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かつて値引き禁じて公取排除措置命令のセブン本部、今度は「値引き推奨」上限8億円超を全国2万店舗に

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
セブン-イレブン(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

2024年5月13日からセブン-イレブン・ジャパンが始めた見切り(値引き)販売、通称「エコだ値(エコだね)」。この値引き販売を促進するため、セブン本部は、2024年6月と7月の2ヶ月間、1店舗あたり上限4万円(6月に上限2万円、7月に上限2万円)の値引き金額を渡すという。いわば本部による値引き推奨だ。昨日5月25日(土)、セブン-イレブン・ジャパン本部から加盟店に対し、正式に発表されたと関係者から報告を受けた。

2009年6月、「値引き禁止」で公正取引委員会から排除措置命令

15年前の2009年6月、セブン-イレブン・ジャパン本部は、加盟店が見切り(値引き)をして弁当を販売することを禁じたことが「優越的地位の濫用」にあたるとして、公正取引委員会から排除措置命令を受けた(1)(2)。

本来、値引きしてでも売り切り、貴重な食品を無駄にしないことは、経済的にも、環境的にも、社会的にもよいことのはずだ。それを禁止した。

そして15年経った2024年5月、今度は180度方向転換して「値引き推奨」となった。

2024年6月・7月におこなう値下げ支援とは

今回おこなう値下げ支援は、セブン本部いわく

「発注の仮説が難しくなる梅雨・盛夏の時期に機会ロス・廃棄ロス削減による売上・利益の最大化を目的」

としている。

「廃棄ロスの削減」より「機会ロスの損失」を先に書いているところから優先順位が読み取れるようだが、考えすぎだろうか。

値下げして販売した値下げ金額を、税抜きで上限4万円(6月の上限2万円、7月の上限2万円、合計4万円)を店に払う。

対象商品は、いわゆる日持ちのしない「デイリー商品」といわれるものが中心だ。

セブン-イレブン・ジャパンの親会社であるセブン&アイ・ホールディングスは、食品などの廃棄量をグループ全体で2030年までに2013年度比で半減させる計画とのこと(3)。

販売期限で商品棚から撤去された食料品(加盟店オーナー提供写真)
販売期限で商品棚から撤去された食料品(加盟店オーナー提供写真)

加盟店オーナー「ばらまき」

1店舗あたり2ヶ月で4万円というのはあくまで上限であって、必ずこの金額を本部が使うわけではない。ただ全国のセブン-イレブン店舗数21.551店に4万円をかけて単純計算すると、その金額は8億6,204万円となる。

セブン-イレブン加盟店のあるオーナーは「ばらまき」だと語っている。2024年5月中旬の本部会議で、見切り(値引き)販売を促進するために、チャレンジ予算をばらまくことに決定した、と。(チャレンジ予算とは、セブン本部が期間限定でおこなう販売促進のための予算のこと)。

別のオーナーは「nanaco(ナナコ)カードを持っている客しかポイントをつけないエシカルプロジェクトは愚策だった」と語る。エシカルプロジェクトとは、おにぎりなど、消費期限の迫った食品にシールを貼り、自社のポイントカードであるnanaco(ナナコ)カードを持っている客であれば、100円あたり5円相当のポイントがつく、というものだ(通常なら100円で1ポイントなので5倍)(4)。

今回の「エコだ値」のテストをおこなった際、他のオーナーからも「エシカルプロジェクトはシールが無駄」「エコだ値とエシカルの2種類のシールを貼るのは作業負担が大きく、エシカルプロジェクトは止めたほうがいい」という声が多く、結局、2024年8月31日をもってエシカルプロジェクトは終了するとのこと。

そもそも、ただの値引きなのに「エシカル(=倫理的)」とは名前と実態とがかけ離れているし、全体の顧客のうち、nanaco(ナナコ)カードを持っている客は20%程度と推察されている中、すべての客にメリットが得られない方策だった。

2020年5月から始めていた「エシカルプロジェクト」(筆者撮影)
2020年5月から始めていた「エシカルプロジェクト」(筆者撮影)

一店舗あたり468万円/年(中間値)の廃棄

今回の「エコだ値」の対象商品のメインは、おにぎりや弁当といった、日持ちしないデイリー商品。一方、対象外なのが、廃棄食品やセブンカフェ・スムージー。

今回、本部が値引きを推奨するように方針を転換するようになったのはよいことだと思う。

だが、忘れてはいけないのは、わざと余らせて値引くのが本来の姿ではないということだ。2020年9月2日に公正取引委員会が発表した値では、大手コンビニエンスストアは一店舗あたり年間468万円(中間値)に匹敵する廃棄を出している(5)。

これは民間給与所得者の平均年収458万円(6)を上回る金額だ。

公正取引委員会の発表値、一店舗あたり468万円の廃棄金額をセブン-イレブンの全国の店舗数21,551に掛け算して単純計算すると、1,008億5,868万円となる。食料価格が高騰し、食料不足、肥料・飼料の高騰、気候危機が叫ばれる中、見過ごせない金額だ。

われわれ消費者としては、今回の値下げ支援費用8億円超は、どこから来ているのかを考える必要がある。商売は、顧客がいてこそ成り立つ。もとはといえば、客が払った金ではないだろうか。マスメディアの多くが、多額の広告費を払ってくれる大手企業に対し、忖度した記事しか書かない昨今。メディアの情報だけを鵜呑みにせず、消費者自身が、企業の行動をよく観察し、真に顧客や社会を慮った行動なのか、それとも自社のアピールやパフォーマンスなのか、見極める必要がある。

参考資料

1)セブンイレブン本部「値引き禁止」で公取から排除措置命令 あれから15年経ち「値引き推奨」(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2024/4/20)

2)株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について(公正取引委員会、2009/6/22)

3)セブン、本部主導で値引き推奨 食品ロス削減へ方針転換【イブニングスクープ】(原欣宏、日本経済新聞、2024/4/19)

4)100円購入でたったの5円ポイント、しかもカード会員だけって「倫理的」?コンビニオーナー3名が語る(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2020/5/7)

5)(令和2年9月2日)コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査について(公正取引委員会、2020/9/2)

6)令和4年分 民間給与実態統計調査(国税庁)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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