米国・イタリア映画祭上映決定!大ヒット映画『翔んで埼玉』に見る 共感を得て社会的課題解決するカギとは
映画『翔んで埼玉』がヒットしている。興行通信社によると週間映画ランキングで1位(2月23日〜3月1日)。3月3日までの公開10日間で興行収入9億5000万円となっている。米国やイタリアの映画祭での上映も決定したそうだ(デイリースポーツ2019年3月6日付21面)。
平日の昼間に大入り
筆者は埼玉県のシネマコンプレックスで観た。平日の昼間なのに大入りでびっくり。世代も、高校生から高齢の方まで、幅広かった。
内容としては、主演の一人であるGACKT(ガクト)さんがインタビューで語っている通り、「大人がものすごくまじめにくだらないことを必死にやっている」「壮大な茶番劇」。何しろ大人が高校生役をやっている。しかも主演の二人(二階堂ふみさん・GACKTさん)とも、沖縄出身。埼玉ではない。
でも「くだらない」と言いながら、ふたを開けてみれば大ヒット。そこには、今の時代に社会からの共感を得て、貧困や食品ロスなど社会的課題を解決するカギも含まれている。
「1位を競い合うんじゃなく、互いを認め合おう」
ネタバレになるのであまり言わないが、映画の中で、GACKTさんが語る「1位を競い合うんじゃなくて、互いを認め合えればいい」という趣旨のセリフがある。
思えば、皆がこぞって1番を競い合った結果が、「毎年、右肩上がりの目標達成」で、「大量生産・大量販売・大量消費」の世の中ではないだろうか。もう飽和状態なのに「もっともっと」と欲を求める。身の丈ではない。
マイノリティ(社会的少数者)が虐げられてきた過去からの脱却
2019年アカデミー賞で3部門を受賞した映画『グリーンブック』では、1960年代、アメリカ合衆国の特に南部で、マイノリティ(社会的少数者)として激しい差別を受けてきた黒人が描かれている。アカデミー助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリは、同じく1960年代のNASAを支えた黒人女性を描いた映画『ドリーム』でも、主人公と結婚する男性を演じている。
これまではマイノリティが虐げられ、「1番」の強者が全てを牛耳る世の中だった。それで許されてきた。
国連は「誰一人取り残さない」社会的課題の解決はCI(コレクティブ・インパクト)
2015年9月、国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、「誰一人取り残さない」を基本の理念に掲げている。先進国さえ、自分さえよければいい、ではない。地球上の全員がよくなることを目指している。
貧困や食品ロスなど、社会的課題の解決の分野では、世界的にコレクティブ・インパクト(Collective Impact)というアプローチが主流になってきている。立場の異なる組織同士が、どちらが上、ではなく、フラットな(平等な)形で協力し合い、社会的課題の解決を目指すものである。
食品ロスは食品業界のヒエラルキー(上下関係)が一因となっている
筆者は14年5ヶ月勤めた食品メーカーを経て独立し、NPO(フードバンク)の広報を務めた経験から、食品ロスの一因は、食品業界のヒエラルキー(上下関係)だと考えている。
たとえば、
食品メーカーに対し、小売(コンビニ・スーパー・百貨店など)が課す「欠品NG」。欠品すると取引停止にされるかもしれないから、足りなくなってはいけない。余らせるぐらいでないと。
食品メーカーが小売に納品する納品期限は賞味期間全体の3分の1。菓子など賞味期限が6ヶ月なら、納品期限はたった2ヶ月。それを過ぎたら小売は受け入れない。輸入菓子だとますます厳しい。
小売が販売する販売期限は、賞味期間全体の3分の2。それを過ぎたら棚から撤去し、メーカーに返品される、もしくは廃棄。
小売に納品する場合、日付の逆転は許されない。前日納品の賞味期限より一日たりとも古いものは、たとえペットボトル飲料でも許されない「日付後退品」。
などなど。
今問題となっているコンビニ問題もそうだろう。本部と加盟店主(オーナー)は労使関係にない、との本部のコメントがあったが、そこには明らかな上下関係がある。マージン(粗利益)は全店舗が五分五分ではない。売れ残り食品のコストも8割以上、オーナーが持つ。これで対等な関係と言えるのだろうか。
「ハードロー」で合法でも「ソフトロー」で社会から批判されると企業経営すら危うい
「廃棄削減は国の仕事でセブンじゃない」1ヶ月60万円食品を捨て続けるオーナーに取材して感じる心の麻痺という記事を書いた直後に見つけた、東洋経済コンビニ記事に補足したい「ソフトロー」視点という記事が興味深かった。
たとえ「ハードロー」では合法であったとしても、「ソフトロー」で社会から批判されると、企業経営すら危うくなる、というのである。
筆者の理解では、これは人間味のある対応、心ある姿勢ではないかと考える。愛のない対応をする企業は社会から批判される。これは、ビジネス書でしばしば取り上げられてきた。
たとえば、銀座ママ麗子のビジネス書シリーズに『マーケティングは愛』というタイトルの書籍がある(株式会社ナナ・コーポレート・コミュニケーション発行)。株式会社資生堂の代表取締役社長兼CEOの魚谷雅彦氏は、日本コカ・コーラ会長時代、『こころを動かすマーケティング』(ダイヤモンド社)という著書を上梓している。経営における「思い」の大切さを訴えた書籍『MBB:「思い」のマネジメント 知識創造経営の実践フレームワーク』(東洋経済新報社、一條和生・徳岡晃一郎・野中郁次郎)は、最も大切なのはトップの「思い」であり「ビジョン」である、と語っている。
ダサいけど「愛」
上下関係で、上が下に指示して強要する形より、今の時代は「シェアリングエコノミー」。お互いが平等な(フラットな)立場でやりとりし、必要とあれば「シェア(共有)」する形に変わってきている。
映画『翔んで埼玉』も、思いっきり埼玉県をディスりながらも、そこには埼玉への愛がある(筆者注:「ディスる」disrespectの単語から由来。侮辱する、見下す、などの意味)。
社会的に弱い立場にある人を思いやる気持ちや、人間味のある対応こそ、今の社会から共感を受け、広く受け入れられるのだと思う。ダサいけど、大切なのは「愛」ではないか。
映画『翔んで埼玉』を観に行ったら、最後のエンドロールで流れる主題歌、はなわさんの「埼玉県のうた」まで座って聴いて欲しい。てっきり佐賀県生まれだったと思っていたはなわさん、まさか埼玉県に縁があったとは・・・。