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ハリウッド昼メロ俳優、盗難現場に居合わせて銃殺される。L.A.の住人に大衝撃

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「General Hospital」の一場面(ABC/YouTube)

 起きてはならない、しかし、起きるかもしれないとロサンゼルスの住人が常に恐れてきたことが、起きてしまった。善良な市民が、間違った時に間違ったところに居合わせたせいで、無惨にも貴重な命を奪われてしまったのだ。

 被害者が大人気昼メロドラマに出演していた俳優とあり、この悲劇は大ニュースとなってロサンゼルスのメディアで大きく取り上げられた。その俳優の名は、ジョニー・ワクター(37)。1963年に放映開始し、現在も放映中の超長寿番組「General Hospital」に、2020年から2022年まで、ブランド・コービン役で出演した。それ以外にも、「ウエストワールド」第3シーズンに2話出演したほか、いくつかのテレビドラマにゲスト出演をしている。2022年には「American Sognare」というインディーズ映画を撮り終えているものの、公開予定はわからない。

 全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)に加入する俳優のうち(映画やテレビドラマに出演するのであれば、この組合に必ず入る必要がある)、演技のみで生活を成り立たせているのは、わずか5%程度。ワクターも、ダウンタウンの屋上バーで、バーテンダーとして働いていた。

 現地時間金曜夜のシフトが終わった土曜日の午前3時25分頃、ワクターは、同僚の女性の安全を気にかけ、まず彼女を彼女の車まで送ってあげようとした。だが、その途中、自分の車の前を通りかかると、3人の男たちが、自分の車に何かをしているのを目撃。なんらかの理由で車が撤去されようとしているのかと思ったワクターは、男たちに何をしているのかと質問をした。すると、そのうちのひとりが突然銃を取り出し、ワクターを撃ったのだ。覆面マスクをしていた男たちは、すぐに現場から車で逃走。ワクターは、搬送先の病院で亡くなった。

銃を向けられた時、ワクターは、女性を守ろうと彼女の前に立ちはだかった
銃を向けられた時、ワクターは、女性を守ろうと彼女の前に立ちはだかった写真:REX/アフロ

 ロサンゼルス警察によれば、3人の男たちは、ワクターの車からキャタリティック・コンバーター(三元触媒)を盗もうとしていたとのこと。キャタリティック・コンバーターには貴重な金属が使用され、高く売れるため、近年、ロサンゼルスでは、車からこの部品が盗まれる事件が相次いでいる。あまりに多すぎて警察ももはやどうしようもないらしく、犯人の顔がはっきり見える防犯ビデオがあっても、何もしてくれない状況だ。保険でカバーはされるにしろ、増え続ける盗難のせいで在庫がなく、長いこと待たされ、車社会のロサンゼルスでは大きな不便を被ったという話をよく聞く。ようやく部品が入荷され、車が戻ってきたら、またやられたというケースもある。

 2022年、カリフォルニア州知事ギャヴィン・ニューサムは、盗まれたキャタリティック・コンバーターを売るのを難しくする州法に署名したのだが、被害は続くばかり。最も狙われると言われるのは特定の年に製造されたトヨタ・プリウスだが、ワクターの車はトラックだったと報じられている。

 ワクターは、サウス・カロライナ州サマーヴィル出身。小学生の時から学校の劇に出演し、大学を卒業すると、ハリウッドでのキャリアを目指して、ホンダ・シビックに荷物を積み、ロサンゼルスに向かった。最近は脚本執筆も試み始めていたということだ。

 3人の男たちに対し、ワクターは、決して攻撃的な態度を取らなかったという。男のひとりに銃を向けられた時、彼は後ずさりしつつ、女性の同僚を守るべく、彼女の前に立ちはだかったとのことだ。ワクターの弟グラント・ワクターは、「Daily Mail」に、「僕たちは南部の紳士として育てられたから」と語っている。3人の犯人が逮捕され、正義がなされることを強く願う。

 ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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