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対艦ミサイルが自爆ドローンに取って代わられない理由

JSF軍事/生き物ライター
ロシア国防省よりP-500バザーリト改良型のP-1000ヴルカン対艦ミサイル

 いわゆる使い捨ての無人機である自爆ドローンあるいはカミカゼ・ドローンと呼ばれる兵器とミサイルの境界線は曖昧です。自爆ドローンとはドローンではなくミサイルの一種とする分類を採用した軍隊や軍需企業も多いくらいです。また一口に自爆ドローンといっても種類が幾つかあります。

主な自爆ドローンの分類

  1. プログラム飛行型(GPS誘導)・・・陸上固定目標のみを狙う。事実上、小型で安い巡航ミサイル。
  2. 徘徊型(パッシブレーダー誘導)・・・レーダー波を検知して自動で突入する。電波の発信源しか狙えない。
  3. 徘徊型(遠隔操作のカメラ映像誘導)・・・固定目標だけでなく車両など移動目標も狙える。ただし通信が必要になるので電子妨害に弱い。

 プログラム飛行型は小さな巡航ミサイルと見てよいです。徘徊型は長時間滞空して敵を発見次第に突入する点で通常のミサイルとは異なりますが、その徘徊型の走りである対レーダー自爆無人機「ハーピー」を開発したイスラエルのIAI社は、徘徊型を「Loitering munition system (徘徊弾薬システム)」と呼称して、ドローンではなく弾薬扱いしています。

 将来、ドローンに高度な人工知能(AI)が搭載されて目標を自己判断で敵・味方・第三者を識別して攻撃できるようになれば、自律型致死兵器システム(LAWS)と呼ばれる自動戦闘兵器に進化して戦場の様相を一変させるゲームチェンジャーに成り得ますが、現在はまだAIの進化は其処までには到達できていません。

 現状では陸上の目標を自動で探し回って発見して突入する兵器は、レーダー波を検知して発信源に向かうパッシブレーダー誘導の徘徊型自爆ドローンくらいです。戦場でレーダー波を出している民間人など居ないので、民間人を巻き添えにしないようにと識別に気を遣う必要が無いので気軽に投入できます。

 そしてもう一つ、自動で突入させてよい条件の兵器があります。洋上の敵艦を狙う対艦攻撃兵器です。海の上にも民間船は居るわけですが、陸上で車両や人間のレベルで目標を識別するよりは容易です。戦闘海域になると前以て退避勧告していれば、巻き添えも起きにくい・・・こうして、レーダーで目標を発見して突入する対艦ミサイルが発展していきます。

対艦ミサイルの登場

 第二次世界大戦で先ず無線指令誘導式の対艦ミサイルが登場し、更にアクティブレーダー誘導式の対艦ミサイルも登場しましたが、初期のアクティブレーダーでは目標の正確な識別ができませんでした。敵艦隊は輪形陣を組んで外周に護衛艦艇が配置されます。中央に居る空母を狙いたくても、護衛艦艇を先に見付けて突入してしまうと空母が狙えません。

 そこでレーダー反射の大きな艦を空母と見做して、レーダー反射の小さな艦を狙いに行かないように設定します。しかしレーダーで捉えた範囲に小さな艦しか居なければそちらに突入してしまいます。また攻撃の際に適度に護衛艦艇も撃破したほうが空母まで突破できる確率も上がります。つまり敵艦隊の規模に応じて、捉えた目標のそれぞれを攻撃するかしないかを適切に判断し、複数で同時攻撃するミサイルの向かわせる目標を適切に割り振ることが理想的です。

 しかしこうした操作は第二次世界大戦後に暫く経っても完全な自動化はできず、後方に通信電波を飛ばして操作員がミサイルを制御していた時期もあります。しかしそれでは電波妨害に弱くなりますし、通信の為に見通し線を確保させようとするとミサイルは高度を上げねばならず、敵に見付かりやすくなってしまいます。

 こうして編隊を組み目標の割り振りを自動で行う賢い対艦ミサイルが登場します。判断をミサイル自身にやらせてしまうのです。

P-500バザーリト対艦ミサイル(1975年)

  • 8発で編隊を組む。
  • リーダー弾のみ高く飛び、パッシブレーダーで敵艦隊を捜索する。
  • 編隊のミサイル間でデータリンクを行い目標情報を共有する。
  • リーダー弾が撃墜された場合は編隊から順次交代を出す。
  • アクティブレーダーで敵艦隊を捉え、反応の大きな艦を空母と判断。
  • 敵空母と推定される目標に編隊から核弾頭搭載弾を差し向ける。
  • 通常弾頭搭載弾は護衛艦艇に差し向けて突破を援護させる。

 1975年に登場したソ連海軍の長距離対艦ミサイル「P-500バザーリト」はこれだけの複雑な判断を自動で行います。驚くことに50年近く前の兵器が、まるで今唱えられている将来想定されているドローン・スウォーム(無人機の群れ)のような戦い方をしています。

 ただしこれは「対艦ミサイルが向かった先に敵艦隊しか居ない」という前提で攻撃ができるからこそです。海上戦は軍艦と民間船を分けて単純化しやすく、民間人が戦場で入り混じりやすい複雑な陸上戦とは条件が大きく異なります。陸上戦で使う想定の将来のドローン・スウォーム戦術とは全く別です。

 対艦ミサイルが自爆ドローンに取って代わられない理由とは、海上戦が単純な場所なので高度な人工知能など必要無く、既に対艦ミサイルは必要十分な賢さを半世紀も前に手にしていること。戦闘艦は強力な電子妨害能力を持つので遠隔操作型ドローンは通用しないこと。そして戦闘艦を撃破するには弾頭重量は重くあるべきであり、戦闘艦の強力な防空兵器を突破するためには鈍足なプロペラ推進など駄目でジェットエンジンで・・・それはもう対艦ミサイルなのです。自爆ドローンを大型化したら、それはもうミサイルと何も変わりがありません。

 戦闘艦が対艦ミサイルではなく自爆ドローンを搭載するとしたら、小さな哨戒艇などなら向いています。この場合は交戦を想定する相手も小さな哨戒艇になるので、大型の対艦ミサイルが必要ないからです。

 ですが大型艦と交戦する気なら、従来通り対艦ミサイルとなるでしょう。スクラムジェット極超音速巡航ミサイルや極超音速滑空ミサイル、対艦弾道ミサイルなど新たな種類のミサイルが加わることはあっても、ミサイルが対艦兵器の座を自爆ドローンに取って代わられるような未来はやって来ないのです。

【関連】誤解:「イージス艦ですらドローン攻撃に対処できない?」と論文の読み方(2021年8月5日)

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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