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MF林穂之香のゴールで優勝候補のアメリカに勝利!U-20女子W杯初戦で光った日本のハードワーク

松原渓スポーツジャーナリスト
U-20女子W杯初戦で優勝候補のアメリカと対戦(筆者撮影)

【ビューティフルゴール】

 それは、息を呑むようなゴールだった。

 フランスで行われているU-20女子W杯で、U-20日本女子代表は初戦でアメリカに1-0で勝利。貴重な勝ち点3を手に入れた。

 アメリカは、A代表がFIFAランク1位の強豪で、20歳以下でもドイツと並んで大会最多3回の優勝を誇る、今大会の優勝候補。それでも、日本は「(優勝するためには)初戦が大切」と、全員が声をそろえて臨んだ一戦だった。

 夜7時半のスタートにもかかわらず、29℃という暑さの中で試合は拮抗し、消耗戦の様相を呈した。そんな中、日本の決勝ゴールが生まれたのは、試合も終盤に差し掛かった76分。相手陣内の左サイド中央でMF宮澤ひなたがカットインから仕掛け、アメリカのボランチのハウエルが辛うじてスライディングでボールを弾く。このこぼれ球にいち早く反応したのが、MF林穂之香だった。

「キーパーが(前に)出ていて、ゴールが見えた」という林は、同時に詰めてきたFWソフィア・スミスをファーストタッチで縦にかわすと、ゴールまで30m以上もある位置から左足を一閃。緩やかに上がったボールは枠を越えるかと思われたが、ゴール手前で落ちるような弧を描き、GKローレル・アイヴォリーの伸ばした指先を越え、バーに当たってネットを揺らした。

アメリカ戦で決勝ゴールを決めた林穂之香(写真:Kei Matsubara)
アメリカ戦で決勝ゴールを決めた林穂之香(写真:Kei Matsubara)

 張り詰めた緊張感を打ち破るビューティフルゴールに、会場の空気がため息と大歓声に包まれる。続いて、林の周りに白いユニフォームが重なった。その後、日本の選手たちは、地元のサッカー教室でフランスの子どもたちに約束していたダンス(※スウィッシュ・スウィッシュダンス)をゴールパフォーマンスとして披露。会場の盛り上がりに華を添えた。

 日本に貴重な勝ち点3をもたらしたゴールを必然にしたものの一つが、林の「経験」だ。

  2016年の前回大会に最年少で出場し、大会3位に輝いた林は、各国のスタイルや間合いを肌で知っている。その中で、自身の得意とするボール奪取やミドルシュートに一層の磨きをかけてきた。言葉で多くを語るよりも、背中で見せることにこだわり、この試合では守備面でも大きく貢献。89分に足を攣(つ)って動けなくなるまで走り抜いた。

【封じられたパスワークと、発揮された粘り強さ】

 時間とともに日本に傾いた流れも、林のゴールの呼び水となった。

 日本のスターティングメンバーはGKスタンボー華、ディフェンスラインは左からDF北村菜々美、DF南萌華、DF高橋はな、DF牛島理子。林とMF長野風花のダブルボランチに、両翼は左が宮澤、右がMF宮川麻都。FW植木理子とFW宝田沙織が2トップに並ぶ4-4-2。

 29日のオランダとの親善試合(1-1)でも機能していた布陣だが、前半は、日本の良さである攻撃の連動性が影を潜めた。守備のアプローチにばらつきが生じ、攻撃に転じた際の距離感が遠い。アメリカも日本のキープレーヤーたちの特徴を入念に研究してきたのだろう。日本は司令塔の長野が厳しいマークに遭って攻撃にリズムが生まれず、守備を強いられる時間が続いた。

 そんな流れに変化が生じたのは、後半だ。

「これがW杯(の重圧)だな。その中でも、もっと自分たちができることを続けて、チャンスを掴もう」

 ハーフタイムに、池田太監督は選手たちにそう声をかけて送り出したという。そして、潮目を変え、流れを引き寄せたのは、このチームの最大の武器でもある「ハードワーク」と「粘り強さ」だった。

 時間の経過とともに疲れが見えてきたアメリカは、60分過ぎから、前線にスピードのあるアタッカーを続けて投入。対する日本は複数で囲んでスピードに乗らせず、相手のラストパスやシュートに対しては、徹底して体を投げ出した。ビルドアップ時の判断ミスからカウンターのピンチを招く場面もあったが、両サイドバックの北村と牛島は容易に相手の足元に飛び込まず、辛抱強くけん制した。

 41分と79分に、ゴール前でGKと1対1を作られた大ピンチは、GKスタンボーの的確な判断で事なきを得る。さらに、1点をリードした終盤には、コーナーキックをヘディングで綺麗に合わされたが、牛島がゴールライン上でクリアするファインプレー。

 最終ラインでは、南が相手のエースに入るボールをことごとくインターセプトし、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出された。南は試合後、勝利のポイントとして、「苦しい時間帯に失点しなかったこと」を挙げている。

 その中で、相手GKが焦れてポジションを上げてきたのを、林や南をはじめ、何人かの選手が察知していた。また、このチームが貫いてきた「遠くから積極的に足を振る」コンセプトと練習の成果も、林のゴールの伏線になっていた。

【中2日で迎えるスペイン戦】

 アメリカ戦から中2日で9日(木)に迎えるスペイン戦では、攻撃面の精度向上に期待したい。

 練習してきた以上のものは出せないが、林のように、体格差やリーチ差を補って余りある予測や準備の部分は、大会中に個々が調整し、向上させていくことができる。たとえば、この試合で果敢に自分の持ち味を出そうとチャレンジした宮澤のプレーは印象的だった。国内と異なるスピードや強度の中で予測がずれる部分もあったが、ドリブルの軌道や相手の裏をとるタイミング、守備のアプローチに迷いがない。76分のカットインからの仕掛けは成功しなかったものの、結果的に林のゴールにつながった。

 失敗以上に貴重な成功体験を得たであろう18歳は、試合後、「1試合を通して、自信のあるプレーをもっと出していきたい」と、すでに次戦に目を向けていた。

 グループリーグ初戦の8試合を終えて、ここまでの各試合のゴールシーンを見ると、ロングシュートやクロスからの得点が多い印象を受ける。その中で、林の決勝点も、FIFA選出の大会ベストゴール候補になった。

 次に続くのは誰か。日本は他にも、2トップの植木や宝田、宮澤に加え、アメリカ戦の後半から交代でピッチに立ったMF遠藤純やFW村岡真実、MF福田ゆいなど、ロングレンジのシュートを狙える選手が多く、スペイン戦でも貪欲に狙っていきたい。

 スペインは、ドイツやイングランドなど、錚々たる強豪国を退けて欧州予選首位で今大会への切符を勝ち取った優勝候補の一つ。日本は前回大会も同じく第2戦で対戦し、0-1で敗れている。今大会で日本が入ったグループは、いわゆる「死の組」。だが、この正念場を乗り越えた時、グループリーグ突破に大きく近づき、チームは大きく成長しているはずだ。

 第2戦のスペイン戦は、08/09(木) 23:20(日本時間)キックオフ。フジテレビNEXTで放送される。

 

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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