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再び北朝鮮がイスカンデル短距離弾道ミサイルを発射、今年8発目

JSF軍事/生き物ライター
北朝鮮発表より8/6発射の北朝鮮版イスカンデル短距離弾道ミサイル

 8月6日早朝、北朝鮮の南西部にある黄海南道からミサイル2発が発射され半島を横断して日本海に着弾しました。韓国軍は短距離弾道ミサイルと推定、そして翌8月7日に北朝鮮は「新型戦術誘導弾」を発射したことを公表、映像から北朝鮮版イスカンデル短距離弾道ミサイルと確認されました。これにより今年に入って北朝鮮はイスカンデルを4回目の試射となり合計8発が発射されています。大型ロケット弾と合わせると6回の試射で合計12発を発射しています。

 なお発射前日の8月5日からアメリカ空軍の弾道ミサイル観測機RC-135Sコブラボールが沖縄県の嘉手納基地から黄海方面に飛んでおり、アメリカ軍は北朝鮮が黄海側にミサイル発射機を展開していることを事前に掴んで連日警戒していた模様です。

 韓国軍は8月6日のイスカンデル発射について水平距離450km、最大高度37km、最大速度マッハ6.9以上と発表しています。7月25日のイスカンデル発射では水平距離600km、最大高度50~60kmだったので、浅い弾道のディプレスト軌道の条件をさらに浅く変更して試験が行われたものと思われます。なお最大速度は以上とあるので、さらに速い可能性があります。

 最大高度37kmはTHAAD迎撃ミサイルの最低射高40kmを下回っている為、この条件でイスカンデルが発射された場合は全飛行領域でTHAADを無力化できます。ただし平均飛行高度は37kmよりさらに低くなるので、大気圏内用のPAC-3迎撃ミサイルの迎撃範囲に捉えられる機会はむしろ増えます。また射程450kmで韓国南部の釜山を狙おうとする場合には38度線から数十km以内に発射車両を展開する必要があり、前線に近すぎて生存性の面で難があります。それでもTHAADを無力化できるという衝撃は大きく、今回の試射はこれを狙ったものだったのかもしれません。

 イスカンデルの飛行特徴であるディプレスト軌道は浅い弾道という特性だけで射程が短くなりますが、低い高度を長く飛ぶことになるので空気抵抗の影響が大きくなり更に射程が短くなります。そこでイスカンデルは降下後に機首を引き起こすプルアップ機動を行って機体を水平にして滑空することで揚力を得て飛距離を稼ぐ設計です。イスカンデルの特徴である角度が二段階になっている弾頭コーン形状は、機首尖端に近い最初の段差を衝撃波の起点とすることで最後部の操舵翼を衝撃波の影響から守りつつ、細い弾頭として成立させて空気抵抗低減を狙っています。

北朝鮮発表より参考画像:2019年5月試験時の北朝鮮版イスカンデル
北朝鮮発表より参考画像:2019年5月試験時の北朝鮮版イスカンデル

 この発想をもっと進化させて弾頭部分を航空機のグライダーのような形状にしたものがブーストグライド兵器(極超音速滑空兵器)となります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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