカフェの開拓はずっと続けていて、プライベートで家族と一緒にあちこち行っていたんです。“いつか本にまとめられるといいな”という思いもあったので、行ったついでに写真も撮らせてもらっていました。そうやって撮りだめしていた情報が大半で、出版が決まってから慌ててリサーチや取材をして、ということはほとんどありません。あくまでお客さん目線で撮った写真ばかりですし、記事もプライベートでの訪問記=紀行文なので、読者の人たちにもそれぞれのカフェで過ごす疑似体験をしてもらえるのでは、と思っています」

―― 子育てをする母親になったことで、カフェの選び方、過ごし方などに変化は? また子連れで行く際に重視すること、気をつけていることは?

こんどう 「子ども連れを快く受け入れてくれそうなお店かどうかをまず調べます。キッズスペースやキッズチェア、キッズメニューがあればウエルカムだと分かりますが、ジュースかミルクがあれば候補にはなる。テラスや座敷があれば行きやすいですね。お店では、子どもが騒ぎ出しそうになったら表に連れ出すのは絶対。カフェの心地いい雰囲気ってその場にいるすべての人の過ごし方次第でもあるので、お店の雰囲気を壊さないよう注意しています。子育て中だからこそ非日常を味わいたい気持ちが強くなり、カフェの魅力やありがたみをあらためて感じるようになりました」

本にも掲載の「Archi-Pel-Ago」(愛知県長久手市)にて、お子さんと。こんどうみきさん提供
本にも掲載の「Archi-Pel-Ago」(愛知県長久手市)にて、お子さんと。こんどうみきさん提供

喧騒を離れてカフェで過ごす時間を楽しんで

―― 今作では80軒のカフェを紹介。この本で初めて知るお店がほとんどでした

こんどう 「普段は取材を受けてない、メディア初登場というお店もたくさん紹介しています。『カフェうらら』を読んでくれていた方も多くて、“だったら…”と掲載を承諾してくれたお店も少なくありませんでした」

―― 『カフェうらら』は自費出版、今回は出版社からの刊行。自分の中で何か違いはありますか?

こんどう 「〆切がタイトだったこと以外は(笑)、自由につくらせてもらえたのでそれほど違いはありません。ただ、『カフェうらら』の時は、検本して、しおりをはさんで、本屋さんに届けてと全部1人でやっていて、しかも判型が大きくて重いので、増刷のたびに大量の本が自宅に届くのが恐怖だったんです(苦笑)。たくさんの人が読んでくださるのはもちろんうれしかったんですけど、その手間が辛くて、まだ注文があったのにもかかわらず増刷するのを打ち止めにしちゃいました。今回はその作業をしなくてもいいので、純粋にたくさん売れてほしいと思えるのが大きな違いかもしれません(笑)」

装丁・デザインは『カフェうらら』に続き盟友のデザイナー・生田恵子さんが担当。挿絵がパラパラ漫画になっていたり、紙の本ならではの遊びや工夫が随所にほどこされている
装丁・デザインは『カフェうらら』に続き盟友のデザイナー・生田恵子さんが担当。挿絵がパラパラ漫画になっていたり、紙の本ならではの遊びや工夫が随所にほどこされている

―― どんな人に読んでほしい、どんな風に使ってほしいと思っていますか?

こんどう 「落ち着いたカフェが好きな人。田舎や自然が好きな人。おいしい地物を食べたい人。旅やドライブが好きな人。紙の本が好きな人。SNSに疲れた人。癒しを求めている人。何かと滅入ることが多い世の中だからこそ、休日には喧騒から離れて日常を忘れて、心身を休めに掲載されているカフェに足を延ばしてみてほしいです。ただ、実際に出かけられなくても、この本をお茶のおともにして、少しでも気持ちをゆるめてもらえたらうれしいです」

名古屋の書店でも大々的に展開しているところが多い。写真はらくだ書店本店(名古屋市千種区)
名古屋の書店でも大々的に展開しているところが多い。写真はらくだ書店本店(名古屋市千種区)

『はるばるカフェ』掲載・「本当にはるばるだった」カフェ3選

素敵なカフェが満載の同書の中から、とりわけ「はるばる」度が高いお店を、著者・こんどうみきさんに選んでもらいました。

「庭禾(にわか)」(愛知県瀬戸市)

『はるばるカフェ』66ページ(こんどうみきさん撮影)
『はるばるカフェ』66ページ(こんどうみきさん撮影)

「お店へと続く赤い細い橋を渡るのにちょっとひやひやして、名古屋のすぐお隣の瀬戸市にありながら、すごく田舎まではるばる来た気分を味わえます。畳の小上り席もイス席もあり、いろんな世代が過ごしやすいのも魅力です」(こんどうさん)

「build a bridge」(岐阜県恵那市)

『はるばるカフェ』51ページ(こんどうみきさん撮影)
『はるばるカフェ』51ページ(こんどうみきさん撮影)

「“えっ、こんなところに!?”という里山にあるカフェ。例えば目玉焼きが乗ったハンバーグに味噌汁、ごはんと、家でつくれそうな献立なのにこれがとびきりおいしい。かまど炊きのご飯も格別です。まったりできて、子どもも大好きな一軒です」(こんどうさん)

「MY HOUSE 山の麓の雑貨と喫茶」(三重県いなべ市)

『はるばるカフェ』31ページ(こんどうみきさん撮影)
『はるばるカフェ』31ページ(こんどうみきさん撮影)

「鈴鹿山脈のふもと、途中に手づくりの小さな看板がぽつんとあるくらいで、“ここにカフェがある”と分かっていなければ絶対たどり着けません。料理の食材は周辺で採れた山菜やキノコ、猟師でもある旦那さんが獲った鹿肉など。場所もメニューもワイルドで、田舎暮らしの楽しさを共有させてもらえます」(こんどうさん)

◆◆◆

名古屋から近いのに“はるばる”行けるカフェを紹介する『はるばるカフェ』。名古屋の人がお出かけのガイドブックとして活用できるのはもちろん、全国の人が旅気分を味わえる一冊となっています。スマホで“今行きたい”場所の情報を得るのも便利ですが、手間暇と愛情をもって編まれた紙の本で“いつか行ってみたい”一軒に思いをはせるのもいいんじゃないでしょうか。

『はるばるカフェ ―名古屋からの小さな旅―』紹介ページ(リベラル社)

(写真撮影/筆者 「本当にはるばるだった」カフェ3選および「Archi-Pel-Ago」の写真はこんどうみきさん撮影、提供)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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